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魔導改造医 その2

 診察室の奥には休憩部屋があった。

ベッドとサイドテーブル、ウィスキーのボトルが一本あるだけの小部屋だ。

主に暇な時の読書と昼寝に使っているが、月に数回、全く別なことに利用することもある。


 今この部屋の空気は淀み、汗と淫靡いんびな臭いが立ち込めている。

俺は自分の体の下で身悶みもだえる女の胸を優しく揉みしだいた。

しっとりと濡れた胸は確かなボリュームを手のひらに伝えてくる。

指の間からはみ出る乳房の感触を楽しみながら、俺は腰の動きを速めた。


「ハア……ハア……、先生、もうイクの?」

「ああ、そろそろ限界だ……」

「ンンッ! その前に約束して。今月分は……これで……アアンッ!」

「わかってるって。今月の残金はチャラにしてやるから……」


 俺は女の頭髪から顔を出す小さな突起をそっとなでる。

これは三カ月前に俺が移植したピクシー妖精の触覚だ。

これによりこの賞金稼ぎは、人間ではありえないほどの感知能力と反射神経を手にしている。


 手術代金は利息を入れて49万5千クラウン。

月々4万1250クラウンの十二回払いだが、今月は2万クラウンしか用意できなかったそうだ。

足りない分はこうして体で払うというので受け入れた。


 ミラレスは美人だし、スタイルだって申し分ない。

そのうえ愛嬌があって気遣いもできる。

そういう女はベッドの中で最高の相手と相場が決まっているのだ。

体で払ってもらうのは二回目だが、次があったらまたお願いしたいくらいの魅力がある。


「そろそろいくぞ」

「うん、きてぇっ、ドレイク先生っ!」


 ミラレスは四肢をガッチリと俺の体に回してきた。

俗に言う大好きホールドってやつだ。

密着する肌の心地よさと、ミラレスが発する甲高い嬌声を聞きながら、俺は気持ちよく自分の精を解き放った。


 気だるさを感じながら身づくろいをしていると、ミラレスは小さく笑った。


「何がおかしいんだよ?」

「だってさ、先生とする時はいつもその変なのをつけるじゃない」


 ミラレスが笑ったのは俺が考案したスキン(避妊具)のことだった。

これはゲマンドスという怪魚の浮袋を利用して作られている。

魔力による精製をほどこして、厚さは0.01㎜という驚異的な薄さになっているのだ。


「これでも臆病でね。病気が怖いんだよ。それに誰かの父親になるのはもっと怖い」


 ミラレスは少しムッとした顔をする。


「アタシは誰とでも寝る女じゃないよ」

「わかっているって。ミラレスが汚いなんて思っていないさ」


 俺はツンと上向きの乳首に舌を伸ばしたが、ミラレスはそっけなく身を引いて服を着だした。

二回戦はないようだ。


「もう行かないと」

「一緒に夕飯でもどうだ? 少し早いけど開いている店もあるだろう」

「やめとく。明日から泊りがけで東の森へ行くんだ。今夜は仲間と打ち合わせだから」

「そうか」


 無理に食事を一緒にしたいわけでもなければ、口説いて自分の女にしたいわけでもない。

俺たちはこの程度の距離感がちょうどいい関係だ。


「表の看板はどうする?」


 ミラレスが来た時点で、看板は『本日の診療は終了しました』になっている。


「そのままでいい。今日はもう店じまいだ」


 カーテンを開けると空が赤々と燃えていた。

室内の空気を入れ替えるために窓を開けると、吹きこんでくる風に花の香りが混じっている。

もう、春なんだな。


「それじゃあ、また来月」

「ああ」


 また来月、が金のことなのか、それともまた体で支払うという意味なのかはよくわからなかった。

どちらであっても俺は構わない。

正直なところ、深く考える気にもなれなかった。


 ミラレスは少しだけ微笑んで見せ、手を振って出ていった。

基本的に優しい女なのだろう。

もう一回くらいすればよかったかな? 

股の辺りはスッキリしているのだけど、妙にモヤモヤとする春のよいだ。

風が運んできたのは花の香りばかりではなく、妙なわびしさまで持ちこまれてしまったようだ。

空気の入れ替わった室内はやけにひんやりとして物寂しい。


 俺は戸締りをしっかりして診療所を後にした。

まっすぐ家に帰る気にはなれない。

行きつけの店で一杯ひっかけていくつもりだった。


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