戦戯
コロンの街から約5キロメートル離れた平原で、リアとマリネルはメストルーンに向かうべく歩みを進めていた。
この平原はスライムやらウォーバードやらの下級モンスターがうようよいるが、流石に一般人には危険なので魔法でモンスターが出現しないようにしてある別の道がある。
しかし、今のリア達はいわゆる金欠状態にあり、モンスターがドロップする素材を売却でもしない限り明日の生活さえも危ういのだ。
財布が危ういのだ。
本当に...危ういのだ。
そして何より今歩いているこの道の方がメストルーンへ早く着けるのである。
「これで...40匹!」
振り下ろされた刃は見事にモンスターの首と胴体を切り離した。
刃に付着した粘度の高い血液を払って鞘に納め、慣れた手つきでモンスターの素材となる部分を剥ぎ取り、ドロップアイテム用の簡易的な袋に詰める。
「大分集まったし、これで1週間は食事には困らないね!」
マリネルは相当嬉しいのか鼻歌を歌いながら謎の踊りを舞っている。
「そうね、希少素材も併せてざっと1000コルスってとこかしらね。私たちにとっては充分すぎるくらいよ」
「袋もいっぱいだし、そろそろ安全な道へ戻ろうか。体力は温存しなきゃね」
「え、あんな遠回りマリネル平気なの?」
「余裕余裕〜♪」
30分後
「ねぇリア〜まだ着かないの〜?僕もう疲れたよぉ」
駄々をこねるマリネルはまるで幼い子供のようである。
「国境を跨ぐんだし、まだ歩かないといけないだろうね。私まだ平気だし、バッグの中に入っとく?」
とリアは地図を眺めながら肩にかけた水筒やポーション等が入ったバッグのボタンを外す。
マリネルは少し思いとどまり
「いいや!結構さ、僕だって平気だよ」
と胸を張ってみせた。
「じゃあなんで今駄々こねたのよ...」
「なんとなく♪」
「なんとなくって...」
マリネルはリアと地図の間に割り込んで、リアの深紅の瞳をじっと見つめ
「リア、僕は君のことが心配だよ。君を見ているといつか倒れちゃうんじゃないかと思ってね」
その声のトーンからして、どうやら真剣にリアの事を心配しているようだ
「どうしたのよ急に、そんなに心配しなくても私は元気ピンピンよ!」
とリアは眉をハの字にして笑ってみせた
「元気なのはいいけど、僕が言いたいのは程よく息抜きを入れてねって事だよ」
「分かったよマリネル、ありがと」
「ならよし」
マリネルは満面の笑みを浮かべた。
そんな時リアがふと空を見上げると先ほどまで快晴だった空が雲で覆われようとしていた。黒いその雲は明らかに常軌を逸している。
マリネルは先ほどまでの笑顔とは一変して真剣な表情になる。
「リア、これは」
「あの日と同じ、ザルアが襲撃してきた日とね。準備して」
「へへ、やっと骨のある敵とご対面か」
すると黒い稲妻が二人の前に落ち、その跡から一人の老人が現れた。
「ほっほっほ、会いたかったぞい」
髭を地面まで伸ばした老人はニコニコとこちらを見つめている。
リアは老人に対し
「貴方は何者?私達の敵?」
老人は笑顔を崩さずに
「立場上そういうことになるのう」
マリネルは少し残念そうに
「なぁんだ、強そうなのが出てくるかと思ったらただのおじいちゃんじゃんか。ねーおじいちゃん、派手な登場ご苦労だけど僕らと戦ったらぎっくり腰じゃすまないよ?」
老人は髭をいじりながら
「ほっほ、活きがいいのは大変結構。では自己紹介といくかの」
老人は一呼吸置いて
「儂の名は【戦戯】のハドラス、ザルアの幹部にして君らの処刑人じゃ」
リアは鼻で笑って
「前にも同じような事を言ってた子がいたよ、グローク...だったっけな?」
「あやつ腕は確かなのじゃが、調子に乗る癖さえ治せば一人前の魔術師であったろうに」
ハドラスは深く溜息をついた。
マリネルは大きくあくびをしながらリアに
「ねえリア〜、こんなおじいちゃんパパッと消して先に進もうよ〜」
と、ムーンミストの準備を始めた。
「ほっほっほ、さあ始めようぞ。レッスンを!」