第一話 ありきたりなデスゲームのスタート
目を覚ますとそこは見知らぬ教室だった。
……? え、どこ、ここ?
どうやら机にうずくまって寝ていたらしい。
頭に霞みがかかったようでうまく思考がまとまらない。
上体を起こし軽く頭を振る。
と、隣で女の子が眠っているのが目に入ってきた。
腰元まであるストレートの銀髪が印象的な美少女だ。
……やべっ、すげ~可愛い。アイドルか? って、何見とれてるんだ俺。
俺は気恥ずかしさを覚え辺りに視線を漂わせる。
木造の壁。天井に照明。引き戸。机。椅子。教卓。黒板。窓はない。
そして机に突っ伏すように眠っている人、人、人、人、人。
ここにきてようやく思考がはっきりとしてきた。
立ち上がり改めて周りを見渡すに、10数人の少年少女たちが静かな寝息を立てていた。
どうして少年少女かと思ったかと言えば、全員がブレザーや詰襟、セーラー服に身を包んでいるからだ。かくいう俺も学生服を着ている。
少しづつ、ここで目が覚める前の事を思い出していく。
確か俺は自転車で学校から帰っている途中、倒れている人を見かけ声をかけたのだ。そして―――
……その後の記憶がない。と、いうことは、その時に麻酔でもかがされて拉致されたとでもいうのだろうか?
拉致。誘拐。監禁。そんな単語を思い浮かべ、ゾッとしてしまった。
どう考えたってやばい事になるイメージしかない。特に拘束はされていないようだが……
そんな取り留めない思考に耽っている内に、周りの人が起き始めた。俺と同様にぼんやりとする頭を振りながら状況を確認し、一様に驚いている。
そして互いに声を掛け合うこともなく様子を伺っている。
視線が立ち上がった何人かと合ったが、見てはいけないものを見たかのように、さっと視線を逸らされてしまう。
かくいう俺も同じようなリアクションをとってしまったが。
……みんな警戒し合っている、よな? いっそ、声でもかけてみるか。いや、そんな事できるほどまだ気持ちが落ち着いていない。
「……んっ」
隣で眠っていた少女も目を覚ましたようだ。蒼い双眸が煌めく。
「……ここは?」
俺の姿を認めると銀髪の少女が問いかけてきた。
「えっ? えっと~」
い、いかん。うまく言葉がでない。今はこの状況よりも銀髪の少女に話しかけられたことにテンパってしまっている。
知らず呼吸も浅くなっていたようだ。こういう時は深呼吸をしてメンタルを安定させないと。
気持ちを落ち着けようと深く息を吸い込む。そして息を吐こうとして――――
キンコンカンコーン
聞きなれた合成された鐘の音、チャイムが鳴り響いたことで息を呑み込んでしまった。
は? チャイム? 確かにここは学校のようだし、鳴ってもおかしく……ない?
みれば銀髪の少女も俺への興味を失い、チャイムの発信源であるスピーカーを見つめている。と―――
『皆様、お目覚め如何でしょうか。お疲れ様でした』
『当プログラムはまもなく『プロジェクト:エンブリオ』開始致します』
『これより『エンブリオ』についてご説明させて頂きますので、着席したままお待ちください』
『各自のデバイスには詳細情報が表示されますので合わせてご覧ください』
スピーカーから流れてくる女性の声は柔らかく、言葉の端に優しさがにじみ出ていた。
しかしそれがこの状況に似つかわしくなく、一層不安を掻き立てさせられる。
正直、一人だったら「なんだよこれ!」とかいって絶対喚き散らしてる自信がある。それくらい怖い。
今でもかなりびびっているが、自分と同様そうな人たちが周りにいることで、なんとか平静を保っている自分がいた。
と、いうかデバイスってなんだよ。そんなもの持って………る、のか?
ガサゴソ
何気なく上着のポケットをまさぐると見慣れないスマホがでてきた。俺のスマホじゃない、これがデバイスなのだろうか。
『エンブリオは4つの階層施設からなる学園の総称です』
『各施設についてはデバイスのMAPの項目をタッチしてもらえば詳細をご確認頂けます』
先程取り出したデバイスにMAPが表示された。
宇宙ステーションのような建造物のようにも見えるそれが、エンブリオと呼ばれる施設の全景のようだ。
『皆さまにはそこで、条件がクリアされるまで共同生活を行って頂きます』
ん? ……クリア? 共同生活?
『クリアの条件は三つ』
『1つ目は、エンブリオ内で最後の一人となること』
『2つ目は、一人以上を殺害しその日行われる投票で、殺害をした人が最多得票にならなかった場合』
『3つ目は、ナンバー13までの『スキル』を間違えずに答えること』
『以上、どれか一つでも達成できた時点でプログラムは終了となります』
『詳細についてはデバイスでご確認してください』
『それではこれより10分後に『エンブリオ』を開始いたします』
『エンブリオでの学園生活が、貴方にとって素晴らしいものになるようにお祈り申し上げております』
それっきりスピーカーから音声が流れる事はなかった。
説明をすると言っておきながら、そのほとんどがデバイスで詳細を確認しろというものではあったが……
ザワッと周囲が色めき立っている。先程の説明で出てきた単語があまりにも非日常だったせいだ。
階層施設。共同生活。クリア条件。殺害。スキル。
口の中で転がしてみても現実感の薄い言葉だなと思ってしまう。
共同生活は寮生やシェアしている人には耳馴染もあるだろうが、他の単語は自分とは縁遠いところ、またはフィクションの中でしか聞いたことがない。
……俺たちは『コロシアイ』をさせられるために集められたのか?
ふと、そんな突飛な考えが頭に浮かぶ。
いや、俺は何を言っているんだ。そんな事より、壮大なドッキリと考えた方が現実的じゃないか。
ドッキリ。主に芸能人に対して隠しカメラで当事者たちが慌てふためく様子を意地悪く眺めて楽しむというエンタメだ。
最近はコンプラ的に素人にドッキリを仕掛けることは滅多になくなったが、動画配信系だったら、数字を稼ぐためにやりかねない。
そんな風に自分を納得させようとしつつも、俺は心の底ではこの事態に対して確信をもっていた。
何故なら、これとよく似たシュチョエーションを、俺は何度も見てきたからだ。
……これって、アレか? アレなのか? デスなゲームなのか?
プレイヤー同士が殺し合うデスゲームなのか!?
と、ちょうどその時、全てのデバイスから一斉に着信音が鳴り響いた。新着を知らせるメールが届いたのだ。
この時、俺は思索に耽るあまりチェックできなかったのだが――――
デバイスには『スキル』の項目が追加されており、
No.7『死戻』
と表示されている事を、俺は後から知るのであった。
→第二話「スキル」に続く