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倒れていた賞金稼ぎを拾う その4


 殺気を感じて目を覚ますと、さやぐるみの剣を構えた賞金稼ぎが立っていた。

油断のない目つきで俺を見つめている。

血の気の無い顔色は透き通るように青みがかっていたけど、昨晩よりはかなりマシになっていた。


「起き上がれるようになったようだな」

「ここはどこですか?」


 賞金稼ぎは目を逸らさずに訊いてくる。

まるで魔物に対峙しているような眼光だ。


「安心しろ、ここは俺の家だ。あんたが目の前で気を失ったから治療して連れてきたんだ」

「治療を?」


 賞金稼ぎは疑わし気に腕の傷に触るが、その間も俺から視線を外さない。

ずいぶんと用心深い性格をしているようだ。


「安心しろ。アンタが嫌がったから、魔導改造はしていないぜ。下手くそだが一般的な治癒魔法も使えるんだ」

「私の服は……?」

「傷口が開かないように切り取って脱がせた。ボロボロになったから捨ててしまったよ。調べたら傷は腕だけじゃなかったからな。魔物の血液もついていたから全身をくまなく調べて、血もぬぐい取ったんだ。感謝してくれよ」

「全身を……くまなく……」

「素人にはわからんかもしれないが、魔物の血液、いや、他人の血液だって危ないんだぞ。ドラゴンの血を浴びて不死になった男の伝説もあるけど、大抵の魔物の血は毒だ」


 俺がしゃべっている間にも賞金稼ぎの眼が見開かれ、ほとんど泣きそうな顔になる。


「み、見たのですね。私の体を……」


 改めて聞かれると困ってしまうが、嘘をついても仕方がない。


「まあな。でもこれは医療行為だ。恥ずかしいことじゃないんだぞ」


 女の殺気はなくなっていたが、今度は肩を震わせながらうつむいてしまった。

泣いているのか?


「お、おい」

「治療には感謝します。代金もすぐには無理ですが必ずお支払いします。ですが……」

「ですが?」


 女は決意を込めた目で俺を見据える。


「これだけははっきりさせてください。私の体にいかがわしいことはしていないですよね?」


 いかがわしいことと言うと、俺がやったかどうかってことか?


「おいおい、アンタは出血多量の重病人だったんだぞ。絶対安静だったんだ。そんな患者を相手にセックスなんてするはずないだろう?」

「セッ……!?」


 賞金稼ぎは言いかけた言葉を飲み込んだ。

ずいぶんと純情な性格をしているようだ。


「治療のために服を脱がした。検査のために体をよく観察した。これだけだ」


 そう言うと女はまた涙ぐんだ。


「全身を見られてしまったのですね。お腹とかも」


 いや、ふつうは胸やあそこを気にするだろう?

恥ずかしいのはそこか? 

大きな胸の下で丸みを帯びたお腹のラインはたしかに可愛かったけど……。

こんなことはもちろん口には出さない。


「まあな。ほっといたらいつまでたっても熱が続くから適切な処置が必要だったんだ」

「そう……ですか……、ありがとうございました。男性に裸を見られたのは初めてですが、治療とあれば文句は言えません……」


 そんな悲しそうな顔をするなよ。

なんか、すごーく悪いことをしてしまったみたいじゃないか。

俺は解熱剤を彼女に手渡す。


「しばらくは熱が続くからこれを飲むように。それから包帯は定期的に新しいものに取り換えるんだぞ。賞金稼ぎならペリル軟膏は持っているだろう? よく洗った手で傷口に塗ってから包帯を巻け」

「はい。それで治療費はどれくらいになるでしょうか?」

「そうだな……30万クラウンでいい」


 普通の治癒師なら50万クラウン以上取るのだが、俺の施術では完治まではしていない。

まあ、こんなものだろう。

ちなみにゴブリンなどの肉片などを移植する魔導改造なら7万クラウン程度で済んでいる。


 値段を聞いた賞金稼ぎはまたもや小さく肩を落とした。


「承知しました。ただ、今は持ち合わせがありません。傷が癒えたら必ずお支払いしますので、もう少し待っていただけませんか」

「んー、まあ、料金はいいや。特別サービスだ」

「えっ!? どうしてですか?」

「俺は魔導改造医だ。今回はちょっとした気まぐれで治癒師の真似事をしてみただけだからな。だから料金はいらない」

「でも……」


 さらに言いつのろうとする彼女を手で制す。


「まあ、綺麗な裸を見せてもらったから、そのお礼だと思ってくれ」

「なっ!」

「というわけで、料金のことは気にするな」

「さ、最低ですねっ! やっぱり魔導改造医なんてろくなもんじゃないっ! 料金はそのうち持ってきます。それではこれでっ!」


 彼女は肩をいからせて表に出ていった。

やれやれ、これで静かになるか……、と思ったらすぐに戻ってきた。


「私の鎧はどこですか?」


 俺は無言で床の上を指さす。

自分の皮鎧をひっつかむと、彼女は扉をバタンと閉めて、今度こそ出ていってしまった。


 俺のパジャマを持っていかれてしまったが、まあいい。

パジャマの下は素っ裸だから、返してくれとは言えないもんな。

ひょっとして気が付いていないか? 

下着も切り取ったことに気が付いたら、彼女はもっと怒っていたかもしれない。


 俺はどっかりとソファーに腰かけて天井を眺めた。

今日の診療は休んでしまおうと思っている。

どうせ、昨晩の治癒魔法で魔力はすっからかんだ。

今の俺には魔導改造さえ無理だろう。

二~三日は自堕落じだらくな生活をして、のんびりと休養に充てることにした。


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