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白銀の王。  作者: 春乃來壱
16/31

16.初めてのダンジョン。





「…ん」


まだ覚醒しきっていない頭で目をこすりながらゆっくりと体を起こす。


どうやら輝璃達と話し込んでいるうちにいつの間にか寝てしまったらしく窓の外はもう明るくなっていた。

ソファーを見るとむいと雪はまだ寝てるようで、輝璃とフィーの姿だけ見当たらない。


ぼうっとした頭でどこに行ったのかと考えているとキッチンから物音がしたので向かってみると2人の話し声が聞こえる。どうやら朝ごはんを作ってくれているらしい。


「おはよう輝璃、フィー」


「…ん。おはよ、碧」


「ミドリくんおはようっす」


自分も作るのを手伝おうと思ったがちょうど作り終わったところだったらしく後は机に運ぶだけのようだったので、一緒に料理を持ちながらリビングに行くと雪とむいが起きだしていた。


眠そうにしているふたりに声を掛けて朝食を食べた。

お腹いっぱいになったところでそのまま軽く身支度を済ませる。碧と輝璃、雪の服装は学校の制服のままだったのでフィーに聞きながら、“傲慢”で目立たないような服とフード付きのローブを創った。




「それじゃあ準備はいいっすか?」


「はい!遺跡(ダンジョン)はちょっと怖いですけど獣人国は楽しみです!ね、むいちゃん」


「楽しみだねぇ」


フィーの問いかけに雪とむいがにこにこと手を繋ぎながら答える。

因みに手を繋いでいるのはむいが迷子にならないようにだそうだ。雪がただ手を繋ぎたいだけな気もするけど微笑ましいので黙っておくことにする。



必要な持ち物を“ボックス”に入れ5人は外に出る。そのまま碧は【収納(スキル)】で家を“狭間”にいれるとフィーが転移の準備をし始めた。


フィーとむいは災厄の森からほとんど出たことがないのでダンジョンにも行ったことがない。転移は1度行った事のある場所なら自分の思った位置に飛べるが、行ったことのない場所だと多少のズレがでる。

そのズレを少なくする方法として転移魔法陣を使う為、魔法を行使するまでに少し時間がかかる。


「“転移魔法陣展開”っす」


目を瞑りながらそう呟くとフィーの足元に大きな白銀色の魔法陣が地面に浮かんで風が吹きふわりと髪を揺らす。

少し経つと風が止み魔法陣だけが残った。


魔法を使う時や魔法陣を描く時に必要となる魔力の色はその人の得意属性や種族によって変わるらしい。


フィーとむいは白銀。これはフェンリルはみんな魔力の色が白銀だったので種族の色なんじゃないかとフィーは言っていた。

雪と輝璃は白と黒で得意属性の色にあっていた。

碧の色だけ得意属性の色にはあっていたが少しだけ違う気がするんだよな、と考えているとフィーが魔法陣を完成させたらしく声がかかる。


「ん、これで大丈夫っす。この上に乗って欲しいっす」


その声に従い碧達が魔法陣の上に立つとフィーが魔法を発動し、一瞬の浮遊感があり次の瞬間には景色がガラリと変わる。


目の前にある大きな穴がダンジョンの入口なのだと予想はできる。出来るのだけど。


「…なんか遺跡ってゆうより洞窟っぽいね?」


「確かに洞窟の方が近い気がしますね」


「そうっすね。僕もちょっと想像と違ったっす」


碧がポツリと呟くと雪とフィーが苦笑しながら同意する。


「まぁでも中に結構な数の魔物の気配はあるんでここがダンジョンなのは間違いないっすよ」


そう言いながらフィーがダンジョンの入口へと歩いていったのでそれについて行く。

入る前にフィーが振り返り、中に入ってから気をつけた方が良いことなどを教えてくれた。



「僕は“隠密”で魔物に感知されないようにするっす。あ、でもミドリくん達には見える様にしとくっすね。」


災厄の森の魔物達と違い、ダンジョンの魔物は相手が視界に入った途端に襲ってくるものが多い。


その為フィーとむいが居ても魔物達が怯えて逃げる事はないので本来なら隠れる必要はないのだが、今回は双子(ふたり)が初めての戦闘という事もあり、万が一何かあっても直ぐに助けられるように自分はサポートに徹する、という事らしい。


役割としては、輝璃と雪が主に戦闘をして、碧がそれを手伝いながら魔物のスキルを盗み(みて)、むいとフィーはサポート&監視役と言ったところだろうか。


「時間はいっぱいあるんで焦らないで頑張って欲しいっす…【隠密】」


「…ん。頑張る。」


「頑張ります!」


双子(ふたり)は力強く頷いてから慎重に中へと進んでいく。


中は薄暗かったので、先頭を歩くむいが“ライト”で照らしながら歩いていき、そのすぐ後ろを双子(ふたり)が歩き更にその後ろに碧とフィーが並んで歩く。


ダンジョンを数分歩いていると狭い一本道から広い部屋のようなひらけた場所に出た。ぱっと見た感じ広さは学校の体育館くらいだろうか。空気がじめじめしていて何だか蒸し暑い。


警戒しながら歩いていると突然上からポヨンと何かが落ちてきた。落下してきたのはスライムだったようで輝璃が持っていた短剣で核を壊しながら周りを見るとスライムが壁や床に何十体もくっついて動いていた。


「…こんなに居るとちょっと、不気味」


「…ですね」


若干顔を引き攣らせながらも次々と短剣で核を壊してどんどんと倒していく。碧とむいは双子(ふたり)が倒したスライムの魔石の欠片を拾い集めていった。



5分ほどである程度倒し終えたので奥に進むと遠目にゴブリンが居るのを発見する。数は7匹。休んでいる最中なのか寝ているものなどもいて、敵が来るかもしれないという警戒心はゼロのようだ。


ゴブリンは碧の腰くらいの身長の緑色の肌の小人みたいな見た目をしていて、狡賢い。

冒険者になりたての者でも倒せるくらいの強さだが他の低ランクの魔物達とは違い、敵から奪った武器や自作した武器などを使って攻撃してくる。


しかも執念深く、1度見つかるとしつこく追いかけ攻撃してくる。なのでゴブリンと出会ったら見つかる前に確実に倒すか戦闘事態を避けて逃げるのが定石とされている。


碧達が見つけたゴブリンも盾や剣、弓矢、棍棒などを持っていた。

まだ距離があるのでこちらの存在はバレてないので見つかる前に岩陰に隠れ、先にどう倒すかを話し合うことにした。


「…雪、大丈夫?」


「え、あ…うん。大丈夫」


心配そうな輝璃にじっと見つめられた雪がへらりと笑いながら答えるがその顔色は悪い。


男の碧でも初めて雪兎を倒す時に躊躇したのだ。

雪兎よりも人型に近いゴブリンを倒すのは勇気がいる。


「…やめとく?」


輝璃の言葉を聞き、雪は目を閉じて1度深呼吸してから首を横に振った。


「ううん、一緒に行く。()()()を1人にはしない」


「…うん。じゃあ、一緒に行こうか」


その目にもう迷いはなくて、雪の頭を撫でながら輝璃は少し悲しそうに顔を歪めた。それも一瞬のことですぐいつもの様子に戻っていた。


「…俺が【言霊(スキル)】で動きを止める」


「その間に私とお兄ちゃんが仕留めるんですね」


「…でもたぶん、半分くらいしか動きは止められないと思う」


「じゃあ残ったのは俺がやるよ」


「…ん。よろしく、碧」



ずっと一緒にいた分、お互いの考えがなんとなく分かるので作戦はすぐ決まった。


岩陰から出てゴブリンの居る方に歩いていく。

かなり近づいてからやっと足音に気づいたゴブリンが怒ったように攻撃を仕掛けようとするが、もう遅い。


「ーー【()()()】」


「グギャッ…?!」


7体の内、輝璃に近い位置にいた3体の動きがビタリと止まる。

自分の意思に反して動かない体にゴブリンが驚いたように声を上げたがその理由に気づく前に雪が魔法を放つ。


「【光刃】」


雪の放った魔法で2体のゴブリンの首が飛び魔石に変わる。


「…【黒霧】」


輝璃は黒霧で視界を奪ってから短剣でゴブリンの胸を刺して倒していた。


これで残りは4体。


碧が相手をするゴブリンは弓矢と短剣持ちが1体ずつ、石で作られた棍棒持ちが2体だった。


「…まずは弓矢持ちからかな【影渡】」


“ボックス”から双剣を取り出してからトプンと自分の影に潜る。

そのまま影の中を移動し弓矢持ちの影から出て、気配を察したゴブリンが振り向く前に首をはねる。


突然碧が自分達の後ろに移動した事に動揺しながらゴブリン達は武器を構え直し3体同時に碧に飛びかかる。

それを見ても碧は臆すること無く見据える。


「【炎舞】」


自身の持つ双剣に炎が纏う。“炎舞”の効果で体が軽い。そのまま力を抜くと、敵を倒すために最適な動きを導き出し体が勝手にゴブリン(てき)を舞うように倒していく。最後の1体を倒した事で双剣からゆらゆらと燃えていた炎が消える。


ゴブリン達の落とした魔石を拾おうとすると、魔石ではなくコインのようなものが何枚も落ちていた。

これがフィーの言っていたルーティアのお金なのだろうなと思いコインを拾い“ボックス”に入れながら輝璃達のいる位置に戻るといきなり双子(ふたり)に左右からほっぺたをつままれる。


「…ふぁにすんお(なにするの)


「みーくん強すぎます。ずるいです」


「…そうだね、ずるいね」


頬をつまんだまま “ねー” と息を揃える双子に碧は呆気にとられる。因みにフィーとむいは輝璃達の後ろで楽しそうにくすくす笑っている。え、何故。訳も分からず左右から双子に頬をむにむにされる碧に出来ることは“笑ってないで助けて”とフィーとむいに目で訴えかけることだけだった。




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