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白銀の王。  作者: 春乃來壱
1/31

1.ここ、どこでしょう。





ーーなんでこんなことになってんのかなぁ、と小鳥遊碧(たかなし みどり)は周りで騒いでるクラスメイトをぼんやりと眺めながら思考する。



この状況になるまでの事を、少し時間を遡って思い出してみようと思う。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




五月蝿く鳴り響く目覚ましを止めて、夜通し本を読んでいたせいか目がしょぼしょぼする、と目をこすりながらもそもそとベットから起き上がる。


そのままいつもの様に制服に着替えてリビングに降りると、もう既に龍斗と奈那さんが起きていて朝ごはんを食べ始めていた。


龍斗と奈那さんは碧の遠い親戚で、碧が小さい時に引き取られてから一緒に暮らしている。


2人に挨拶を返しながら席について朝ごはんを食べていたら、お皿の上に一つだけのこっていた最後の卵焼きを食べようとしたのに龍斗に先を越された。

凄いドヤ顔で見てきてちょっと腹が立ったので腹いせに冷蔵庫にあった龍斗の分のプリンを食べてやった。楽しみにしてたのにと項垂れる龍斗を見て奈那さんは仕方なさそうに笑っていた。


2人と話していたらいつの間にか学校に行く時間になっていて慌てて荷物を持って家を出た。


学校についた後もこれと言って変わったことは無く、授業を時々ぼーっとしながら受け終えて、放課後になりパラパラとクラスメイトが部活に向かったり帰って行くのを見ながら帰り支度をし終え、そろそろ自分も帰ろうと席を立とうとした時だった。



ーーー教室の床に突然変な模様が浮かびあがり、ソレが輝き出したのは。






「………え?」



しばらくして光が収まり、目を開けた碧の視界に初めに入ってきたのは真っ赤で上質そうな絨毯だった。

こんな立派な絨毯が教室にある訳ないし、と顔を上げると碧と同じように辺りを見回し困惑した顔のクラスメイトが数人いた。


その中に見慣れた顔がいた事に安堵し、声をかけようと2人に近づいていく。


輝璃(かがり)(ゆき)


「…碧。ここ、なに?」

珍しく少し驚いたようにキョロキョロしながら首をかしげているのは神代 輝璃(かみしろ かがり)


「み、みーくん、私達さっきまで教室にいたはず、だよね…?」

輝璃の腕にしがみつきながら顔を青くして話しかけてくるのは神代 雪(かみしろ ゆき)


輝璃と雪は双子の兄妹で、碧の親友。

輝璃はほとんど感情が外に出ないので、周りからは冷たいと思われがちだが実の所ただマイペースなだけだったりする。


雪は怖がりでちょっと天然なところがあるけど心優しい子だ。それ故に男子からの人気も高いのだが大抵の時間を輝璃と一緒に行動してる為近寄り難い、と男子達が廊下で零してたのを聞いたことがある。



「俺達がいた教室とここは全く違う場所だと思うし、ドッキリにしても無理がある…」


「そ、それってどういう」と雪が更に顔を青くした時、碧達の近くにあったいかにも頑丈そうな扉がギィィィィっと重い音を立てて開かれた。


入ってきたのは真っ赤なドレスを身にまとった金髪の若い女性、長く伸びた白い髭が目立つ男性が1人、その後ろに鎧を身にまとった人達が数人居た。扉から入ってきて碧達を見るなり歓喜した様に顔を見合わせた。



「陛下!成功です!!やっと…やっと我等の悲願が叶いますわ!」


「うむ、これも一重に姫の召喚術の腕があってこそ。大儀であった」



真っ赤なドレスの女性が涙ぐみながら白い髭の人に伝えている。どうやらあの若い女性はお姫様で白い髭の人は王様らしい。

未だに状況を理解しきれていない碧達は、案内された部屋で王様から話をされた。



話を聞いてわかったのは、碧達がいた場所とは異なるこの世界をルーティア、碧達を召喚したこの国はダヴァル帝国という名前であること。

碧達のように異界から呼ばれたものを“ワタリビト”と呼び、他にも魔法があり魔族、獣人、エルフなどがいる碧達の世界で言うところのファンタジー世界であるらしい。


そして魔王が人類種を滅ぼそうと計画しているらしく、数年程前から帝国の近くにある森から魔物が湧き出てきていて、今はどうにか国を守れているが、魔王や魔族が本格的に攻め込んでくるのも時間の問題なのでその前に魔王を倒して欲しいと言われた。


「おい…ちょっと待てよ。そもそもなんで俺らが命かけてまで知らねぇヤツらを助けなきゃなんねぇんだ?」


「そ、そーよ!ふざけないでよ!」


「僕らには関係ないことだと思うけど」


「わ、私もそうおもうわ…」


これまで黙っていた神宮寺 翔太(じんぐうじ しょうた)九重 春華(ここのえ はるか)藍染 晃(あいぞめ ひかる)三森 秋(みもり あき)が叫び出した。


今まで王様たちに気を取られてちゃんと確認してなかったが教室からこの世界に飛ばされたのは碧を含めて7人だけらしい。


顔ぶれを見る限り、魔法陣が出てきた時に教室に居た人達がこの世界に飛ばされたようだ。


最初に不満をぶつけ始めた翔太と春華は所謂、不良とよばれるような人達で髪はド派手な金髪。

2人は付き合っていてほとんど行動を共にしているらしい。

学校に来ることすら稀で教室にいる所はあまり見た事がない。教師達にも目をつけられているようで、よく追いかけ回されている。


今日は運悪く熱血教師として有名な体育教師に捕まったようで教室に連行されてきていた。隙を見ては逃走を図っていたが尽く捕まり諦めて机に突っ伏して寝ていて気づいたらここに居た、という所だろうか。


翔太達とは真逆で、晃と秋は別の意味で教師から目をかけられていた。

無遅刻無欠席で、テストでは常に上位に位置している優等生なので教師達からの信頼も厚い。

ただ晃は少し思い込みの激しいところがあり、秋は自分の意見を言うのが苦手で人に流されやすい。


その中の1人であり不良グループのリーダー格である翔太には王の言いなりになるのも命令されるのも許容できないものだったのだろう。他の3人も翔太に続くように文句を言い始める。


「確かにそなた等に我等を助ける理由はない。だがもう我等は異界のものを、強い能力を持つワタリビトを頼るしか手段が残っていない。魔王を倒した暁にはもちろん報酬を出そう」


「…報酬か。それは悪くないな。王が出す報酬ってのも期待できそうだしな」


「え、でも翔太…私たち戦う力なんてないし危ないじゃん、やめようよ!」


「それなら心配いらぬ、異界から来た者達は異能を持つと聞く。ステータスを確認してみれば良い」


「へぇ…漫画みたいでわかりやすくていいなそれ。そんじゃ、“ステータス”」


そう言ってステータスを見始めた翔太を見て、“そんな事ができるなんて本当に異世界に来ちゃったんだなぁ…”と考えながら碧も自分のステータスを見る。


「“ステータス”」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

Lv1

名前:小鳥遊 碧

性別:男

年齢:18歳

種族:人類種

体力:120/120

魔力:250/250

攻撃力:72

防御力:96

命中率:Lv.1

回避率:Lv.1

幸運力:Lv.10

状態:???


役職:怪盗 Lv.10

【⠀効果 】あらゆるモノを盗むことが出来る。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「……ん、あれ?」


王様はステータスの説明の時に平均100あればこの世界の成人男性並、ただワタリビトは元から高い能力をもっていると言っていた。

ステータスの中の“役職”はLv1からLv10まであり、ワタリビトは元から持っているがルーティアの人で持っている人は稀であるらしい。


なんだか聞いていた話と違う、と思いながら確認する為に横にいた2人に話しかける。


「ねぇ輝璃、雪、ちょっと2人の見せてくれないかな」


「ん」「どうぞっ」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

Lv1

名前:神代 輝璃

性別:男

年齢:18歳

種族:人類種

体力:1700/1700

魔力:570/570

攻撃力:500

防御力:245

命中率:Lv.6

回避率:Lv.4

幸運力:Lv.6

状態:ー


役職:言霊使い Lv.1

【 効果⠀】魔力を持った言霊を使える。短い言葉なら強い強制力をもつ。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

Lv1

名前:神代 雪

性別:女

年齢:18歳

種族:人類種

体力:750/750

魔力:1250/1250

攻撃力:250

防御力:200

命中率:Lv.4

回避率:Lv.2

幸運力:Lv.6

状態:ー


役職:聖女 Lv.1

【⠀効果 】治癒魔法、回復魔法等を使用できる。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




「これやっぱり俺のステータスがおかしいのかな」


「え?みーくんのステータスなにか変なんですか?」


「…俺達にも、それ見せて?」


「あぁ、もちろん。はい」


“これって”と2人が言いかけた時、王様から“そなた等の実力を把握しておきたいのでステータスをこちらに開示して欲しい”との声がかかった。


用意された水晶に手を触れると、横にある紙に魔法で文字が浮き上がった。

ただ、記載されていくものは碧達が直接見たステータスより簡易的なものらしく、役職のレベルや効果は記載されずに役職名だけ書かれていく。

紙に書かれた翔太達のステータスも輝璃や雪と同じくらいの強さだった。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

Lv1

名前:神宮寺 翔太

性別:男

年齢:18歳

種族:人類種

体力:1600/1600

魔力:450/450

攻撃力:980

防御力:560

命中率:Lv.5

回避率:Lv.4

幸運力:Lv.2

状態:ー


役職:先導者



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

Lv1

名前:九重 春華

性別:女

年齢:18歳

種族:人類種

体力:1050/1050

魔力:1100/1100

攻撃力:250

防御力:240

命中率:Lv.5

回避率:Lv.3

幸運力:Lv.3

状態:ー


役職: 魔道士



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

Lv1

名前:藍染 晃

性別:男

年齢:18歳

種族:人類種

体力:1200/1200

魔力:580/580

攻撃力:460

防御力:760

命中率:Lv.2

回避率:Lv.5

幸運力:Lv.2

状態:ー


役職: 後援



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

Lv1

名前:三森 秋

性別:女

年齢:18歳

種族:人類種

体力:1700/1700

魔力:930/930

攻撃力:140

防御力:650

命中率:Lv.2

回避率:Lv.5

幸運力:Lv.3

状態:ー


役職:守護者



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





「協力感謝する。貴殿等はこちらの世界に来たばかりでなれないことも多かろう、何かあれば我が娘のロベリアに言うといい」


「微力ですがお傍にいさせて頂きます。困ったことがあればなんなりと」


全員分のステータスを移し終えた後、碧達は用意された部屋で見たことも無い豪華な食事を食べた。飲み物は少し苦味が強かったが料理はとても美味しかった。



食事が終わると本当に1人用かと疑うくらいの浴場に案内された。

入浴の手伝いをしようとするメイドの人を必死で止めてなんとか1人で入ることに成功する。

困らせてしまって悪い事をしたかな、と少し不安に思ったが流石にこの年で入浴を手伝ってもらうのは遠慮したい。だってなんか恥ずかしいし、と誰に言うわけでもなく言い訳をしながらも広すぎるお風呂をちゃっかり堪能した。


再び通された部屋で言われた、“明日から基礎からではあるが戦闘訓練をしてもらうことになる。今日はもうゆっくり体を休めるといい”という王からの言葉に従い、これまた1人で過ごすには広すぎるくらいの部屋に案内されそれぞれ部屋に入って休むことになった。


碧や雪と別々の部屋に通されると聞いた輝璃が不服そうにしていたが、勝手に部屋を変える訳にもいかないので明日になったら同室にできるか聞いてみようという事でなんとか説得した。


「…2人共、また明日」


「おやすみなさいお兄ちゃん、みーくん!」


「うん、おやすみ」


部屋に入ってから気が抜けたのかボフン、と大きすぎるベットに座り込む。

色々な事が急に起きすぎてなんだか疲れた。明日になったら輝璃や雪とこれからの話しをして、それから、



ーーそう考えていると、不意にぐにゃりと視界が歪んだ





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈







「おい、起きろ!王の御前だぞ!」


「……っ?!」


騎士に腹を蹴られた衝撃で目を覚ました碧は咳き込みながら、咄嗟に自分のおかれた状況を把握しようと辺りを見回す。


どうやら窓の外の暗さから見て自分が部屋に入ってからそう時間は経っていないようだった。


ここは最初に召喚された時の部屋のようで、玉座には王様と姫が座っていて、碧の後ろの扉の方に近衛騎士が数人いる。


周りにクラスメイト達はおらず、この場に連れてこられているのは碧だけ。輝璃達が居ないのは正直酷く心細いけど、不穏な空気しかしないこの場所に2人が連れてこられていなくてよかったと安堵した。


今の状況から考えると、部屋で急に視界が歪んだのは出された食事に薬かなにか入っていて、飲み物のあの強い苦味は薬によるものだったのかもしれないなとどこか他人事のように思った。


だって碧はあの時いつもの薬を飲んでいなかったし、()()()()はずだった。


「…これは、どういうことでしょう」


「ーーあぁ、これから貴殿には消えてもらうのだよ」



意味がわからない。いきなり勝手に呼んだかと思ったら半日と経たずに消えてもらうとはどういうことだ。


「まぁ、そうだな。冥土の土産に理由くらいは話してやろう」


そう言い王が話し出したのは本当に身勝手な理由だった。


半年程前から、国のお金を第二王子が勝手に使いだした。

王が気づいた時にはもう遅く、取り返しのつかないくらいには使い込んでしまっていた。だがそれを国民にバレる訳にはいかない。

国民から巻き上げたお金を王子が私欲のために使い果たしてしまいました、なんて知られたら民からの不満が溢れて国はお終いだ。


どうしたものかと悩んでる時に運良くワタリビトの中に「怪盗」の役職持ちがいるではないか。そいつが金欲しさに盗んで逃げたことにして罪をなすり付けてしまえばいい。その後に消してしまえばもう真実はわからなくなる。


更に碧はステータスも低く、いなくなっても別に困りはしないだろう。と、簡単に言えば、我らの保身ために死ね。と、そういう事だった。


「そんなのっ……、ぇ」


納得いかない、と口にしようとすると不意に後ろからトンっと押されたような感覚があった。押されたまま前にたたらを踏みそうになったが何かが自分の体を固定していて動かなかった。思わず胸にある異物に目をむける。

剣だ、剣が刺さっている。刺されたのか、なんで、息がうまくできずに咳き込むとごぽ、と口からボタボタと血が出る。息がうまくできなくて、必死に息を吸おうとしても可笑しな音をたてるだけで苦しさだけが増していく。その間にも体から血が抜けていって。血が止まらない。回らなくなった思考の中で、自分の体から零れ落ちる赤を見て、あぁどうしよう床を汚してしまったとそんなどうでもいい事を思った。何処からか、誰かのくぐもった笑い声が聞こえた気がした。視界が霞んでーー




「おい、城の中に死体があっては困る。災厄の森にでも捨てておけ。あそこならすぐ魔物に食われて死体も残らんだろう」




ーーその言葉を最後に、碧の記憶は途絶えた





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