海と魔法の街 3
私には前世の記憶がある
といっても、人生をまるっと覚えている訳では無い
ただ私が、『天宮 桂花』という人間だったこと
日本という島で、“短大”というアカデミーに通い
『明義 光輝』という男の子と恋仲だった事だ
それが私の1回目の人生
そして私は、何度も生まれ変わり
その度に 明義 光輝 の生まれ変わりに恋をして
そして…20歳になる前に死んでいる…
天宮 桂花は20歳の短大生だった
幼馴染みの 明義 光輝 と恋人になり5年目の夏
彼に別れを告げられる
「俺にお前はもういらない」
そう言われたのが最後
桂花の21歳の誕生日を前に彼女は人生を終えた
他に残っている記憶は
メイド服を着た自分と公爵家の御屋敷
召使いの少女は、旦那に叶わない恋をする
光輝と同じ顔の公爵様は緑色の目をしていた
またある日の彼は、黒い髪の妖だった
獣の耳をした亜人、畑を作る農民だったこともある
ぼんやりとした 自分の記憶というには曖昧な
そんな “ある日の思い出”
それでも前世の自分と言えるのはきっと
“彼に対する思い” が痛いほど流れてくるから
そして今の自分が、今の彼に出会った時
同じ気持ちで恋に落ちるからだ