なろう劇場 クズ妹編
「お姉様ずるいわ!」
昔々、ある貴族の家にそんな口癖の少女がいました。
口癖の通り、少女は姉に嫉妬しては自分のものにしようとします。
「お姉様ずるいわ! 私だって欲しいのに……お姉様、それちょうだい!」
いつもそう繰り返します。
それだけならただ我儘な妹で済むのですが、癇癪持ちな内面とは裏腹に見た目はとても可愛らしい少女を、両親は溺愛していました。同じ自分達の娘である姉とは比べ物にならないほどに。
「姉なのだから譲ってあげなさい」
「妹が可哀そうじゃないか」
両親はそんなことばかり言って、姉を庇うつもりもなければ妹を躾けたりもしません。姉がどれだけ常識的なことを言っても、妹が欲しがれば取り上げられます。
ある日は夕食のおかずを取られ。
ある日はぬいぐるみを取られ。
ある日はドレスを取られ。
いつしか侍女も取られ、部屋も取られ、食事の機会すらも取られ、姉は全裸のまま庭に転がって餓死する寸前にまで追い込まれました。
薄汚く痩せこけた姉を見た妹は言いました。
「お姉様ずるいわ! その髪ちょうだい!」
「お姉様ずるいわ! その目ちょうだい!」
「お姉様ずるいわ! その皮ちょうだい!」
「お姉様ずるいわ! その骨ちょうだい!」
「お姉様ずるいわ! その命ちょうだい!」
妹はとても無邪気に姉を惨殺しました。両親もにこにこしながら「我が娘は返り血を浴びても可愛い」と妹を愛でており、姉が死んだことなどまったく意識してません。
庭先で起きた惨劇に警官がかけつけましたが、まったく話が通じないまま、妹は笑顔で姉を解体し続けます。あまつさえ止めようとする警官を斬りつけてまで姉の死体の完全破壊に固執する有様。
最終的に止む無く致命傷を与えることで妹の奇行は止まったものの、そこに至るまでに警官にも十名近い死傷者が出てしまったそうです。両親はその責任を負わされる形で爵位を取り上げられ、惨めに生きていくこととなりましたが、妹が亡くなったことばかり後悔して姉のことは終ぞ思い出しませんでした。
この惨劇が切欠となって後に「クズ妹症候群」と呼ばれる精神病が世間に認められ、今ではクズ妹認定された女性とその両親は速やかに隔離することが義務付けされるようになり、専用のサナトリウムも国家事業として運営されることとなったのです。
だから今では恐ろしいクズ妹を見かける機会は少ないでしょう。でもクズ妹に認定されないよう、己を律して正しく生きなければなりませんよ。