約束は氷と共に
「あの~ツクモさん?お~い」
「ねえリア!これがタソガレルってやつ?」
遥か遠くを見つめるツクモの夕日に照らされ輝く瞳からは、寂しさに近い何かを感じる。
「やっほー!狐ちゃん!」
「ひゃ!?」
ツクモは突然視界に入ってきたマリネルに思わず声が出てしまう。
「なんじゃ?おぬしらか」
「え~と、さっきは助けていただいてありがとうございましたッッ!」
「よいよい、あれは儂が好きでしたことじゃ。面をお上げ」
顔を上げたリアは思い切って戦闘中疑問に思っていたことをツクモに聞いた。
「貴方とランスは、どういった関係だったのですか?」
ツクモはまるでこの質問が来るのを前から悟っていたかのようにフッと笑みを浮かべ、再び沈む夕日を見つめながら語り始めた。
「ランスに戦い方を教えたのは儂じゃ。おぬしが今のような質問をした理由もきっと儂の戦い方と奴の戦い方が似ていたからじゃろう? そう、言うなれば儂と奴の関係は師匠と弟子じゃ」
リアはツクモの返答に驚きつつも、心のどこかではなんとなくそんな気はしていた。
ランスが昔よく話してくれた『狐のお師匠さん』のお話。
~5年前~
「ランス~」
「ん?どうした?リア」
「ランスはどうやって強くなったの?」
「ふふん、俺とお前だけの秘密だぞ? 実はな、俺には狐のお師匠さんがいるんだ」
「狐のお師匠さん?」
「そうだ。その人は俺よりもずっと強くて、何匹もの妖怪を率いて戦うんだ」
「ヨウカイ?」
「ま、物凄く強いモンスターくらいに覚えておけば良いさ」
「わ…私!その人に会ってみたい!」
「ああ、いつか会わせてやるよ。約束だ」
あの日交わした約束も、ランスと共に氷となってしまった。
だがこうして今、その『狐のお師匠さん』にやっと会う事ができた。
それだけで今は充分である。
「ランスは儂と会う度におぬしの話ばかりしておった。おぬしが初めて魔法を使った日、本物の剣を握った日そして、奴が氷となる前日も欠かさずじゃ」
そうしてリアの頬を撫で
「ランスはおぬしを世話役として守ったのではない。家族として、兄としておぬしを守ったのじゃ」
その言葉にリアはハッとした。
村が襲われたあの日、血縁関係のないランスが咄嗟に自分を妹と呼んだ意味が分かったのだ。
「儂はザルアの監視を続ける。おぬしには、やらねばならん事があるんじゃろう? 」
「私は…妹を見つけて、あの子が消えた日の真実を知りたい」
ツクモは頷き
「うむ、さあ行け二人とも。メストルーンまではもうすぐじゃ」
「そうだ!全部終わってまた会えたら、私にも戦い方を教えてください!」
「おぬしがその気なら慶んで」
「ほらマリネル行くよ!」
「話長すぎてもうお腹ペコペコだよぉ」
「ごめんごめん、メストルーンに着いたら晩ごはんにしようね…あっツクモさんも!」
リアが振り向いた時には、彼女の姿はそこにはなかった。
1時間後、リア達はメストルーンの門の前で入国手続きをしようとしていた。
「そこで止まれ。入国許可を得るにはこの紙にお前らの名前、年齢、種族を書かねばならん」
門番から手渡された紙に早速記入していく。
「リア・フォーレ、17歳っと…そういえば竜紋村の生まれってどの種族に入るんですか?」
「それなら人間と書いて丸で囲めばそれで分かる。この時期に入国なんて、お前らは勇敢なのか馬鹿なのか、事件の話は聞いているだろう?」
先程まで声を張り上げていた門番は姿勢を低くし、より小さい声で話し始めた。
事件というのは、メストルーンで6人の竜紋村出身の者が殺されているというものである。
「ええ、私はその事件を追ってきたの。探している人と何か関係がありそうでね」
「あの事件以降この街にいた竜紋の奴らのほとんどは出ていっちまってなぁ。まあ、気を付けろよ」
「うん、あなたもお仕事頑張ってね!じゃ!」
走り去るリアの背中を眺めながら門番の男は思った。
(可愛い…俺17だからワンチャンある?)




