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私だけだもん

宿に帰ったリアは、ドクドクと速く脈打つ鼓動をなんとか落ち着かせようとコップ一杯の水を一気に飲み干した。


「大丈夫ですか? リア」

「うん! 全然平気!」


嘘である。ポージョン店の女性に言われた『邪魔をすれば棺桶が二つ増える』

その意味は何となく理解できる。理解できるが考えるのが恐ろしい。あの穏やかな笑顔へ抱いていたイメージが一瞬にして崩れ落ちた感覚は今でもリアの鼓動を速くさせる。


シドはテーブルに置かれたコップやら紙袋やらをどけて、大きな羊皮紙を取り出した。


「シド、これ何?」

「これはメストルーンの地図です。ご覧の通りメストルーンの都市は世界最大規模ですが、その秘訣は国境を七(メートン)の塀で囲み、国土を余すところなく都市に使ったからです」


「つまり?」

「つまり都市を出るという事は、国を出ることと同意義だということです」


「それの何が問題な訳だ〜い?」

マリネルはリア達の頭上をフワフワと浮きながら問う


「塀には六ケ所の門があります。そして各門には門番二人、突破しようものなら瞬く間に地区の衛兵二十人並びに隣国の兵士達も総勢で俺達を叩きに来るでしょう」


「けど僕らにかかれば一瞬じゃん?全員ぶっ飛ばせばいいんでしょ?」


シドはゆっくりと首を横に振り

「俺は、国にこれ以上混乱を招くような真似はしたくない。何かバレずに脱出できる方法が必要なんです」


「でもどうやって...」

リアが不安そうにシドを見つめると、シドは窓から空を指さした。


自然と他二人の視線もその先へと移る。


三人の視線の先では飛行船がゆっくりと空を飛んでいる。


「飛行船? そんなの買うお金ないよ...」

リアは全財産が入った袋をポケットから取り出して見せた。

「シドはリアのポケッツマニーを過信しすぎだよ〜」


「飛行船はまだ新しい技術で、規制があまりかかっておらず安全に国を出る唯一の方法です。幸い、アランド区に住む幼い頃からの友人の『ミーリン・フライズ』という発明家がいます。彼女なら快く飛行船に乗せてくれるでしょう」


その時リアの脈が再び速くなった。

(アランド区...)

そこはポーション店の女性がリアに絶対に近づくなと忠告された。件の犯人が向かってると思われる場所であった。


リアはしばらく悩んだが、今のところルインに関する情報もザルアに関する情報も全く掴めていないのだ。

リアがメストルーンを訪れた理由も、竜紋村の襲撃と竜紋村出身者の変死に何か関連性があるのではと推測したからである。


そんな時訪れたこの好機、逃すわけにはいかない。


「よし、ミーリンさんの工房へ行こう。そして飛行船の準備が出来たらすぐに出発ね」


「例の事件もありますし、念のため三人一緒に行動しましょう」






日は沈み、人通りもすっかり減った。


マリネルも宿に戻ったところでリア達は宿を後にし、アランド区へと向かった。


深夜のメストルーンは昼間とはまるで別の空間のように森閑としている。


無言であるくこと十五分。大きな石橋の手前で三人は立ち止った。

「ここから先がアランド区です。言い忘れていましたがここの治安はメストルーンでも最低レベル、気を引き締めて進みましょう」


リアとマリネルは唾をゴクリと飲み込み小さく頷き、再び歩き出す。


通りは一見他と変わらないが、路地裏に目をやると怪しげな取引が行われていたり、喧嘩が起きていたりしている。


「まっすぐ前を向いて、目が合えば面倒ごとが起きる。それがアランド区です」

シドが目線を逸らすことなく忠告してきた。


リアの鼓動が速くなり始めた。そういえばメストルーンに来てからは落ち着いてる時間より今のような緊張感のある時間のほうが長い気がする。


「とっくに付けられてるみたいだけど」

マリネルの一言でようやく気が付いた。振り向くと六人の男達がナイフや斧を持ってこちらを睨んでいる。


「作戦変更ですよリア。まずはこの者たちを片付けましょう」

シドは杖を構え、リアはカットラスを抜き、マリネルがムーンミストの準備を始めたその時である。


ドォォォン!!


爆発音のような騒音とともに、六人のうちの一人が膝から崩れ落ちる。


ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォォォン!

再び五回爆発音が鳴り響き、一人、また一人と倒れていく。


「丁度六人だったから助かったぁ、いやあ間に合って本当に良かったよリア」


先程の攻撃の主かと思われる短身の女が、リア達の前でシュタっと綺麗な着地を決め降りてきた。

フードを被っていて顔は見えないが、一難逃れた安堵にリアは胸を撫で下ろした。


するとその女は倒れている六人のほうへ歩いていきしゃがみこんだ。

「うん、しっかり急所に命中してる。こりゃ死んだね」


リアはカットラスを鞘に納め、他二人も臨戦態勢を解いた。

「誰か知らないけど、ありがとう!おかげで助かったよ」


女は首を横に振り、話し始めた。

「いやいいんだよ、まだリアはこんな雑魚共に殺されちゃダメだからね」


リアは女の言っている意味が分からず困惑している。

「それってどういう事?」


女はニイっと笑い、答える。


「だって貴方を殺していいのは...私だけだもん」


リアの瞳には、その女が今まで出会ったどんなモンスターよりもより恐ろしく映った。

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