10.みんなでお昼寝。
傲慢騒動がむいの可愛さで解決した後、碧はソファーに座り直しフィーが用意してくれた紅茶を飲もうと手を伸ばした時、そういえばまだデザートを出してなかったことを思い出した。
せっかくフィーが紅茶をいれてくれたので今一緒出してしまおう、と“傲慢”を使用する。
「創造【ケーキ】」
机の上に碧が想像したままのお皿にのったケーキがでてくる。ちゃんとフォークも一緒に出てきていた。
輝璃の前にはモンブラン、雪の前にはフルーツタルトと2人の好きな物を出した。フィーとむいは好みがわからなかったので碧と同じショートケーキを出した。
輝璃と雪は少し驚いてから嬉しそうにしていたがフィーとむいはケーキを初めて見る様できょとんとしていた。
「…碧、食べてもいい?」
「もう食べれないと思ってたから嬉しいです!」
輝璃に食べていいよと伝え、嬉しそうにこちらを見てくる雪の頭を撫でながら笑い返す。
2人が食べ始めたのを見て心做しかソワソワし始めたフィーとむいにも食べるように勧める。
フィーとむいが美味しそうに食べるのを見て自分もケーキを食べ始めた。
食べてる途中に輝璃から、碧が国の金を盗んだ者として国に既に広まっているかもしれない事、藍染達はそれを信じている事などを聞かされた。
「…ごめんね。あっちを説得するのは時間をかければ出来たかもしれないんだけど。でも俺は、」
下を向きながら謝る輝璃に、きっと自分の為に怒ってくれたんだろうなぁ、と想像ができて少し頬が緩む。
「俺ね、もういいんだ。確かに藍染達にそう思われてるのは少し悲しいけど、でも輝璃達は俺を信じてくれるでしょう?」
どこか吹っ切れたように微笑む親友を見て、輝璃は少しだけ泣きそうになったし雪は泣いた。
人に嫌われることを恐がって、時折何処か寂しそうに笑っていた碧が本当に幸せそうに笑っているのだ。輝璃は立ち上がりわしゃわしゃと碧の頭を撫でる。雪も嬉しかったのか碧に抱きついてグリグリと頭を押しつける。
それを見たむいが大人しくしていられる訳もなく雪と同じように碧に抱きつき始め、フィーも“なんか面白い事してるな”と流れに乗ってむいたちの上から覆い被さるようにハグをする。
「わっ?!ちょ、重…」
座ったまま抱きしめられているので身動きが取れない。それに気づいた輝璃が碧の頭を撫でてた手を止めて最後にゆるりと撫でてからソファーに戻った。
フィーと雪も碧の頭を撫でてから立ち上がり、むいはそのまま碧の膝の上に座って上機嫌に足をプラプラさせている。
「それで、みんなはこれからどうするんすか?」
フィーにそう尋ねられ、碧は今の自分がしてみたいことを口にする。
「俺は輝璃達とも合流できたしこの世界を旅してみたい、かな。せっかく違う世界に来たんだしいろんなものを見て見たい」
「私達はみーくんと一緒ならどこへでも。ね、お兄ちゃん」
「…碧と雪が、したい事をやりに行こう」
雪と輝璃は笑って賛同してくれたが、フィーとむいはずっと災厄の森に住んでいたのだ。思い入れだってあるだろう。
一緒に行きたいと思うのは碧のわがままでしかなくて、それでもお別れは嫌だと膝に座るむいをぎゅっと抱きしめた。
腕の中のむいがもぞもぞと動きフィーの方に顔を向ける。
「ボールも持って行っていいー?」
「それはいいっすけど使わない時はちゃんと“ボックス”にしまうんすよ?」
フィー達があまりにも自然について行く前提で話していたのでポカンとしてしまう。
「え、ついてきて、くれるの?」
「僕らも別にここに留まらなきゃいけないわけじゃないっすし、ミドリくん達と一緒に旅もしてみたいっす」
「いっぱい遊ぼうねぇ!」
着いてきてくれると聞いて碧は嬉しくて顔が綻ぶ。輝璃が“よかったね”と言ってそれに笑って応えながら、5人でこれからの話をする。
「ここから行くとしたらベアルト王国か獣人国っすかね?」
ベアルト王国は帝国の隣にある国で行商が盛んな国らしく、王都には色々な国から商人達が来て珍しい商品や出し物をすることが多いので観光客も多いんだそうだ。
獣人国はその名のまま、国民のほとんどが獣人や亜人の国だ。その中には元奴隷だった人達もいるそうだ。
帝国は数百年前から人間至上主義を謳っていて、獣人や亜人は人間のなり損ない、欠陥品として差別の対象だった。
人としては扱われず、使えなくなったらゴミのように捨てられる。そんな行為が繰り返されていた中、何十年か前に1人の獣人の青年が立ち上がり奴隷を解放していった。
怒り狂った人間に攻撃され血を流しながらも青年は必死に抵抗し獣人を助け続けた。
その助けられた者達が青年を中心にして抵抗軍としてまた他の奴隷を助けていき、獣人達が誰にも支配されないで済むような理想国家を作り上げ今の獣人国となったらしい。
「はい!はい!私、獣人国に行きたいです!」
動物や可愛いものが大好きな雪が期待に目を輝かせる。
「獣人国、俺も行ってみたいな」
「…俺も」
「獣人国っすか、僕らも行くのは初めてなんで楽しみっす」
「むいもたのしみ!」
「これで行先は決まったから後はいつ出るか決めた方がいいよね」
「特にやらなきゃいけないこともないっすし、なんなら明日とかでいいんじゃないっすか?」
なんて事ないようにさらりと言ってのけるフィーに碧は動揺する。
「え、いいの?だってこの家」
「いいんす。早く出ないとなんだか変に名残惜しくなっちゃいそうっすから」
それにここが無くなる訳でもないし、と笑うフィーを見て碧が言葉に詰まっていると、むいが碧の袖をひく。
「ん?どうしたの?」
「ミドリのスキルでおうちもっていけないの?」
「あ、そっか。みーくんの【傲慢】で家を運べるスキルが新しく作れれば」
むいと雪の言葉を聞いてすぐに作れるか試し始めた。
「【スキル作成】」
ーー【スキルの内容を提示して下さい】ーー
「…“大きな物を運べるスキル”」
ーー【既存のスキルに該当するものがあります】ーー
【転送・運び屋・収納】
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転送︰自身が指定した場所にモノを瞬間的に送る。
消費する魔力は質量と距離に比例する。
運び屋︰魔法袋の中に荷物を入れ持ち運ぶことが出来る。
入る量は使用者の魔力量に依存する。
魔法袋の重さはいくら入れても重くならない。
収納︰手で触れた物を亜空間“狭間”に収納し持ち運べる。
入れる物の質量が多いほど魔力消費が多い。
魔力は収納する際と取り出す際に使用する。
“狭間”に収納したものは出すまで
収納した時のまま保存される。
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ーー【既存スキルを習得しますか】
【 YES / NO 】
どうやら作りたいスキルに既存の該当するスキルがある時はそのスキルを習得、該当するものがない時は新しく作ることが出来る仕組みらしい。
碧は「YES」を選択した。
ーー【習得するスキルを選択して下さい】
【転送・運び屋・収納】
「スキル選択【収納】」
ーー【収納スキルを習得しました】
その文字が出てきた途端体からごっそり何かが抜け落ちる感覚がして体が重くなるのを感じながら碧はステータスを開く。
「“ステータス”」
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Lv.24
名前:小鳥遊 碧
性別:男
年齢:18歳
種族:人類種
体力:15700/15700
魔力:8500/12500
攻撃力:6400
防御力:4850
命中率:Lv.5
回避率:Lv.1
幸運力:Lv.10
状態:ー
役職:怪盗 Lv.10
【⠀効果 】あらゆるモノを盗むことが出来る。
〖 ライト 〗〖 鎌鼬 〗〖 風詠 〗〖 結界 〗〖 ファイヤ 〗〖 ウォーター 〗〖 氷柱 〗〖 氷翼 〗〖 水破 〗〖 炎舞 〗〖 縛 〗〖 ボックス 〗〖 転移 〗〖 浄化 〗〖 ヒール 〗〖 捕縛 〗〖 飛行 〗〖 身体強化 〗〖 煉獄 〗〖 神楽 〗〖 領域 〗〖 影渡 〗〖 結界 〗〖 疾風 〗〖 星詠 〗〖 火弾 〗〖 竜巻 〗〖 黒雷 〗〖 雷神 〗〖 鑑定 〗〖 天撃 〗〖 念話 〗〖 硫酸 〗〖 跳躍 〗〖 糸操 〗〖 収納 〗
【大罪スキル・傲慢】
【 効果 】
無から有を作り出す。モノとモノを掛け合わせて作ることも可。
ただし、作る際には魔力を消費する。消費する魔力は作るものに比例する。
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ちゃんと新しく【収納】が増えていた。ただ、今のスキル作成だけで魔力がかなりもっていかれた。これからは既存のスキルは緊急時以外はできるだけ作らないようにしよう。
ごっそり魔力がもってかれるという初めての感覚に碧の顔色が少し悪くなったことで4人が心配そうにこちらを見つめているのに気づき、問題ないことを伝える。
「運べそうなスキルはとれたよ。でも作る時に魔力を結構消費しちゃったから試すのは夜になってからでもいい?」
「もちろんっすよ!無理はしないで欲しいっす」
「ミドリ、おひるねしよ!そしたらきっとげんきになるよ!」
「ふふ、そうだね、じゃあみんなで寝ようか?」
「…碧、寝るって、平気なの?」
フィーとむいは碧が寝れなかった理由を知ったのでみんなで寝ようと言ってくれてるが、輝璃と雪はそれを知らないので不安そうな顔をしていた。
改めて理由を伝えるのもなんだか気恥ずかしくて顔を赤くしたまま黙っていると気を利かせてくれたフィーが輝璃と雪に理由を話してくれた。2人は驚いた顔をしていたがすぐに笑みを浮かべる。
「…そういうことなら、みんなで寝よっか」
「この人数だったらここが1番寝やすいっすかね」
輝璃がそう言うとフィーが寝るのに邪魔になるので机を“ボックス”にしまって、ブランケットを出してくれた。
2人掛けのソファーに雪とむいが、床では碧を真ん中にして輝璃とフィーの3人で寝っ転がって寝ることになった。
他愛もない話をしているとだんだんウトウトしてきて、碧は温かい気持ちのまま眠りについた