11.収納スキル。
輝璃目線です。
3人が眠りについた事を確認してから、輝璃とフィーは横になっていた体を起こしながら話し始める。
「じゃあ王はミドリくんが生きてるってことは知らないんすね?」
「…知らないと思う。もし知ってたら、真実を隠すために動いてるだろうし。俺等が城を出る時も知ってる感じじゃなかった。だから碧がまだ生きてるって知ったら、狙いに来ると思う」
「まぁ今のミドリくんが帝国の奴らに狙われたとしても傷一つ負わせられないと思うっすけどねぇ…」
そう言うとフィーが不意に申し訳なさそうな顔をする。急に黙った事を不思議に思いどうしたの、と声をかける。
「…ミドリくんの怪我なんすけど、その、完璧には治せなかったんす」
「……え?」
治せなかったとはどういう事なのか。碧は大丈夫なのか、と身体中の血の気が引くのを感じた。
そんな輝璃の様子を見て、フィーが焦ったように“でもミドリくんにもう痛みはないっすよ!”と言ってきた。訳が分からず困惑していると、フィーがわかりやすいように説明してくれた。
むいが碧を連れてきた時にはもうかなり危ない状態だったらしい。
刺された事による激痛や血が流れすぎたことが原因で碧の意識は既になく、呼吸もかなり浅くなっていたそうだ。
実際、刺されてから災厄の森に置いていかれるまでに、碧の怪盗が周りの騎士から強制的に体力を奪ってなければ碧の命は助からなかった。
急いで治癒魔法をかけ始めたが、血をこれ以上流させないために傷を塞ぐ事を最優先にした為、碧の胸には刺された時の傷が残ってしまったらしい。
それと、これはフィーが“森の守護者”で後から調べてわかったことだが碧は城から森の入口まで転移で騎士の格好をした2人に連れてこられ、そのまま森の前に置いていかれていたそうだ。
「…碧はもういいって言ってたけど、俺は、帝国の奴らを許さない。」
「奇遇っすね。僕も同じっす。それに、帝国の奴らには別件で恨みもあるっすしね」
「…別件?」
フィーは今話すべきか少し悩んだが、きっとこの話はあの子に聞かせるには酷なものになる。
それなら雪が寝てる今がタイミングとしては1番か、と12年前に自分達以外の白銀狼が虐殺されたことを話した。
「…なら王が言ってた魔王が攻めてくるって話も、嘘ってこと?」
「…?確かに魔王は帝国の王達を毛嫌いしてるらしいっすけど、関係ない民達を巻き込む人ではないっすよ?」
輝璃とフィーの話が噛み合わない。輝璃は王から聞かされた自分達がルーティアに呼ばれた理由を話してみた。
「…あいつらは、魔王が人類種を滅ぼそうと計画していて…10年くらい前から帝国の近くにある森から魔物が出てき始めてて魔王や魔族が本格的に攻め込んでくるのも時間の問題だからその前に魔王を倒して欲しい。って、そう言って…あれ?」
そこまで話して輝璃は違和感を覚える。
帝国の近くに災厄の森以外に森なんてあっただろうかと疑問に思いフィーに確認しようとそちらを向き、ギョッとした。
フィーが唇を噛み締めながら哀しそうな顔をして泣いていたのだ。
「…なんで、そんな事が言えるんすか?長を、みんなを殺しておきながら…なんでっ」
譫言のように“なんで”と繰り返すフィーに輝璃はどうしたらいいかわからず、悩んだ末にいつも雪にしてる様に優しく頭を撫でる。
俯きながらポロポロと涙を流していたフィーは、暫くすると泣き疲れてしまったのか眠ってしまった。そのままゆっくり横に寝かし毛布をかける。
その寝顔を見ながら輝璃はさっきの話について考える。
先程までの話を聞いて、フィーの様子を見た限り、十中八九 王が話していた“魔物の出てくる森”とは災厄の森の事だろう。
それに魔王は帝国を嫌ってはいるが別に無関係な国民を巻き込んでまで帝国を滅ぼそうと考える様な人でもないらしい。
それを聞いて考えられるのは、“フェンリルを殺し奪い取った力で災厄の森の魔物を倒せると思っていたが、きつくなってきたからワタリビトを召喚した”といった所だろうか。
フィーとむいの家族を殺して、自分たちの手に負えなくなったらワタリビトに押し付けて自分たちは安全な場所で見てるだけ。
その上自分の息子がした罪まで碧に擦り付けて殺そうとした。
「…本当に、碌でもないな」
次に会う事があったら全力で潰そうと心に決めた輝璃は1度だけ碧の頭を撫でてから自身も眠りについた。
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「…り、輝璃、起きてってば」
「…ん?」
腰のあたりを揺さぶられて輝璃は目を覚ます。
どうやらもう起きる時間になったようで、碧が起こしてくれたらしい。
「…おはよ、碧」
「おはよう輝璃。って言ってももう夕方なんだけどね」
“ちょっと寝過ぎちゃったね”と苦笑する碧に、窓に目を向けると確かにもう日が傾いてきていた。碧と話をしているとガチャリとドアの開く音がして雪達がこちらに歩いてくる。
「あ、お兄ちゃん起きたんだね、おはよう」
「カガリくんおはようっす」
「おはよー!」
3人に返事を返しながらも、フィーの様子が気になりチラリとそちらに顔を向けると、フィーもこちらを向いていて目が合った。
泣いた姿を見てしまったこともあり少し照れくさそうにしてたがどうやらもう元気になったみたいだ。よかった、と輝璃がホッとしていると碧から声がかかった。
「魔力も回復したし、【収納】を試してみたいからみんな一緒に外に出てもらってもいい?命のあるものが一緒の場所にあるとスキルが使えないみたいなんだ」
「…ん、りょうかい」
その言葉に4人は頷き外に出るために動き出した。
余談だが、魔力はレベルが上がると全回復する。それ以外にも放っておいても時間経過で徐々に回復していく。更に食事や睡眠を取ればその分早く回復していくそうだ。
家の外に出ると早速碧がスキルを使おうと行動に出る。
碧が家に手を触れて“【収納】”と呟いた途端、輝璃達が今まで家がフッと消えた。そのまま碧はこちらを向いて安心したように笑う。
「できた!できたよフィー、むい!」
「…ありがとうっす」
「よかったね、フィーにぃ!」
嬉しそうに笑う2人をみて碧達も嬉しくなった。
碧が家を戻そうとスキルをもう1度使おうとした時、何かを思い出したようにステータスを開き始めた。
「…碧?どうしたの?」
「あ、えっと【収納】で使う魔力の量覚えといたら便利かなって思ってさ…あ、これ仕舞った物がわかるようになってるのか…」
そう言いながら碧はステータスを輝璃達にも見せてくれる。
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Lv.24
名前:小鳥遊 碧
性別:男
年齢:18歳
種族:人類種
体力:15700/15700
魔力:11500/12500
攻撃力:6400
防御力:4850
命中率:Lv.5
回避率:Lv.1
幸運力:Lv.Max
状態:ー
役職:怪盗 Lv.Max
【⠀効果 】あらゆるモノを盗むことが出来る。
〖 ライト 〗〖 鎌鼬 〗〖 風詠 〗〖 結界 〗〖 ファイヤ 〗〖 ウォーター 〗〖 氷柱 〗〖 氷翼 〗〖 水破 〗〖 炎舞 〗〖 縛 〗〖 ボックス 〗〖 転移 〗〖 浄化 〗〖 ヒール 〗〖 捕縛 〗〖 飛行 〗〖 身体強化 〗〖 煉獄 〗〖 神楽 〗〖 領域 〗〖 影渡 〗〖 結界 〗〖 疾風 〗〖 星詠 〗〖 火弾 〗〖 竜巻 〗〖 黒雷 〗〖 雷神 〗〖 鑑定 〗〖 天撃 〗〖 念話 〗〖 硫酸 〗〖 跳躍 〗〖 糸操 〗〖 収納 〗
“亜空間・狭間” 家×1
【大罪スキル・傲慢】
【 効果 】
無から有を作り出す。モノとモノを掛け合わせて作ることも可。
ただし、作る際には魔力を消費する。消費する魔力は作るものに比例する。
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「本当ですね、これならたくさん物を入れてもわかりやすいです」
「収納スキルは僕も初めて見たっすけど便利なもんっすねぇ」
雪とフィーが感心したように言うのに同意しながら元の位置に【収納】から家を出した。
「これで持って行けるのはわかったから安心したよ」
「そうっすね!じゃあ予定通り明日の朝にでるっすかね?」
「わかったー!夜もみんなでねようね!」
「いやいや、雪とむいはベットでちゃんと寝な?風邪引いちゃうし…」
「私もみんなで寝たいです!私とむいちゃんだけ仲間外れは良くないと思います…!」
雪がムッとしながら言い、むいもやだやだー!と碧の周りを走り回り始める。
それを見てフィーが笑いながら、“風邪を引くのが心配なら毛布をミドリくんが作ってあげればいいんじゃないっすかね?”と言うと碧も説得は諦めたようで苦笑しながら了承していた。
「…じゃあ、家入ろっか?」
「むいがいちばんー!!」
「あっ、むいちゃんそんなに急いだら転んじゃいますよ!」
輝璃がそう言うと、むいが走って家に入っていき碧と雪が慌てて追いかけるように入っていく。
その姿を後ろから見ていたフィーと輝璃は笑いながらゆっくりと家に入った。