解決編
次に大きな模造紙を準備して欲しい。
体全体がすっぽり収まるくらいの大きな模造紙……。よく、小学校の時に発表とかで書かされた模造紙……。
字が汚いと模造紙に書く字が汚い……。小学校の時はいいかもしれないが、大人になってから大きなホワイトボードに字を書く時、「ああ、もっと綺麗な字を書く練習をしておけばよかった」と後悔してしまうテヘペロ。……誤字も多い。
模造紙が準備できればとりあえず服を脱いで、体の前側に墨汁を塗りましょう。筆でも手でも何を使っても構開いません。
え、筆はこそばい? いやいや、本気でやらないでください。ここは読むだけでいいです――。
体の前面に墨汁が塗り終われば、乾く前に模造紙にうつ伏せで張り付いてみよう。
ペタ……。魚拓にされた魚の気持ちが分かるだろう……。
いま、張り付いた模造紙を鏡だと考えて欲しい。すると、模造紙に写った自分の姿は、鏡に映る自分の姿と同じのはず。
――左右が反対に映るはずだ。
模造紙に映る自分は、左手に歯ブラシを持っているはず――。 「誰だお前!」ってなるはずだ――!
墨汁が乾く前に立ち上がって下さい。くっ付きますから。
模造紙は記念に置いておきましょう。十年後に自分の成長を知る事ができます。
十年前は……こんなバカな事をやっていたのか……と。
さて、模造紙の左下には、やっぱりハンコを押しておきたいものです。自分の物だと言う証拠として。
大き目のハンコがいいですが、無い方はシャチハタでも構いません。百均ショップの物でも構いません。
大きな模造紙だと……どこに押そうか躊躇するかもしれませんが、どこでもいいっス。細かいことにはこだわりません。
――ポンッ! ンポッーー!
……ちゃんと押せたでしょうか。……察しのいい読者の方なら、ここで閃きがあるはずです。
そうです――! そうなんです――!
押されたハンコは正しい向きなのに、手に持っているハンコは左右逆に掘ってあるのです。
すなわち、鏡に反対に映る現象とほぼ同じことが、模造紙と自分やハンコでも起こっているのです――!
左右が反対になる現象は、鏡だけではなく色々な模造紙でも起こりうるのです――!
模造紙には余白がたくさんありますから、ハンコを何度も何度も押して確認しましょう――! これからは会社でハンコを押す作業がきっと楽しくなります――!
……誰だ、電子印可を進めるやつは……。電子印を押した資料が行先を失いどんどんフォルダに溜まっていくではないか! 冷や汗が出る……。
身体が墨汁で汚れてしまったから、シャワーを浴びることにする。
浴室に入り、プラッチックの椅子に座る。座ってシャワーを浴びた方が黒い墨汁が飛び散らなくていい……。
目の前には、また鏡がある……。もう、見るのも嫌になってきたぞ……。
なぜこんなことを必死に考えなくてはならないのだ――。鏡を睨みつけたてハッとした。
右目は鏡の中の右側に映り、左目は鏡の中の左側に映っているじゃん……。
今まで必死に鏡に映る姿の左右反対の謎を解き明かそうと考えていたが、ひょっとすると、左右が反対だと認識するのではなく、「右のものは右に映り、左のものは左に映っているから正しい」と理解しなければならないのかもしれない。
現に、上のものは上に映り、下のモノは下に映っているのだから――正しいのだ。
これはまるで、俺の物は俺の物、お前の物はお前の物――当然のこと!
左右反対に映っているのが正しいのだ――。っていうか、反対になど映っていない。……反対とか言うからややこしいのだ――!
……反対にならなければハンコは作れない。体に墨汁を塗って人拓も取れない。
正しいことをいくら解明しようとしても難解なだけで、時間と労力と墨汁の無駄遣いになってしまう。
結論として、「右のものは右に映り、左のものは左に映っているから正しい」
納得できない結論だったとしても、どうか怒らないでほしい……。
読んでいただきありがとうございました!
自分で自分の答えを持つことが大切なのです。それが正しくなくても……仕方がないのです。