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魔王が可愛くて仕方ない勇者の話。  作者: 新村 蒼
俺が【魔王】と剣に出会う迄。
8/9

緊急で

「おい、ジジイなんかあったらシスター達に言えよ。変なとこで意地張んなよ。」

「へいへい」

「今日は冷えるので、暖かくして寝てください」

「俺はガキじゃねえんだ!わかってるわ!」

俺たちの過保護な対応にちょっとキレたジジイは俺たちに半ギレしながらおやすみ!!と言ってきた。

俺たちはため息まじりにジジイの家から帰った。

「…なあ」

「はい?なんでしょう」

「あれで良かったと思う?」

「クエストですよね、良かったんじゃないですか?変に気を使うのも違うと思いますし。」

ブランディの返答を聞きながら俺は頭の中え色々ごねごねと考える。

「…ジジイ、喜ぶことって何かな?」

するとブランディは目を見開く。その変な間をに違和感を感じた俺はブランディに聞く。

「…なんだよ?」

「いえ…少しびっくりして。」

「何にさ?」

「オーウェンって結構子供じゃないですか?」

「…まあ否定はしないけどよ」

「みんなが言うんですよ。男の子の成長は早くて急だって。

けれど、オーウェンは男の子なのに全然成長しないから実感なかったんですよ。」

俺はこの十年ほとんど毎日ギルドに顔を出してるからな。みんなが俺のこと甘やかすだのなんだのって。

入り出した頃なんて、俺のこと見て村に残してきた我が子が何か届けにでも来たのかと勘違いされたことすらあった。

「何が言いたいんだよ」

「支部長の発言に気を使うだけじゃなくて、人の喜ぶことがどんなんことなのか。自分だけじゃわからなかったから私に聞く。少なくとも私が覚えているオーウェンからは想像できないですよ。」

ブランディはそういい、俺の頭を撫でる。

ちなみにもう俺はブランディの背を抜かしている。

子供の頃は背が高く見えたけど、この歳になるとブランディが身長がかなり低いことがわかる。

俺の身長は平均くらいだが俺からはしっかりブランディのつむじが見える。

ブランディは背伸びこそしないものの腕をしっかり伸ばして頭を撫でている。

さすが私が育てただけはありますね、などと言いながら撫でてくる。この人自分が仕事に手を一切抜かないからなのか、自身は割とあるんだよな。

「…ブランディに育ててもらったから、少しは細かいこともできるようになったんだぜ?」

そう胸を張る。

「そうですね…」


次の日俺はまた冒険者ギルドに来ていた。

俺は目ぼしいクエストをいくつか手に取り受付へと向かおうとする。

今日も二つクエストをこなそうと思ってブランディのいる受付に顔を出そうと思ったのだが。

今日はその場所にブランディの姿がなかった。毎日受けてるクエストはブランディとひとこと、ふたこと相談するんだけどな。

俺は近くの冒険者に近づいて聞く。

「なあ、ブランディ今日どこいるか知ってるか?」

「あ?あーなんだオーウェンか、ブランディってあの褐色のねーちゃんだろ?んん、今日はまだ見てないな。午後出勤じゃないか?」

「いやそんな話は…いやありがとう」

おう、と手を振ってクエストを受けに行く冒険者を見送りながら、どうしたものかと考える。

どうやら冒険者も事情は知らなかったようだ。

でもそんな急にいなくなるか?あの完璧人間が?さすがにここひと月毎日顔出してるんだから話はあるだろう。

何かあったのかと心配しているとブランディが奥の部屋から出てくる。

「あ、ブランディいたのか、今日はこれとか受けようと思って…」

「…オーウェン、今日は少し違う依頼を受けてもらえますか?」

悩んだ様子で俺にそう言ってくる。

「…長期間、離れるような依頼じゃないよな?」

「受けたくなかったら…受けなくてもいいです」

はぐらかされた回答を俺はブランディからもらう。

「昨日すれ違った受付の子から話があって…悪質な奴隷商が近くにいる可能性があります。」

昨日受付嬢から聞いた話は教会の近くにお菓子をくれる男の人が頻出するらしく、その身分が安全なものか調べてほしいというシスター長からの頼みが上がった、という話だった。

昨日まではまだ早急の案件ではなかった。しかし、状況が変わった。

「今日教会に襲撃がありました。」

「なっ!!、子供達は?」

「現時点ではなんとも…。シスター長が下に降りた時にはみんないなかったらしく…。」

それは襲撃ではあったものの全く音のないものだったという。

そしてもう一つ謎なことが…。

「連れ去られた子供は大方が皆7歳から13歳の子供でした。」

その子供達だけが見つかっていないのだとか。

「襲撃にしてもシスター達が気づかないなんてことあるのか?」

「窓も破られておらず、子供達だけがいなくなっていたようで…」

俺がどうしたものかと考えているともう一つと悩んだようにブランディは口をひらく。

「…支部長も、確認に行かせたところ、いなくなっていたことがわかりました…。」

「…は?」

それは予想だにしない言葉だった。けど、あのジジイは変なとこで感がいいところがある。

もしかしたら子供達が攫われているのを防ごうとしたのかもしれない。

「そのクエスト、受けるよ」

「…」

きっとそういうと思っていたのだろう。

驚いた様子はないが、行かせてくれるそぶりでもない。

「…危険です。あれだけ大勢の人間を街の看守が気づくこともなくこの街の外へと運び出したのだとすれば…」

「わかってる。でも行くから。」

「…行かないで。」

決して怒鳴ったりしたわけじゃない。

けどなんだか低く唸るようなそんな声がブランディの喉に響く。

「…他の冒険者に任せればいいです。わざわざオーウェンが出る必要はないです。」

「でも今この街にはCランク冒険者以上はいないだろ?」

そう、今この街にはCランク冒険者以上はいなかった。

軒並みそこあたりの冒険者は今王都に駆り出されている。

なんと昨年王が死んだばかりなのだ。今年、この時期に王の戴冠式が行われるために各国から主要な戦力が王と周辺にかき集められている。うちの上位冒険者達は王都周辺の村への警備に行くのだとか。

「俺が、もしくは俺以外のDランク冒険者が行くことになるんだ。俺が行っても変わらない。」

「…せめて他の冒険者が来てから…」

「いや、時間がない。俺はもう…」

俺はそれだけ言い残すと、受理の手筈もまともに受けず、街の外へと向かう。

「オーウェン!!待ちなさい!!」

本気の叫び声が聞こえる。それは悲鳴のようにも聞こえた。

俺は他の冒険者の視線も気にせず俺は街を出た。


街の外に出ると、閑散とした森に入った。

本当に遠くに行く能力があるなら別だが、流石にあれだけの人間がいて誰の目にもつかずにどこかえ消えた。

俺の推察はスキルによるものではなく、魔法による能力で連れ去られたというものだった。

スキルと魔法の違いは一つ。スキルならば魔力の消費はないが、魔法ならば当然魔力は消費される。

きっと、すぐに遠くにはいけない。

しかし、痕跡が辿れるわけではない。

「…くっそ、どこだ!?」

だから俺は森の中を虱潰しに探すだけだ。しかも森は中に入れば入るほど森は鬱蒼としていていく。

どこだ、どこだ。どこだ!!

木をくぐり、枝をよけ、草むらをくぐり抜け、川に出る。

そんな光景を何度見ただろうか。

目が充血しても決して集中を切らさない。

ジジイなら…きっとしぶとく生きてるはずだし、もしジジイがこういうクエストを受けたのならしぶとく周りを見つめるはずだ。

しぶとく、しぶとく。

これがジジイの矜持だった。

すると…

「これ……。足跡か?」

足跡らしきものを見つける。それもかなり小さい。そしてその足跡は無数に群がっていた。

「これだ…!」




鬱蒼とした森の中を奇妙なピエロの着ぐるみをきた小太りの男がすすんでいく。

男は掠れた口笛を吹きながら、スキップをする。

手には手綱が握られていた。バリトンを先頭とした子供達の首を締め上げている縄がそれには繋がってた。

足が疲れ、うまく動かない子供達も多くその子供達は首を支点として引きずられる始末。

鬱蒼とした森を引きずられるのがよほど苦痛なのだろうか過呼吸になりながら引きずられる子供、ただ涙も流さずシスターと呟く子供、そしてそれを楽しそうに引っ張るピエロ。

子供達の苦痛が増していくにつれてその幸福さは上昇しているように見えた。

バリトンはこの状況を打開しようとしているのだが全く効き目がないようだった

「なあ、お前さん俺はこれでも支部長で権限があってな。俺一人でどうにか子供を見逃すってわけには…」

ピエロには聞こえていないのかピエロはスキップしながら相も変わらずその強靭な力でバリトン達を引きずる。

「なあ、お前さん。聞こえちゃいないのか?」

「ふんふふーん。」

何度目かわからない交渉にバリトンが若干苛立ちを見せる。

「…ちっ耳が聞こえちゃいないのか?こりゃどうしようも…」

すると急に男の様子が変わった。男が手綱を引くのを急にやめ、立ち止まり子供達の方向に振り返ったのだ。

バリトンが咄嗟に子供を庇うように男に向けて体を大きく広げたが、その両目にはバリトンしか写っていなかった。

「オデの耳はあの天上の方の、いと麗しき声を聞くことのできる耳」

そこまでは愉快そうに話していた男の様子が豹変する。いきなりバリトンの頭を掴むと変にズレたリズムを取りながらバリトンの頭を地面に叩きつける。

「オデの、耳は、彼の御仁の、声を、きく、耳!!」

どんどんとその声の高さは高くなる。

一通り言葉を唱えるともう一度元の低さに戻ってバリトンの頭を叩きつける

「オデの、耳は、彼の御仁の、声を、きく、耳!!オデの、耳はああああ!、かの御仁のおおおおおお!」

その異様な光景に子供達は半分パニックになりながら震えた手で首の麻縄を解こうとするがその麻縄は硬く、そして難解な形で何十にも結ばれていた。それを子供達が外せるわけもなく…。

子供達の阿鼻叫喚。バリトンの腹を絞るような悲鳴。そこはこの世で最も残酷な場所だ。

オーウェンが自分を忘れるくらいにはとんでもない場所だった。


茂みから急に飛び出したオーウェンは叫びながらピエロめがけて剣を振った。

「そこをどけえ!!」

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