第1話 ちなみに俺は勃っていた
俺が転入した高校には『必ず校内恋愛をすること』という信じられない校則が存在した。
もし、転入後1年以内に恋人ができなければ退学、転入する前にそれが提示された。
俺に提示された候補は三人。
1、女装男子『楓』
2、ゲーマー男子『猿』
3、不思議系男子『湊』
まさかの全員男だった。
俺はゲイじゃないというのに否定は許されなかった。
命の危機、なんて簡単に訪れる。俺にとってそれは三つの影。そのどれもが俺の恋人候補だ。
「お、落ち着こう……? な、三人とも」
徐々に距離を詰めてくる三人。逆光ゆえに表情は全然分からないが確実な恐怖を感じる。身の危険というよりどっちかといえば……貞操。
できるだけ穏便に済ませて終わらせたいがいかんせん三人とも興奮状態に見える。
後づさりながら距離を取ろうとするが足がもつれて倒れてしまった。そして寒気。チャンスと感じたのか三人は俺に覆いかぶさる。痛みはないが重い。
「ねえ……私だけを見てよ」
瞳をうるうると輝かせて呟く楓。頬から雫が落ち、俺の服にぽたぽたと染み込む。流れ落ちる涙をぬぐってあげたくて手を伸ばしたが俺の体の主導権を誰かが奪い取った。
「ごちゃごちゃ言ってねえで黙って俺を選べ」
俺の胸ぐらを掴みながら脅迫してくる猿。力強い彼に抵抗は無意味。しかし強気に迫っていても唇の端が少し震えている。不安なんだ、彼だって。
ふと右手に何かを感じる。
「僕……こんな気持ち初めてなんだ」
控えめに手を握ってくる湊。やさしく握るその手はとても暖かい。
「ねぇ、私を」
「俺を」
「僕を」
「選んで」と迫る三人に俺は黙ることしか出来ない。そんなこと、簡単に決められるはずがない。たかが校則と言えど付き合うことに変わりない。ちゃんと好きな相手を選びたいし、卒業してもちゃんと付き合い続けたい。三人はそうでは無いのだろうか。
「お前がさっさと選ばねえから俺らが迷惑すんだよ」
「そんなこと言われたってまだ転入して一か月も経ってないし……決められないよ」
猿は舌打ちしながら俺を突き飛ばす。一瞬喉がつまり、尻もちをつきながらガホゲホと咳が止まらない。
「だ、大丈夫……!?」
楓が駆け寄ってきて背中をさすってくれる。
「好きなのに傷つけて満足なの……」
「誰がこんなやつ好きになるか」
「嘘ばっか……私知ってるんだからね。猿がーー」
「それ以上言うなら殴るぞ」
楓は猿を睨みつけてから今度は俺の手を握る。湊より少し冷たく、ふわふわと柔らかい。
「ねぇ……こんなに好きなのに、私じゃダメなの?」
流れる涙を反射的に拭う。楓はその手に顔を寄せてほほ笑む。元々の見た目と相まってかわいい。
「お前色仕掛けは卑怯だぞ」
「べー! 悔しかったら私みたいな色気だしてみろ~」
楓は急に強気に猿へとケンカを売る。さっきの涙が嘘だったんじゃないかと思うほどに威勢がいい。
猿はそのけんかを買って楓に殴りかかる。ゲーマーらしからぬ筋トレを趣味にしている猿に楓が対抗できるはずもなく楓は殴られる一方的なケンカ。可愛かった顔に傷が増え、小さな抵抗として楓も猿の腕に爪を立てる。
まさか「俺のために争わないで」なんて恥ずかしくて言えるはずなくしかし二人をこのままにしていたら確実に楓が大怪我になる。
「……湊?」
二人のけんかを眺めていると湊の手がせりあがってきた。
「ぼく、楓みたいにかわいくないけど……」
俺の手を湊自身の胸に当てる。どくどくと激しい鼓動。
「君に触れてるとこんなに胸が痛いんだ」
「み、湊? 平気か……?」
「だめ、みたい……」
真っ赤な顔の湊。そんな顔されたら自分まで意識してしまうじゃないか。
「湊お前抜け駆けか!」
「そういうわけじゃ……」
今度は湊に喧嘩を吹っ掛ける。湊自身にそういう意思がなくても確実にそう見える。そして三人は取っ組み合いのカオスに。
「……ああ、やっとわかった」
三人とも血で血を洗う戦いの中、一人冷静になって考えてみた。学校でもない暗闇で3人に襲われることなど現実にあるか。いやない。
俺は勢いよく二本の指で自分のほほをつねった。その瞬間目の前の三人はパッと姿を消し、世界にも光がみちる。そして目の前には見慣れた天井。
そう、すべて夢だ。何度も見た最悪の悪夢。
「夢だけならハーレムで喜べたのに……」
ちなみに俺は勃っていた。
カクヨムから移植させようとしたらまさか140字では投稿できないという壁にぶつかり、カクヨムのものをもとに新しく書いていこうと思いました。
カクヨムで見たことがあっても今後ともよろしくお願いします。
コメントや感想等も気軽に頂きたいです。めっちゃ喜びます。