冒険者ギルド
俺は最初拒否されるもんだと思っていたからそんなに簡単に返答が来るものだとは思わず俺は驚いた。
「え、本当にいいのかよ」
「なんじゃなりたくなかったのではないかね?冒険者に」
「いやそりゃなりたいけど…だってあんた一年前俺に冒険者やめるように言ってきた爺さんじゃねえの?」
「あそこでやめると言ったら止めっとっただろうなあ…けれどお前さんあの時嬉しがっただろう?」
この爺さんが何を言ってるか全くわからなかったからよくよく話を聞いてみるとこのクソジジイは俺を説得するためにあの時きたわけじゃないらしい。なんかよくよく話聞いたら、このギルドにあの時点で九歳の人間なんて働いていないらしい。もちろん業務とか簡単かつ、安全かつそしてとんでもなく退屈な作業をやってる子供はいるらしいが。
この死にかけは俺がどんな反応を示すかを見ていたらしい。
最初が冒険者がいかに危険かを解いて反応を見る。
おっさんが見た感じでは、まず話すら聞けないガキと判断したらしい。
この死にかけ!とっととしんどけ!!
で次の九歳の話をした時にこの死にかけは
「わしの初見じゃが…」
「おう」
「お主には気の毒じゃが…」
「…おう」
「多分じゃが残念なことにお前の頭には脳みそが詰まっていない。きっと詰まっているのは味噌と豆腐だろう。
だからお前が焼け死ねば上等な味噌汁が…」
「おいこのくそジジイ、てめえ黙って聞いてれば、もうとっくのとうにボケが始まってんじゃねえのか?」
「うーん残念なことながらボケが始まる脳みそはあるんじゃよ。全く気の毒じゃボケを始めることすらできない味噌豆腐脳みそのよりはマシじゃのうて」
「ぐぬぬぬ…」
俺がこのジジイに噛み付いているとジジイは急に黙りこくった。
はあ?なんでここで急に黙るんだよ?
そう、内心でブチギレていると
「正直な話、お前のようなものにとって冒険者は天職なのじゃ。というよりかは冒険者という職は人を選びすぎる。はっきり言ってまともな人間にできる職業ではない。確かにお前は生まれながらにした純粋なネイティブ脳なしじゃ。
しかしそういう奴にしか、いやそういう奴にこそ冒険者はできないのだ。」
ジジイの話的にはやはり俺みたいなやつを冒険者にすることはしたくないらしい。
が、あんまり俺が狂っているから気の毒に思って説得するのをやめたんだとか。
俺みたいなやつは冒険者に向いてる一方で普通には生きられない。
そうジジイは経験から学んだらしい。
だから帰って普通の道を進めるのは気の毒なことらしい。
シスター達にもそう説明したらしい。
実はあの後も何度かシスターが俺のことを説得するように頼んだらしい。
けどこのジジイは1回目の説得が終わった後は俺を冒険者ギルドで冒険者として雇うことに前向きだったらしい。
「自分の命を顧みず、人を助ける職業。やはりそんな損ばかりするような職業に就きたがる人間は多くはない。
けれどこの職業は今の世界に必要なんじゃよ。」
この世界は子供さらいとかで金を稼ぐ奴らがいる。
いつかの男も薬を安く買うために子供を攫っては売っていたらしい。
けれどあの日は子供が攫えなかった。そこに現れた絶好のエサが俺たちというわけだ。
「しかし、やはり冒険者というのは得をせん。それに危険じゃ。」
「そりゃ知ってるが…」
「一つだけお前に聞きたいことがある。」
ジジイはそういうとどこまでも見通せそうな目で俺の目を見る。
「お前の秀でたものはなんだ?」
俺は決して強くない。
それは今九歳ということもあるが、何か秀でた才能でこの世界に名を残すことはないだろう。
俺はそんな気がしていた。
きっとこの世界は俺ではない俺以外の強者を中心にして回っている。
けれど一つだけ誰にも負けないっ部分があるとすれば…。
少しだけ考えた後ジジイに目を合わせて答える。
「恐れないこと。これだけは絶対他の奴には負けない。そいつが魔王でも勇者でもエルフでもドワーフでもな。」
それだけいうとジジイは満足したように頷く。
「のう、儂の目は腐っておらなんじゃろ?ブランディ?」
ジシイは唐突に部屋の隅に目を向けたかと思うとその空間が歪んで急に一人の細身の女性が現れる。
細身ではあるがそこまで身長は高くないようで俺より大きいくらい、ジジイと同じような身長の高さ。
多分シスター達と同じ年齢だがシスター達より一回り小さいだろうか。肌はきめ細やかな褐色。
俺が目をぱちくりさせていると女性はため息をつきながら…
「どうやったらそんな冒険者になるためだけに生まれてきたような子供を見つけられるんですか?」
「儂の年の功という奴じゃな。」
「全く。…君、名前はなんていうの?」
「オーウェン」
「そう、じゃあオーウェン。今から冒険者ギルドのランク制度やら概要について説明するからそこに座って。」
ブランディは必要最低限のこと以外は何にも言わない。
そして、俺が最も嫌う取りつく島のない完全無欠の女って感じだ。
けど、俺にはわかるこの仕事ができそうなこの女に逆らうには俺のレベルが足りなさすぎる。
…怖いぃ!!!…
くっそ部屋の端っこでニヤニヤしてんじゃねえよクソジジイ!
確かに敵には本当に怯んだりしない。
でもこの人は敵じゃない。
だから、だからこそめんどくさい。なんつーかこの人と話すのは俺のストレス許容範囲を超えてる!!
今ナイフとかで戦えって言われた方がはるかに楽、だって勝てるし!!
そうして俺は学んだ。
世の中には敵に回した方が怖くない人もいるのだと。
「話を聞いていますか?」
「もちろんでございます。」
「では今の私が言った一文をもう一度、言ってください」
「クソジジイ、マジで死んでくれ、クソジジイ」
「では頭からもう一度…」
(マジかぁ…)
これが鬼の受付嬢との出会いだった。
冒険者ギルド。
ここにはE〜Aランクの冒険者がいる。
Eランクは駆け出し冒険者。仕事こそしょぼいものやらされているが、街や村なんかだと相当の力自慢とか喧嘩強くて有名なやつしかいない。一般市民に比べれば、はるかに強い人間達がこのランク帯を占めている。
Dランクここから相当強い人間しかいなくなる。はっきり言ってそこら辺の騎士三人が一気にかかってきても勝てる相手じゃない。強さは近衛騎士相当。ここから魔獣たちと戦う層になってくるが生還率は実は四割弱だ。相当強いが対魔獣経験がなかったり、狭い場所で戦ったりした経験がそこまでないものが多いのだ。でも決して弱いわけじゃない部類。
Cランク。ここから生還率は一気に上がり九割強となる。まず経験の充実がある。Cランクともなると様々な状況で様々な敵との戦闘経験。それに加え、基礎能力という点でもCランクは相当高い水準になる。
なんなら大貴族の近衛騎士団団長がこのランクC冒険者から抜擢されたこともあるほどだ。
おまけにこいつらは…いやこの人達は安全管理もお手のものだ。
まずクエストを受ける際に決して一人ではそのクエストを受注することはない。ランクC数人もしくはランクBに来てもらう。
ごく稀にではあるがD、Eランクにヤジを受けることもあるそうだ。Cランクにもなってどんだけビビリなんだよ、みたいなね。
でもランクCの奴らは知ってる。この職業が決して今日と同じ明日を担保してくれる職業じゃないと。
この心えがあってそれを実行に移せるからランクCになれたと言っても過言ではないんだとか。
Bランク。これは人外の領域。一方生還率は下がって六割。
このランク帯はもう人間にはどうにもできない相手だったり、Bランクの人間よりも強い人間が取り締まっている危険な組合だったり。このランク帯の人間はもう普通の依頼は自分でこなせない。Cランクの冒険者に付き添いを頼まれたりしない限りは極度の危険なクエストばかりをこなすことになる。
で最高ランクのAランクだが…
「いいですか?オーウェン、この話だけは聞きなさい。」
もう再三話を聞かない俺を諦めて、話し続けていたブランディだが、なんか、一層鬼の形相を強めたブランディに背筋が凍る。
いや冒険者の話面白いんだけどさ?どこまでいっても他人の話だからなー。
いやでもこの手の話は割と面白かったから真面目に聞いてたつもりだったのになんか聞いてないと思われたのは心外かも…。
まあ冒険者のランク帯の話になるまでは完全に右から入って左からそのまま抜けてるような状況だったけど。
「はい!!」
背筋を伸ばして話を聞く姿勢だけは作った。
「ランクAには近づかないことをお勧め…いえあなたにはこの話し方をしても伝わりませんね。
言い方を変えましょう。もしAランクの人間を見つけても近づかないでください」
「?なんでだよ?」
「Aランク冒険者ははっきり言って冒険者ギルドや国でも持て余しています。」
話を聞くとなんとAランク冒険者は国一個潰せるほどの人類をはるかに超越した力をもっている者なんだとか。
その力をもちろん国や都市を守る力として使えればそりゃもう儲けもんだけど…
「彼らは諸刃の剣です。
これはここだけの話ですがAランクはある意味蔑称の役割も果たしています。」
「…?」
「危険な…いえ、危険すぎる人間にもAランクという称号はつけられているということです。」
もちろんAランク冒険者なんて名誉高いものであることには間違いなのだが、常軌を逸しているという意味合いでもつけられるのがこの称号だとか。
純粋に強いだけ。それではAランクには上がらない。
E〜Bまでは単純な強さ順。
だけどAランクはまた違う観点で見られているのだとか。
だから昇格試験のようなものはなく、ギルドがAランクをつける必要があると感じたものにだけその検討会が行われるのだとブランディは言う。
「たとえば貴方は知っていると思いますが「慈悲の勇者」は今、Aランクの昇格を周りのギルドから考慮されています。」
「!もうBランクに…?」
「いえ、当初から、実力的にはBランクには申し分ないと言われていました。なのでギルド職員からすればほとんど驚きはないのですが。Aランクになるとは思いませんでした。」
そう淡々と話す彼女の横からジジイが暇を持て余したかのように近づいてきた。
「ま、信用のないところがAランクに誰々をあげるなんて話もよくあるから、儂らも最初そうかと思ったんじゃよ。
たとえば悪事の過ぎる冒険者ばかりを飼っているギルドとかな。しかし違ったのだ。なんと王都にあるギルド本部がかのものにAランクを授与すべきではないかと検討し始めた。」
「やっぱ、王都の本部ともなると違うもんなのか?」
「ああ、あそこが黒といえば白でも黒になる。少なくともギルド系列の権力下にあるわしらなんかは絶対服従。
貴族なんぞもあそこの決定だけは本腰を入れなければ覆すことができない。なんなら1個、2個しか白の証拠がなければ、大貴族が本腰を入れても難しい場合すらある。」
「それって、…えーっっと王都のギルドがその周りの権力を独占してるってこと?」
俺が少々内容の把握に時間をかけているとブランディが口を挟んできた。
「おや、意外と理解力は高いのですか?…聞くちからがないだけなんですね。」
「煽ってんじゃ…!」
「なんですか?私はこのギルドに雇われている身ですよ?今この場で冒険者を解雇することもーー。」
ここ1番の速さで俺は椅子から飛び退いて土下座する。
「すいませんでした。」
俺の即座の土下座にジジイは見事なものよと笑っている。あとでぶん殴ってやる!!
「まあその王都のギルドの決定ともなれば頭の回る儂みたいな支部長は考えるわけじゃよ。なんらかの意図があると。」
このジジイは割と顔が効くようで他の街のギルドとも話し合ったところ意見が一致したらしい。
「王都のギルドですら手に負えないからお前ら系列は一切の手出しを禁じる、儂はこういうメッセージが裏に流されていると感じている。」
強さどうこうでは語れない。
得体の知れない力を持っているものにつけるレッテル。
それがランクA冒険者の定義。
俺はそう冒険者になったその日に学んだ。