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白銀の王。  作者: 春乃來壱
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7.一方、そのころ。

輝璃目線となります。





ーー碧がフィーとむいの魔法をひたすら見てた同時刻。




帝国の城ではワタリビト達が対立していた。


「今、なんて言ったんだい?」


(ひかる)が睨みつけるも輝璃は眉一つ動かさずに先程と同じ言葉を口に出す。


「…俺らは抜ける、って言った」


「はぁ…?」


訳が分からないと間抜けな声を出す晃を見ながら、輝璃は普段と変わらない無表情に見えるが珍しく苛立っていた。


その原因は王から言われた話にあった。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





カーテンの隙間から入ってくる日差しの眩しさで目を覚ました輝璃はのそのそと体を起こし欠伸をする。

少しの間ウトウトと微睡んでいるとコンコン、と小さく扉をノックする音が聞こえる。扉の方を見ながら“入っていいよ”と声をかけるとゆっくりと扉が開き、雪が入ってくる。


「お兄ちゃんおはよう。あ、待って二度寝しないで!」


もう一度布団に潜り寝ようとすると、強制的に雪に布団を没収された。

没収された布団をじっと無言で見つめささやかな抵抗をしていたが返してくれなさそうなので仕方なく立ち上がり着替え始める。

雪が制服のズボンやネクタイを次々に渡してくる。


朝に弱い輝璃を起こし、着替えを手伝うのは、もうずっと前から繰り返してきた日課のようなものだった。


ようやく着替え終わって一息つくと、また扉からノックが聞こえてきて雪が扉を開けると使用人達が入ってきた。

輝璃と雪が着替え終わっているのを見て、“朝食のご用意が出来ましたらまた来ます”と言い残し恭しく一礼して部屋を出ていった。


それから2人はすることも無く暇になってしまったので、再び呼ばれるまで碧の部屋に行こうと動き出す。

昨日部屋に入る時に碧の部屋は教えて貰っていたので覚えていた。輝璃と雪は隣の部屋で、碧は輝璃の2つ隣の部屋だった。

そう言えば輝璃と碧の間の部屋は誰だったんだろう、と考えたが思い出せないということは空室だったんだろう。


それにしても流石は王の住む城と言うべきか、部屋と部屋の距離が遠い。

ベットも1人で使うには大きすぎたし、今日からは碧と雪と一緒の部屋にしてもらおうかと考えてるうちに碧の部屋の前に着いたので扉をノックする。



「……?」


「出てこないですね?」


もう一度、“コンコン”と先程より少し強くノックする。

それでも出てこないので何かあったのかと思い、“碧入るよ”と声をかけてから扉を開けようとドアノブに手をかけた時、後ろから声がかかった。


「カガリさん。ユキさん。大事なお話がございます。どうか王の間へ」


そう声を掛けてきたのは輝璃達をこの世界に召喚した姫だった。名前はなんだったか。

輝璃の彼女に対しての第一印象は胡散臭い女…とあまりいいイメージはない。


「…碧を呼んだら…一緒に行く」


「そのミドリさんのことで話があるのです。とにかくこちらへ」


焦ったように伝えるロベリアの様子を見て、なにか事情があって碧ももう王の間(そこ)に居るのではと素直について行くことにした。


王の間に着くともう他の4人は揃っていて碧だけが見当たらない。キョロキョロしながら碧を探していると王が喋り出した。


「昨晩、残念なことが起きた。ワタリビトの一人、タカナシ殿が【盗賊(スキル)】を使って宝物庫に侵入し国の金を盗んで逃走していった」


「…?!それは本当ですか?」


晃が驚愕の表情のままロベリアに確認をするように尋ねるのを見て、輝璃はなんでそんな馬鹿なことを聞くんだろうと思った。


「えぇ…異変に気づいて私たちが駆けつけた時にはもう…騎士達とそんな事は辞めるよう説得を試みたのですが…」


下を向きながら怯えた様子で話すロベリア。

その様子を見てすっかり話を信じ込んでしまった晃が拳を固く握り締め怒り出す。


「そんな非道、許せない」


「ヘタレだと思ってたが異世界で盗みとはあいつ意外と肝座ってんのなぁ?」


「だねぇ。でも国のお金取るとかヤバすぎじゃん!」


「そんなことする人だとは思わなかったわ」


会ったばかりの王の言葉を疑いもせず信じる4人を見て、輝璃は心底くだらないと思った。


「…ふざけるな馬鹿」


「神代さん?どうし…」


「ふざけるなって言ったんです。みーくんの事何も、何も知らないくせに…!」


普段怒らない雪が手をきつく握り締め悔しそうにぽろぽろ涙を零しながら叫ぶ。その頭を優しく撫でながら輝璃は王に問う。


「…本当に、碧がそれをやったの?」


「ああ。そうだ」


「…そう。じゃあ俺らは降りる。碧を追いかけなきゃ」


“はぁ?!”と4人が叫ぶ。うるさいなと思いつつ雪の手を引き城から出ていこうと踵を返すと晃に行く手を遮られた。


「…どいて。邪魔」


「信じたくない気持ちは分かるけど碧くんはもう犯罪者なんだ!」


「なんの証拠があって言ってるの?」


「ロベリアも見たって言ってるんだ。それに本人がいないのが何よりの証拠だろう?!」


ただ碧がこの場に居ないというだけで、会って1日も経っていない相手の突拍子もない話をなぜ信じれるのかと輝璃は半ば呆れながら晃を見る。


「…そう。でも碧はやってないよ」


「それこそ何を証拠に…!」


「碧に()()()()()()()()んだよ。()()は碧が1番嫌がることなんだから」


それにもしも、この場から碧が自ら出ていったのなら自分達を連れていかないはずがない。

碧が自ら出ていく決断をしたのならば、碧は何があろうとまず自分達に言いに来ると断言出来る。じゃないと雪が確実に泣くから。

優しいあの子は雪が泣くのを良しとしないし、どんな状況だろうと自分達がついて行くと知っているからまず確実に話に来る。


それが無かった事から分かるのは、あの子が不測の事態に巻き込まれたということで。


「はぁ…?」


「…でもそれを言った所で君らは信じないんだから時間の無駄でしょ?俺達こんな王と姫(クズ)の茶番に付き合ってる暇はないんだよね。そっちは別に世界でもなんでも、勝手に救ってればいいよ。もう俺らには関係ないし…だから早くそこどいて」


「…お前っ!」


晃がギッと睨みながら胸ぐらを掴んでくる。はやく碧を探しに行かなければいけないのに邪魔だなと思いつつ、輝璃は小さく溜息を吐きながらその手を叩き落として冷めた目で王に視線を移す。


「俺らは碧が居ないなら協力する気はない」


「タカナシ殿を追いかけるならば貴殿らを共犯、と疑わねばならなくなるが…それでもいいのかな?」


協力しないのであればお前らも犯罪者に仕立て上げるぞ、と薄ら笑いで脅しをかけてくる(クズ)

それに臆することも無く淡々と輝璃は宣言する。


「やるなら勝手にやればいい。…俺らは碧を“悪”としたお前らを絶対に許さない」


雪の手を引き、今度こそ城を出ようと動き出す2人を扉の前に立っている騎士が止めに入ろうとする。


「…しつこい【()()()】」


輝璃が口にした瞬間ピタリと騎士の動きが止まる。

昨日の夜に、使い方を物で試しておいてよかった。

人に対しては初めて使ったけどなかなか便利だな言霊(これ)、と考えながら扉を開けてでる。


出る前に何人かの喚く声が聞こえたが無視して扉をしめ、追ってこられたら面倒なので【不動】と扉に言霊(スキル)を使っておく。すると扉に【10min】と表示が出たので10分は扉が開くこともないだろう。

廊下を進みながら雪とこれからの話をする。


「…碧、どこにいるかな」


「もし誰にも見つからず追放すると考えた時見つけづらい場所は…」


すぐ近くにある街や村よりも見つかりづらい場所で。

昨日の夜部屋で見た本に書いてあった人間が足を踏み入れない場所として書いてあったのは…


「「災厄の森?」」


「…じゃあ、そこに行ってみようか」


「うん!」


本には確か災厄の森は帝国から歩いて1日程の距離と書いてあった。

ただでさえ時間がかかりそうなのに、このまま行くと城から出てきた騎士達から逃げながら向かうことになる。

そうなると碧がもし移動したらすれ違いになる可能性も出てくるのでそれは避けたい。城の外に出てから輝璃は再び言霊を使う。


「【変化】」


輝璃の体が淡く光ってみるみる縮んでいく。光が収まった輝璃の姿は猫になっていた。

言霊でどこまで出来るかは正直賭けだったがどうやら上手くいった様だ。この姿ならもし見つかってもバレることはないだろうと雪にも言霊を使おうと口を開く。


「にゃー……にゃう?」


どうやらこの姿だと言葉を話せないらしい。便利なんだか不便なんだか分からないな、と思いつつ頭の中で【解除】と唱え元の姿に戻る。

“猫ちゃん…”と雪が何やらガッカリしていたが気にしない。


変化出来たまでは良かった。

猫だと、バレにくく捕まらない利点はあるが、人間の足で行くより同等かそれ以上の時間がかかってしまう。


何とかしないとそろそろ10分経ってしまう。変化しようとしても猫だと意味が無い、と考えていると対象を指定できたらいいのではと思いつく。


さっきの変化は何も変化するものを指定してなかったから無意識に自身の好きな動物である猫になったとしたのではと思い、次は前に読んだ、足が早い動物として本に書いてあったコヨーテを思い出しながら変化しようと想像しながら言霊を使う。


「【変化】」


また輝璃の体が縮んでいく。変化が終わったあとの自分の手を見ると犬の様な脚だった。どうやら成功したらしい。


その時城の中からバタバタと何人もの人の足音が聞こえてきた。急いで変化を解除し、雪をコヨーテの姿に変えてから自分ももう一度変化する。その直後、城の中から騎士達が何人もでてきたが輝璃達をちらりと一瞥し、不思議そうな顔をしながら走り去っていった。


雪に“行こう”と仕草で伝え、2匹は災厄の森を目指して走り出した。



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