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第19話 外れる箍

「そういうのはいいから、遠慮する──そう言ったよな? 俺の気持ちが分かったんだよな? なら何でこうなってるのか教えてくれよ」

 総司にほんの二日前のことを突き付けられ四人は口ごもる。 伝わっていたならこんなことにはなっていなかった。 反論することもできない四人に、総司はさらに続ける。

「照れてるとか恥ずかしがってるとか、言葉で伝えたのに勝手に人の気持ちを曲解したんだろ?──それで言えば分かるとかどの口で言うんだよ?」

「それは……今度はちゃんと受け止めるから! 聞かせてくれよ!」

 総司に突き放すように言われ、それでも食い下がる文彦に、総司はまた嘆息する。

「……心配しなくても警察なんか行かない」

「違う! そうじゃ──」

「謝罪もいらない。 償いもいらない。──もう無関係で、それでいいだろ?」

「総司……」

 それまで、当事者ではないため口をつぐんでいた洋介が、何も期待しないと言われていることに耐えられず思わず口を出していた。

「俺たちは総司を何で傷付けたのか知りたいんだよ。 仲間だと思ってしたことで傷付けてそのままにしたくないんだ。 実際にやったのはこいつらだけどみんなで話して決めたことだから、総司を傷付けたのは俺たち全員の責任なんだよ。 だからみんなでちゃんと、総司を何で傷付けたのか知って仲直り──」

 洋介の言葉は突然の音に遮られる。 ドアに激しく拳が叩き付けられた音──突然ドアを殴った総司に、その場の空気が凍り付いた。

「……お前らを思いきり罵ってやりたい」

 総司の暗い呟きに洋介たちが身を強張らせる。

「俺がどんな思いでいるのか思い知らせてやりたい。 学校にも警察にも全部ぶちまけて追い詰めてやりたい」

 息を吐き出すだけでは抑えきれなくなった怒りを少しでも誤魔化すように、拳をドアに何度も叩き付けながら総司の独白は続く。

「お前らに言ったって伝わるなんて思ってない。 何も分からないで謝られたって腹が立つだけだ」

「総司……」

「仲直り? できるわけないだろ? お前らは俺が踏み越えないって決めてた線を踏み越えさせたんだよ」

「……」

「お前らに分からせたいと思っても無駄……仲直りしたいなんてお前らが思うのも無駄──何もかも無駄なんだよ……だから、俺はお前らに何も求めないし何もしない。 いいやつらだったのは確かだし好意でしてたのも分かってるから警察に言ったりしない」

 総司の怒りの深さに洋介たちが項垂れる。 それを見もせず、ただドアを何度も殴り付け、睨み付けながら、総司の口からは今の心境を垂れ流すように言葉が出てくる。

「……無駄でもぶちまけてやりたい……そうすれば少しはすっきりするかも知れない……それを必死に我慢してるんだ。 一言でも言ったら止まらない……お前らに俺の気持ちを理解させるまで絶対に……戸倉(・・)には世話になったからひどいことを言いたくなくて我慢してるんだよ……!」

 感情を圧し殺すように淡々と話していた総司の語気が強まる。 こんなになるほど傷付けたのに我慢してると言われ、誰も、何も言えなくなる。

 総司も何も言わなくなり、ドアをゴンゴンと叩いていた音が止んだ。 もう一度、大きなため息を吐くと総司はドアノブに手をかけドアを開ける。

「……総司くん!」

 全員が沈黙する中、ドアをくぐろうとした総司の背中に春が叫ぶ。 耐えられなかった。 このまま行かせたら二度と総司と話ができない。 かも知れないではなく、そう確信せざるを得なかった。

 名前で呼んでもくれなくなって、それでもまだ自分を気遣ってくれている。──そんな総司に自分たちが何をしたのか、知らないままでいたくなかった。

「……全部言ってよ」

「春……」

 心配そうに由美が春に声をかける。 総司は春にひどいことを言いたくないと言っていた。 多分、総司の話を聞いて一番傷付くのは春になるだろう。 総司のこともそのままにしたくないけど仲間が傷付くのも避けたくて制止するように声をかけていた。

 だけど春はそんな由美に首を横に振る。

「総司くんのこと、そんなに傷付けて……あたしは傷付きたくないなんて言えないよ。 お願いだから聞かせて……」

 怖くてたまらない。 総司が一体、自分たちに何を感じているのか──それを聞くのもそうだし、総司がそれを口にしたらひどいことを言いたくないと、まだ自分たちに向けてくれている気持ちもなくなるんじゃないかと怖くてたまらなかった。

 その怖さから逃げずに声を上げた春に、由美も洋介も、彰たちも頷く。 総司の気持ちを知りたいのはみんな同じだ。

 廊下に足を踏み出していた総司はそのままの姿勢で動かず──大きくため息を吐くと足を戻してドアを閉めた。

 そうして春たちへと初めてまっすぐ顔を向ける。 その目の暗さに全員が愕然とした。 聞かせてほしいと決めた全員が──春でさえ前言を翻したくなるほど、抑えることをやめた総司の感情は暗く激しいものだったと、悟らざるを得なかった。

 総司はダイニングからリビングを抜け、広間へと足を踏み入れると智宏の横に腰を下ろした。 テーブルに肘を突き、両手で顔を覆う総司は一つ息を吐き、そのまま黙り込む。

 何を言われるのか、春たちも緊張して黙り込み重い沈黙が流れる。

 誰も何も言わない、無言の時間がしばし流れ、息子を気遣う智宏が総司に無理をするなと促そうとした時──口を開いた総司の言葉に全員が耳を疑った。


「お前らさ……本気で頭おかしいよな」

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