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悲劇の宮廷魔術師

メストルーンの門を抜けすぐ左に位置する質屋、そこでは旅の者が使えなくなった装備品やモンスターの素材等を換金するべく集まる。


故に朝から晩まで長蛇の列だが、幸いな事にリアは竜紋村の生まれである。希少素材の宝庫とも言われる竜紋村は一般窓口とは別の、竜紋村専用窓口で換金手続きができる。


本来そこは竜紋出身の商人限定で、一般の竜紋村の人間は使えないのだが、既に日は沈み、宿も決めねばならない。なにより、マリネルが空腹で機嫌が悪い。とてつもなく機嫌が悪いッッ!


という訳で私は商人のフリをして、体の竜紋を受付の人に見せ、道中狩ったスライムの粘液小瓶50本分を5000コルスへと換金した。


竜紋村では小瓶1本が10コルスのスライムの粘液も、ここでは1本100コルス…


「どうしてこんなに値段が違うんだろ」

自然と出た一言に反応したマリネルがバッグから飛び出してきた!

「それならこのスーパー冒険家マリネル様がお答えしようッッ!」


(なにこの子さっきまであんなに機嫌悪かったじゃない)


「まず先に知っておかなければならないのは…」

(なんか始まったし)


〜1分後〜


「という訳だリア君お分かりかね…ってオォォォォイ何寝てるんじゃワレェェェエッッ!」


「あ、マリネル。おはよ」


「おはようとちゃうわ今は夜やねん!」


よく聞いていなかったが、まとめるとスライムは美容効果があり女性に人気、素材収集のためスライムを駆り続けるとスライムがメストルーン周辺に現れなくなったとか…


そして素材不足のスライムの値段はついに10倍にまで跳ね上がったのだ。


メストルーンから多少離れた場所まで遠征して、一度に大量のスライム粘液を手に入れそれを収入源とするスライム専門の狩り人、いわゆるスライムハンターも存在するとか。


スライムハンター…高収入なのだろうが称号的には不名誉極まりない。


そんなことを考えながら宿を探して歩いていた時、突然リアはある路地裏の前で足を止めた。


リアの視線の先には倒れている一人の男がいた。さっと駆け寄り、怪我の有無や容態を調べる。


そして彼の顔を確認した瞬間リアは言葉を失った。


彼は反逆罪で逃亡中の元宮廷魔術師【シド・ラングヴェール】であった。

それだけでない、顔はあざだらけ、口は裂かれている。


結界で街の外に出られないとは聞いていたが、まさかこんな場所で出くわすとは。


「リア〜?その人大丈夫そ〜?」

近寄ってきたマリネルからシドを抱きしめシド顔を覆う。


「大丈夫!それより先に行って部屋を取っておいてくれる? この人を連れて追いかけるから。彼ひどい怪我なの」


「リアの頼みなら喜んで!それじゃお先に〜」


「さあ、いくよ犯罪者さん」


リアは自身のコートをシドにかけ、負んぶした状態で宿へと走り出した。


道中3000コルスのペストマスクを買い乱暴に彼の顔に取り付けた。こんなところでバレたら自分まで疑われるからだ。


宿へと着き部屋のベッドにシドを寝かせると当然ながらマリネルは発狂して部屋中飛び回った。


「何考えてるんだリア!こんな奴匿ってるなんて知られたら、僕たち追放どころじゃ済まないんだよ?」


「分かってるけど、興味があるの。宮廷魔術師ともあろう人間が、何故王女を殺したのか」


マリネルは手を額に当て大きな溜息をつく。

「君は本当に探偵がお似合いだよ。あっ!ごはん!」


「そうだったね。一階が酒場だったから今夜はそこで食べよう?」


「リアは何食べる?僕はでっかいステーキがいい!」


「まったく、食いしん坊なんだから」





リア達が部屋から出ていき、残されたのはシド一人…


(あの子達なら、俺を街の外へと出せるかもしれない。まあ、考えるのは後だ。今はもう少し眠ろう)




「ふぅ〜食った食った〜」

「マリネルの大食いのせいで20000コルス使っちゃった…」

「まあいいじゃん、こいつを突き出せば5千万コルスが入って来るんだから」


それを聞かれたのかシドはベッドから飛び起きマリネルを突き飛ばしてドアの方へと走った。


【ファイア・ウォール】

リアがそう叫ぶとドアは炎に包まれ、出口は全て塞がれた。


「貴方は怪我人だから一応言っておくけど、【ファイア・ウォール】は私が許可した者しか通れない特殊な炎でね、けど建物とかを燃やすことはできないから安心して」



「…俺はまだやる事があるんです。通してください」

シドは背を向けたまま静かに懇願する。

リアはまだ炎を止めることなく、質問に移った。


「何故貴方は王女を殺したの?」

「殺したんじゃないあれは事故だったんだッッ!」

「事故?」


「王女が亡くなった日、宮廷魔術師だった俺は、メストルーンの兵力強化のための新たな攻撃魔法の実験を始めようとしていた。


まあ、攻撃魔法は専門外だからその仕事を受けた時はあまり乗り気じゃなかったけど。


実験室に自分以外誰もいない事を確認して、実験を始めた。


成功すればメストルーンをより安全な街にする事ができる。その筈だった…


その時、実験室の入り口から彼女が入ってきたんだ。


「あっ、シドいた〜!」

「シャロン!来てはダメです!」


不幸にも魔法が暴走を始めた…不安定な魔法ではよくある事だが、よりによってこんな時に起こるとは思ってもいなかった。


暴走した魔法は誰にも止められない。


俺はシャロンの方へ走った。彼女を救いたいその一心で…


けど、間に合わなかった。


シャロンは爆発に巻き込まれ、最後は俺の腕の中で死んでしまった」


「そうだったの。それで、逃げてまで叶えたい貴方の望みは何?」


「伝説だよ、竜の泉の伝説。あの泉へ行けば願いが一つ叶うんだろう? 俺はそこへ行ってシャロンを蘇らせる」


「分かった。貴方を国へ突き出すことはしない、手伝ってもあげる。その代わり、私達と一緒に旅をして」


「ちなみに!君のいう四大竜のうちの1匹がこの僕さ!」


シドはそれを聞いて今まで信じてきたものが事実だった事を知り安堵したのか、堰を切ったように泣き出した。


「ねえリア〜、これがオトコナキ? てっきり吐きそうなのかと」

「うん、漢泣きだね。これはしばらくそっとしておこうか」


ペストマスクのせいでもう顔は見えないけど、さぞ喜んでいるのだろう。


マリネルに頼んでシドを眠らせているうちに裂かれた口の治療も終わっているから、暫くすればもう動かせるようになる。


「明日の朝は何が食べたい?マリネル」

「肉〜!」

「肉はさっき食べたでしょうが!あっ、シド君は?」


シドは少しの沈黙の後、

「…レーズンパンがいいです」


「奇遇だねシド君、私もちょうどレーズンなパンの気分だったんだよ!」


それから暫くして、リアはシドとマリネルをベッドに寝かせ、ロウソクの灯りを指で消した。

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