三勇士
【竜紋の少女と伝説の四大竜】を読んでくださり、誠にありがとうございます!
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「私と、手合わせしてくれない?」
周囲は騒然とし、三人も面食らった様子である。
「なっ?! 何を言い出すかと思えば貴様ッッ!」
騎士団員の一人が身を乗り出してリアを怒鳴りつけ、それに続いて他の団員達からも怒号が飛び交う。
そして遂に「静まれ!」と、アキルの声が広場に響き渡り、辺りは瞬時に静寂を取り戻した。
「で、誰と手合わせしたいんだ?」とアキルが問うとリアは迷わず人差し指を突き出し、その先にいたのは…アールグレイであった。
(ランスと同等の実力を持った戦士なら、ランスと戦うも同義…自分の実力を測るにはもってこいの相手だわ)
アールグレイは分かっていたと言わんばかりにフッと笑い、鞘から剣を引き抜いた。
柄から先が緋色のクリスタルのみで作られており、鍔にはアールグレイの刻印…まさに芸術作品と言っても過言ではない気品を感じられる。
その剣を見たリアは目を丸くした。単に美しいからなどと言う軽薄な理由ではない。
「そのクリスタル…竜の瞳?!」
【竜の瞳】
竜紋村付近の鉱山でしか採掘不可能の非常に希少な宝石。
光のない場所で竜の瞳のように煌々と輝く様が由来し、現在の名となった。
そんな超希少な素材をこれでもかと使用した二つとない大業物なのである。
リアがごくりと唾を飲むと、アールグレイはフフッと上品な笑みを浮かべ言った。
「流石に本物で戦いやしないさ。ヘクター、木刀を二本倉庫から持ってきてくれ」
そうして騎士団員の一人に顎で促すと、彼は続けて
「これで君の出身地が竜紋村だって分かったよ、同郷の人間を見るのはいつぶりだろうか」
と言い嬉しながらも、少し切なげな顔を浮かべる。
セイレング三勇士の一人が龍紋村出身者だなんて、予想外の事実に空いた口が塞がらない。
「木刀二本です!」
と言いヘクターという騎士団員は二人に木刀を手渡すと、足早に二人から離れていった。
団員にこんなにも緊張を与える彼の存在は、やはり只者ではないのだろう。
「さあ、始めようか」
アールグレイは落ち着いた声で木刀を構える。彼の霞構えは猛者故の圧倒的なオーラを放っていた。彼は他とは違う…それほどの威圧感を戦う前から感じ取れる。
それでも、リアは不敵な笑みを浮かべ
「やっぱり、化け物ね」と吐き捨てた。
「褒め言葉として受け取っておくよ」
緊張がその場を包み、アキルの「始めッ」の合図と同時に二人は動き出した。
リアが木刀を振り上げ、対しアールグレイは直様剣先をリアの胴目掛けて走らせる。
(やっぱり三勇士と呼ばれるだけあるわね、隙を見逃さない洞察力…けどそれが仇となるときもある!)
隙のできた部位を狙う速度こそ剣士の優劣を決める決定因子…それをリアは想定済みだった。
ガッ!
リアは素早く剣先を下に向けアールグレイの攻撃を防ぎ、その反動を利用して間髪入れずにアールグレイの胴目掛けて木刀を振り翳す。
しかし、相手は一国の守護を担う三勇士の一角。
そう簡単にはいかない。
彼はリアの思考をまるで予知していたかの如く、鮮やかな剣捌きでリアの剣を止める。
「なっ?!」
唖然とするリアを見てアールグレイはクスッと笑みを浮かべ言った。
「おそらく君は、脳内のライブラリーから、僕に勝つための最善策を練っているんだろう?」
バチバチと剣をぶつけ合いながらもアールグレイは余裕げに語り続ける。
「さっき、君は剣を振り上げることにより僕が腹部を狙うのを誘発した…違うかい?」
「流石は三勇士と呼ばれるだけあるわね、どうして罠だと分かったの?」
リアの問いを待ってましたと言わんばかりにアールグレイはすかさず口を開いた。
「簡単さ、まず君の右足に残った治癒過程の傷跡…竜紋村出身者でありながら完治していない様子を見るに、その傷を負わせた者は相当な実力者と見た」
リアは好奇心に溢れる瞳で「それで?」と彼の推理を催促する。
「そんな実力者を相手に生き延びた君もまた相当な手慣れに違いない。力任せの大振りな攻撃など君はしないだろうと踏んだんだ」
「騎士より探偵の方が向いてるんじゃない?」
とリアは冗談混じりに言い、アールグレイもクスッと優しい微笑みを浮かべた。
「職業柄、推理能力は必須事項でね」
そんな二人の一進一退の攻防戦を、他の団員達は固唾を飲んで見守っている。
「凄い、団長の動きに完璧に対応している」「あの小娘、一体何者なんだ?」
そんな団員の会話を聞いたヘルガはフッと笑い言った。
「普通の女の子さ…アンタ達が何人束になろうと敵いっこないってだけのね」
しかし、そんなリアの体力も限界が差し迫っていた。
息切れを起こし、思考がまとまらない。
それでもリアは最後の悪足掻きにと木刀を目一杯振り上げ、持てる力の全てをこの一本に注ぎ込む。
標的は目前、この距離ならリアの方が速い。
「喰らえぇぇぇぇぇッッッッッ」
木刀は風を切り、アールグレイ目掛けて勢いよく振り下ろされる。
「隙みっけ♪」
アールグレイは振り下ろされる木刀とほぼ平行に、そして擦り付けるように木刀を振り上げ、リアの木刀は軌道を大きく外れた。
リアは勢い余って体制を崩し、体は地面に激しく叩きつけられる。
「イタタタ…」
腕を摩るリアに伸ばされたアールグレイの手…皮膚は厚く、リアに彼の強さの秘訣を物語っていた。
そうしてリアが彼の手を取り、起き上がったその時である。
城の正門から、一人の大男がガシャガシャと鎧の音を響かせながらこちら側へ向かってくる。
大男はアールグレイの目前に立ち止まるや否や、ザッと勢いよく跪いた。
「フランボワーズ殿、ストリクス渓谷にてザルア教徒と思われる魔力反応を検知しました故、ご報告に参りました」
「ご苦労だデューク。リア、済まないがこの続きはまた今度…」
「ザルアの情報を集めてるのは貴方達だけじゃない。私も行くよ」
アールグレイの言葉を遮るように、リアは同行する姿勢を示し、アールグレイは眉を八の字にして溜息混じりに笑って言った。
「君を見ているとランスを思い出すよ」
アールグレイの笑顔と、サラサラと風に靡く髪はリアにとってもランスを連想させる。
不思議だ…
覚えてはいないが…この笑顔が、この声がたまらなく懐かしい…
「お前ら聞いたろ! 今こそセイレングの正義の剣を振り翳し、ザルアのローブを赤色に染めてやれッッ」
「オォォォォォォォォオッッ!!」
アキルの叫びに団員は威勢良く呼応し、騎士団の士気は最高潮へと達する。
その様子を遠目で見ていたヘルガも、パイプに火をつけながらフッと笑みを浮かべた。
「さあ、面白くなってきたねぇ」
目指すはストリクス渓谷。
城門を抜け、民衆の声援を受けながら騎士団は闊歩する。
同行するのは今のところリア一人であり、ヘルガにはシド達を召集してストリクス渓谷まで連れてくるよう頼んでおいた。
もちろんヘルガと二人で同行する案も考えたが、ザルアの人数や幹部の情報を何も把握していない以上、無闇に四大竜継承者を連れていくのはあまりにもリスクが高すぎる。
銀色のミサンガを結び直し、ベルトにはヘルガ特製のポーションを4本差す。
「お嬢ちゃん、早くしねえと置いていくぜ〜」
騎士団は隊列を崩さず一定の速度で歩く中、アキルとトンドルだけはリアを待ってくれていた。
「すぐ行くよ〜!」
そう言って、彼女は三勇士の背中を追うように走り出した。




