プロローグ
星の終わりを受け入れて、母なる大地を後にした
。
宙をかける一団は地球へと降り立ち、その星で幾ばくかの休息と種を取る。そうして彼らは再び宙へと旅立つのだ。
彼らが居た場所は広大というにもあまりに大きい。船という概念からはかけ離れ、それはまるで大陸のようだ。
先住民の知識人はこれを大陸と呼んだ。
そうして、旅立った彼らは歴史の虚構へと落ちて満たされて溶けてゆく。
知識人は消えゆく幻を残すため、ひとつの物語を紡ぎ上げた。
彼らの街を、船を、そして大陸を。
我々はアトランティスと呼んだのだ。
星は滅び、時の彼方へ消えてゆく。
流れる時は全てを等しく洗い流し、また砂の城のごとき文明を育み満ちる。
仕方のないことなのだ。
最後の一人は悲しげに呟いた。
誰からも応えはなく、ただ言の葉は無機質な船内に残響が起こる。
星を見下ろす船に最後の一人。管理者の末裔は新たな星に生きる全てのモノに慈愛を向ける。
せめて。せめて、次こそは。
不合理で無秩序な終焉ではなく、彼方への繁栄を求む。
時が満ちたその日に。出会いが最良のものとなることを祈り、最後の一人は深く長い眠りに落ちて、凍り、時を止めた。
しゅぽーん、と。詰まりが取れたようなこぎみ良い音が流れる。
音とともに飛んできたボールは手のひらほどの大きさで、それを逆立ちした女が両太腿でキャッチした。
「いえーい! ナイスキャッチ!」
下着姿の女は、そのまま床にボールを落とす。
「もいっちょこいや!」
女の声に、部屋全体から『了解しました。射出まで5秒、4、3、2、1ーー発射』と機械音声がこだまする。
ぼしゅーん、と壁から突如現れた筒からのボールを、再び綺麗に股に収める。
「へへーん。楽勝だわ! いやーでもこの音が良いわよねー。筒から出る音が。あれだけ聞いてるだけでもいいかみしれんわー」
女の言葉に偽りはなく、口調は楽しげで口元にも笑みが溢れている。ただ、無駄な独り言を垂れ流すその顔の眼に光はなく、死んだ魚の如き濁った眼光が狂気を醸し出していた。
「あ。ダメだ。やっぱ飽きたわ」
唐突に笑みが消え生気が失せる。
どたんと音を立て、仰向けに倒れた。かなり大きな音を出したが、咎めるものもいなければそれに反応するものもない。
そして虚な足取りで、運動器具の置かれた白い部屋を出た。
無機質な廊下はやはり白く、人の気配どころか生き物の匂いすら皆無である。
女は歩き、寝室と称する部屋へと入る。
「寝る。起きたら起こして」
などと宣い、機械音声はそれを了承する。女は深い眠りに落ちた。