いざメストルーンへ!
コロンの街のとある小さな宿の一室、リアは街にある時計台の鐘の音で目を覚ました。
マリネルはまだぐっすり眠っている。
リアはすぐにベッドから起き上がり顔を洗い、寝癖を直して腰まで伸びた紅い髪をお気に入りのミサンガでまとめた。
カットラスを研いで、丁寧に鞘に収める。村が襲われたあの日の戦闘で、グリップも大分手に馴染んだようだ。
「さて、市場で朝ごはん調達といきますか!マリネルも一緒に行く?」
「僕はもうちょっとここで寝てるよ、一人で行ってきな〜」
「りょーかーい」
宿を出るとひんやりとした、でも心地よい風がリアを撫でるように吹き去っていく。
リアは深く朝の空気を吸い、軽い準備運動をした後軽い足取りで市場へ走り出した。
市場は街の中央にある噴水を囲むように屋台が立ち、そこでは食材に限らず武器や防具などたくさんの代物が売られていた。まあ、ここの戦利品は不良品であったり定価の倍以上の値段が付けられることがあるのでわざわざここで買う者はいないだろう。
「うわぁ、美味しそうな物がいっぱい!マリネルも喜ぶだろうな!」
市場を一通り回って朝食の調達を終え、ついでに包帯やポーション等を買いそろそろ宿へ引き上げようとしていたその時だ、
市場の奥がざわつき始めた、リアは人を掻き分けながらその騒ぎの原因へと向かった
「ひっ、やめてくれぇ!」
「うるせえなあおっさん、てめえはただこの店の装備全部を黙って俺らによこしゃいいんだよ」
そこには店の店主を脅す男ら5人、服装からして冒険者だろうか。まったく、どうしてリアはいつもこのような場面に出くわしてしまうのだろうか。
「そんなこと言ったって、私にも生活があるんだよ!」
冒険者のリーダー格の男は店主の顔を踏み、
「んなことしらねえよ、そもそも今のあんたらが平和に暮らせてんのは、俺らが守ってやってるからだろうが!」
「守るだと?この街にとって危険なのはあんたらだ!」
「てめえ、口の聞き方に気を付けやがれッッ」
男が剣を振り上げた時、周囲は悲鳴に包まれた。
店主は目を瞑り、剣は振り下ろされる。
リアは素早く前に出て、研ぎ上げたカットラスを鞘から抜き男の剣を止めた。
「なんだてめえ、この俺の邪魔をするなんて良い度胸じゃねえか。ん?見ねえ顔だな。よそ者か、だったら尚更そこをどきやがれ!これ以上邪魔をすれば命の保証はないぜ」
男はかなりイラついてるようだ
「聞いたでしょ、この街にあなた達は必要ないってさ〜。命の保証はないですって?その言葉、そっくりそのままお返しするわ」
「あまり調子に乗るなよ赤毛のガキがぁぁぁあ」
再び男の剣が振り下ろされる。
遅い、まだ龍紋村の子供達のほうが素早く動けるだろう。
リアは男が剣を持っている方の手を掴み素早く剣を取り上げた。男は諦めず殴りかかってくる
(右、左、右、右、足払い...力任せの雑な戦い方...ランスが見たらきっとお腹を抱えて笑うんだろうなぁ)
「ちょこまかと避けやがって!」
「攻撃を止めようと思えばいつでも止めれるし、あまり早く倒しちゃうとあなたとしても恥ずかしいでしょ?」
男は完全にキレた様子で
「クソガキがぁ!殺してやらァァァァァァァァ」
叫びと同時に隠し持っていたナイフを取り出した。
「そろそろやっちゃいますか」
血眼になってナイフを振りかざす男の顔面に回転蹴りを食らわせ、1メートル程吹っ飛んだ男は白目をむいてその場に倒れた。
リアは男の仲間らしき4人を睨み
「覚えておきなさい、私の名前はリア・フォーレ。これ以上悪さをするなら、今度は気絶だけじゃ済まないわよ」
仲間らは急いで気絶した男を持ち上げ、逃げるように去っていった。
街では歓声が起こり、中には喜びのあまり涙を流す者もいた。
すると先程の店主がリアに近付いてきた
「あんたは恩人だよ!感謝の気持ちとして、うちの店から好きな物を一つタダで持ってってくれ」
リアは少し照れて
「お礼なんてそんな、私が勝手にした事だし」
「いやいや!助けてもらっておいて何も無しじゃ俺も気分が悪い。頼むよ!」
「ありがとう、じゃあどれにしようかな」
(チェストプレート、アームカバー、兜...あまり重い装備はしたくないし、武器も今ので満足してるもんなぁ)
すると店の隅に置かれている黒いベストが目に入った。襟が広く、とても軽い素材で作られたベスト
「これにする」
「ああそれかい、そんなおんぼろベスト何の価値もないよ?それでいいのかい?」
「いいの、これが気に入ったから」
「それじゃあ、それはもう嬢ちゃんのもんだ」
マリネルは口一杯に詰め込んだパンを飲み込んだ後
「えぇ?!こんな所でも戦ったのかい?はぁ...リア、僕は君の行くところ全てが戦場になるんじゃないかと心配になってきたよ」
「困ってる人を助けるのが私の理想とする冒険者よ。あとあの男達、勝負にならないほど弱かったんだから」
「けどリア、これからは目立つのも戦うのも極力避けてよね〜」
「努力はするよ♪」
「そうだ、メストルーンに出発するのはいつ?僕はもう準備ばっちりだよ!」
マリネルは満腹になったことによりかなり上機嫌のようだ
「この荷物をまとめたらすぐに出発するよ」
バッグに市場で買った物を詰め、ベルトにナイフ、カットラスそして緊急用のポーションを3本差し、バッグを肩にかける。
マリネルの荷物は、枕一つ。
宿を出て街の出口まで向かう途中、人とすれ違うたびに感謝の声をかけられた。
「ありがとう!赤毛のお嬢ちゃん!」
「またいつでも来てくださいね!」
マリネルはニヤニヤしながらリアを見つめている
「何よマリネル、そんなにニヤついて」
「君、僕が寝てる間に相当有名人になったみたいだねぇ」
「そりゃ街のど真ん中であんな派手に戦えばね」
リアは苦笑いを浮かべた
そうこうしている間に早くもコロンの街の看板の真下まで来た。
次に向かう場所、最近物騒な事件が絶えないメストルーンで何か手がかりが見つかる事を信じて街からの最初の一歩を踏み出した。