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第15話 気付かぬ間違い

 彰の言葉の意味が染み渡り、全員の視線が春に集まる。 みんなに見られながら照れたような気まずそうな乾いた笑いを上げる春。

「春……あんた、ゴムはちゃんとしようってみんなで約束してるよね?」

 複数でしているのだからもし誰かが病気を持っていたら全員がかかりかねない危険がある。 それにもし妊娠となったら女子は大きな傷を負うことになる。 仲間と全員を守るため、コンドームの使用は絶対ということはみんなで決めていたルールだ。

 それなのにコンドームを使わなかったという春に由美が非難の目を向けるが、

「そうなんだけど……総司くんのおっきかったからみんなの持ってるゴムじゃ無理そうだったし」

「……それはそうかもね」

 男子にはちゃんと自分にあったゴムを用意させている。 なかったらしないと約束してるから問題はなかった。

 今回は総司には内緒で誘ったから総司に用意があるわけもないので、彰たちの持ってるのを使わせればいいと話してた。 だけど総司のサイズが想定外だったせいでコンドームが使えなかったと、由美は一応納得する。

 春の言葉とそれに同意する由美に、彰たちが若干凹んでいることには気付かず、春はもじもじと指を絡めながら、

「それにね……総司くんに喜んでほしかったし……総司くんのこと……直接感じたかったし」

「まああんたと梨子は総司くんとしかしないんだし、病気でみんなに迷惑かける心配はないからいいんだけどね。 ただ妊娠は安全日と思ってもあるんだから気を付けなさい」

「ちなみにどうだった?」

 生に興味があっても経験のない紗奈が好奇心で春に突っ込んでくる。 妊娠と病気を避けるためにコンドームは絶対と決めているからできないけど、興味は紗奈も梨子も持っていた。

「んっとね、みんなとしてるのと全然違ったの。 着けてなかったからか、総司くんがおっきかったからか……その……総司くんが特別だったからかは分かんないけど」

 恥ずかしそうにしながら、だけど嬉しそうに、総司を受け入れた感触を思い出して語る春の様子に、由美は同意するように頷く。

「春にとって総司くんが特別なんだね。 あたしも先輩とみんなじゃ全然違ったけど、ゴムは着けても着けなくても変わらなかったし」

「ちょっ、由美! お前はやってたのかよ?」

「先輩がしたいって言うしあたしもしたかったからね。 病気の心配もないから生理前のまず大丈夫な日に中には出さないって約束で一回だけ」

 由美の体験談に何人かは羨ましそうな目を向ける。 

「男は全然違うらしいけど女はどっちでもあまり違わないかな。 好きな人と直接繋がってる感じはすごい幸せだったけどね」

「いいなぁ。 俺もしてみてぇよ」

「だったら彼女作ってお願いしなさい」

「それができたら苦労しないって」

 由美にあっさり流され愚痴を言う優太はおいて、由美はここまで聞いた話を頭の中でまとめる。

「話が逸れちゃったけど、彰の言うことをまとめると、最初は恥ずかしがってたけど春とキスしてからは乗り気そうだったのよね?」

「まあ……俺らにはそう見えた」

「で、春が生でしようとしたら止めようとしてた?」

「多分だけど……春を止めようとしてる口振りだったかなって」

「それで、その後はどんな様子だったの?」

「それで終わりだよ。 もう春としちゃってるわけだし総司だって春と好きなようにしたいだろうと思って押さえるのやめたら春を突き飛ばして……後は最初に言った通り」

 話はこれで全部でさっぱり分からない。 彰がそう溢して肩を竦めると、由美は全員に目を向ける。 何か気付いたり意見はないか、問いかける視線に梨子がおずおずと口を開く。

「キスの話がなかったら春のことが嫌だったのかなって思うんだけど──」

「多分違うよね。 春はどう思う?」

 梨子の言葉に同意しながら、由美は実際にキスしていた春に話を振る。

 春は総司とのキスを思い返して恥ずかしそうに顔を赤らめ、

「んっとね……総司くんからもしてきてくれたから違うと思う」

 春の感想にみんな同意するように頷く。 話を聞いた限りでは総司が春のことを嫌がってるようには思えなかった。

「だとするとやっぱゴムを使わなかったことかな」

「でもよ、生だからって何をそんな怒るんだよ? 初めてでそんなのむしろうれしいだろ?」

「妊娠とか病気のリスクを気にしてたら怒ってもおかしくないわよ」

「それは……まあ病気の心配してたら──」

「……いきなりそんなことに頭回るかな?」

 断言するような由美の言葉に、考え込んでいた紗奈がぽつりと呟く。

「総司くんってさ、初めてだったのは多分間違いないよね?」

 総司の転校初日に屋上で梨子が聞いた時の反応から、総司が未経験だったのは間違いないと、それは全員が確信していた。

 みんなが頷くのを見て紗奈は先を続ける。

「でさ? そんな初めてで、何も聞いてなくていきなりするようなことになってさ、病気とか妊娠とか考える余裕はないんじゃないかな?」

「それは……でもそれくらいしか理由はないと思うんだけど」

「だから分かんないなって思って。 みんなでしてるって話をしたのは直前でしょ? だから総司くんが怒ってたのは他のことに対してなんじゃないかって思うんだけど──」

「あっ……」

 何かに気付いたように声を上げた春に全員が目を向ける。

「どうしたの?」

「あの、そのね……あたし……総司くんと初めて学校にくる時にその話してたんだ」

「はぁっ?」

 初めて聞く話に由美が思わず変な声を上げる。

「ちょっと待って。 あんた、まだ総司くんもあたしたちも会ってすらいないのに仲間内の話をしたの?」

「うん……前の日に色々お話しして、総司くんだったらみんな歓迎するって思ったから」

「確かにそうだったけど……ってことは総司くんは最初から知ってたの?」

「みんなでしてるのは……」

「ゴムはちゃんとしてるとかは?」

「総司くんは何も言わなかったし聞いてこなかったからそこまではしてない……」

「初日に春と文彦がしてるの見ようともしてなかったし、ちゃんとゴムを使ってるの気付いてなかったんだろうな」

 ようやくみんな納得がいった。 最初からみんなでしてるのを知ってた総司だけど、コンドームを絶対に使っていることは知らなかったから病気の危険性があると思っていたんだと、そう納得してしまった。

「知ってたならゴムくらい用意してくれてればよかったのに──」

「総司も誘われるって思ってなかったんだろうね」

「ってことは今日休んでるのも病院に行ってるのかもな」

「いくら怒ってるからってそれで休むってあまりないもんね」

 ようやく総司が怒った理由と学校を休んだ理由が分かったと、弛緩した空気が流れる。 春も彰も文彦も信雄も、誤解で総司を傷付けたんだと、誤解を解けば仲直りできると、昨日から何も分からずにもやもやしていたのが晴れて安心していた。

「それじゃ学校が終わったら四人で謝ってこいよ。 それと病気とか心配ないからってちゃんと伝えて」

「うん! ちゃんと総司くんと仲直りしてくるよ!」

 いつもの調子が戻った春にみんなが笑い、深刻だった空気が和らぐ。 そうして、後はいつも通りの時間が過ぎる。 女子が総司のがどうだったか春に聞いたり、男子は総司のサイズのことを話したりと、ようやく昨日のことを気軽に話せる雰囲気になっていた。

 昼休みが終わり、午後の授業を受けながら春は早く総司に謝りに行きたかった。 総司の家のインターホンを鳴らすのをあれだけ躊躇った昨日とは違い、早く話して仲直りがしたいとそう思っていた。


 結局、彼らは真実にたどり着けなかった。 前提の間違った話でたどり着けるはずがなかった。 たどり着けないどころか、真実とほど遠い場所にたどり着いてしまったのにたどり着いたのだから真実だと思い込んでしまった。

 たどり着けないならもっと前提から見直すことはできただろうに、根本から間違っていることに気付けなかった。 一度気付きそうだったチャンスもはっきりとした道が見えて逃してしまった。

 真実にたどり着けなくても、たどり着けないからこその深刻さは感じ取れたかも知れない。 それが前提にあったならもう少し違っていたかも知れない。

 間違った道で間違った場所にたどり着いた彼らは、結局のところ間違った対応しかできなかった。 どこで間違ったのか、後で自問したところで出る答えは──何もかもが間違っていたとしか言えなかった。

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