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記憶

ツクモと名乗る獣人とハドラス

二人の放つ尋常ではないオーラにより、周囲の雰囲気は時間が止まったかの如く静まり返っている。


言う事を聞かない体を必死に動かそうとするリアを置いて、戦いは突然に始まった。


並の老体からは繰り出せないほど素早く鋭い技のハドラスとは逆に、ツクモの動きはどことなくフワッとしていて、刀の振りも目で追うことができる。


まるで重力がツクモにだけ弱く働いているような、不思議な感覚。


しかしなぜか、攻撃の最後だけは予測できない。

単純なようで予測不能なツクモの剣捌きは、リアにどこか懐かしい感情を抱かせた。


「あの戦い方や構え……間違いない、ランスと同じだ」


なんと、リアがツクモの立ち回りに感じた懐かしさの正体はリアが幼い頃からよく知る憧れとも言える存在であるランスであったのだ。


その時だ

「リア!危ないッッ」

ツクモの声でリアはハッとし声の方向を向き、身に迫る危機をすぐに察知した。


ハドラスが放った膨大な魔力を溜め込んだ無数の矢がこちらへ向かってきているではないか!


魔力が残っておらず攻撃を防ぐ手段がないリアは身体中が痛むのを堪え矢を避けるべく走り出した。


しかし矢はくるりと向きを変え再びリアへ向かって勢いを増し飛んでくる。


「無駄じゃよリア、儂の矢から逃れることはできん。矢がお前さんに接触した瞬間爆発を起こしお前さんはおしまいというわけじゃ」

ハドラスは邪悪な笑みを浮かべ、まるで勝利を掴んだかの如く既に構えを解いている。


「させん!技巧【鬼】」

ツクモがそう叫ぶと、妖しい光がツクモを包み先程とはまた違うオーラを放つようになった。


まるで人が変わったかのようにツクモの動きは素早さを増し、構えも中段から脇構えへと変わり、雰囲気もガランと変わる。


「ほほう?興味深い術じゃな」

珍しい魔法なのか、ハドラスは攻撃の手を止めリアのもとへ向かうツクモを眺めていた。


鬼憤閃刃(きふんせんじん)ッ!」

ツクモはより速度を増し、矢を上回るスピードで斬り、斬り、斬りまくる。

真っ二つに斬られた矢は力を無くして地面へ落ちてゆく。


しかし斬り損ねた数本の矢はまだリアを目がけて飛んでゆく。


「フレア!」

リアは今己が出せるありったけの魔力を使い、無数の火の玉を矢へと放った。


リアの技は見事に全ての矢を撃ち落とし、ひとまずの脅威は回避することができた。


「もうお前さんの遊びに付き合うのは飽きてきたの〜」

口調こそ落ち着いているものの、ツクモの表情からは怒りが見てとれた。


「終わらせるぞ。技巧【天狐】」


先程とはまた違った光がツクモを包み、一本の尻尾は九本へと増えた。


「綺麗…」

と自然と言葉が出てしまうほど、リアの目に映る彼女の姿は妖しさと魅力に溢れていた。


「さあ天狐よ、お手並み拝見といこうか」

ハドラスはこれまでにない笑みを浮かべ、杖を地面に突き刺した。

「目覚めよゴーレム、狐狩りじゃ」


ハドラスの呼びかけに呼応するように、地面から2体の巨大なゴーレムが出現し、リアには目もくれずツクモただ1人を目がけて歩き出す。


「妾相手に童でも扱えるような魔法を使いよって…」

ツクモは平静を保ちつつ、脇構えから霞構えへと構えを変えた。


ゴーレムは二体同時にツクモへと襲いかかるも、ツクモは一向に動く気配はない。


「ツクモさんッッ!」

振り絞るように叫ぶリアの声にも、まったく反応しない。


最悪な未来を感じ取ったリアは思わず手で顔を覆ってしまった。


しかし次に訪れたのは静寂であり、顔を覆った手を離したリアが見た光景は、互いに背を向け合うツクモとゴーレム二体であった。


ゴーレムは振り向きツクモに再び手を伸ばそうとするも、次第にその体は崩れ始め、最後は二つの小規模な土の山が残っただけである。


「もう飽き飽きじゃ。老いぼれの三流魔法使いでも、少しは骨のある奴を期待しておったんじゃがのう…」


地面に突き刺さった杖を抜いたハドラスの顔から笑みは消えており、平静を装った顔からはかすかに怒りに等しいものを感じる。


「奇遇じゃな天狐よ、儂もそろそろこのくだらない戦いに終止符を打ちたかったところじゃ!」


ハドラスは杖に膨大な魔力を溜め込んでいるが、攻撃の気配はない。

ツクモの攻撃の隙を見て一気に撃ち込むつもりだろうか。



「皆集え!真の恐怖を教えてやるがいい! 天狐流幻影妖術・百鬼夜行ッッ!」 


すると夥しい数のモンスターが何処からともなく現れ、一斉にハドラスへと襲いかかった。


「あのモンスターの数、そして従順性…調教師(テイマー)か?いづれにせよこの魔力、使うほかあるまい」


ハドラスは杖に蓄積された魔力を一揆にモンスターの群れへと放った。


しかし効果が無いどころか技は無念にもすり抜けてしまい、モンスターの群れはハドラスに傷ひとつ加えず過ぎ去ってしまった。


「もしや、瞞しかッッ」


防御の耐性を解く速度よりツクモの刃がハドラスへと届く速度が上回り、ハドラスの杖は彼の手を離れ、側の茂みへと姿を消してしまった。


「今じゃ!リア!」


「これで終わりよ! バーニングショットッッ!」

ツクモの呼びかけた先、攻撃のタイミングを待っていたリアがここぞとばかりに炎の玉を放った。


しかしハドラスへ直撃する寸前、眩い閃光がリアとツクモの視界を奪い、視界が晴れるた時にはハドラスの姿は消えていた。


(悪いのう、まだ儂はやらねばならんことがあるんじゃ。それまで勝負はお預けじゃよ)


リアはほっと一息つくと、手に握っていた紅く輝く宝石をカットラスのグリップへとはめ込んだ。


その宝石は竜の瞳と呼ばれる宝石で、強力な魔力を秘めている希少な素材であった。

「これがなかったら、今頃ハドラスに殺されてたか、魔力過消耗で死んでいたわ」


そう呟きカットラスを鞘へ収めると、リアはツクモの方へ歩き出した。

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