岩田鋼はバンドをクビになり、死ぬ
「なぁ、イワちゃん、やっぱ合わんわ。バンド抜けてくんない?」
またか。。。
イワちゃんと呼ばれた男。岩田鋼。このバンドのギター担当、、、だった。
「あっ、あのさ、な、なんで、ッ、、、(俺はバンド辞めなきゃなんないの?)」
岩田鋼は口下手だった。
口で喋るよりギターで喋らせた方が冗舌なくらい、彼はギターが上手かった。
上手すぎて色んなバンドの助っ人を安請け合いし、今に至る。
しかし、彼の入ったバンドは必ず解散するか、彼自身が辞める羽目になる。
何故なのかは、辞めさせる方、辞めさせられる当人も良く分からない。
「なんか、ウチらとは音楽の方向性が合わないんだよね。シンセあればイワちゃんの伴奏は正直要らないし、、、ほら、、、イワちゃんってその、スタイルとか違うから、、、」
ボーカル、ドラム、ベース、キーボード、自分を除く全員が年下の大学生。
ポップでキャッチー、コミュ力重視のイケメンボーカルを中心に、お洒落な女性キーボーディストに、ちょっとスポーティなドラマーに、クールなベーシスト。
ザ・ありがち中のありがちバンドだ。
「イワちゃんはほら、ウチらと違って、なんか、ロック系っていうか、、、そっちで頑張れば良いじゃん。」
さらっとバンドを脱退させられた岩田鋼は手慣れた手付きでシールドを纏め、エフェクターケースとギターを担いで、スタジオを後にした。
「お、イワちゃん?もうスタジオ上がるの?」
ライブスタジオスタッフの女の子、下北さんが岩田に声を掛けた。
「バンド、クビになった。」
「またぁ!?イワちゃんすっごいギタリストなのに、わっかんないなぁ。勿体無いわぁ。」
下北さんはプリプリ怒っていたが、岩田は否定した。
「凄くはない。」
彼自身、ギターを長く弾き続けているが、それはただ単に趣味だ。
音楽を楽しむなら、バンドを組めば楽しいはず。
そう思った彼自身、数々のバンドを渡ってきたが、メンバーと上手く馴染めずに終わるのだ。
最初は同じ趣味であるバンドを組めて嬉しかったが、最初のうちだけだった。
「岩田さんは口下手だもんね?ピンからやり直しだね!」
下北さんはにっこり岩田に微笑む。
岩田は頷いてスタジオの階段を登り、地上に出た。
有料駐車場に停めた車にギターケースを入れると、近くのコンビニでタバコを買い、喫煙所でオイルライターの火を付けた。
「ふぅ。。。」
煙が昇る。
彼は明日の仕事の事を考えた。
昔から口下手な彼は、勉強はそこそこ出来たので、大手の工場ラインに就職した。
3ヶ月の研修は、大声で朝の挨拶を叫んだり、地獄の様だったが、耐えた。
その後はパーツを点検したり、フォークリフトで運ぶだけの仕事だ。
生活習慣病予防に、たまに体操したり。
溜まった金はCDやギターの教本に使った。
岩田鋼はロックバンドをこよなく愛した。
特に北欧メタルバンドの個性的なキャラクターに惹かれていた。
彼らが歌う題材は、剣と魔法のファンタジー、古代の戦士達、神々を讃え、死者が蘇り、悪魔が降臨し、竜が空を飛ぶ。
彼は憧れていた。
メタルバンドではなく、神話の世界を体現する、メタルウォーリアーに。
「凄いな。。。いつか俺も。。。」
日本でそんなバンドはなかなか結成出来ない。
出来たとしても、デーモン様くらいだ。
その夜、車に乗って帰宅した彼はアパートの階段を踏み外し、もんどりうって転げ落ちた。
そして二度と目覚める事は無かった。
この世界では。
主人公のイメージは、栗原類。