里中の家にて
里中の家に着き、荷物を片付ける。
「せっかくだから、少しお茶していってね」
「ありがとうございます」
「そこはお構いなく、なんじゃない?」
「私は好意は受け入れる主義なのです」
そういう問題でもないような気がするが。
「先生の旦那さんは、何時くらいに帰ってくるんですか?」
「えーと、夜七時くらいに近くの駅に着く予定よ」
「今が五時くらいですから、後二時間ほどですね」
榊が時計をチェックする。
「そうね。それまでに夕食の準備をしとかなくちゃ」
「よろしかったら、お手伝いしましょうか」
「大丈夫よ。生徒に力を借りるわけにはいかないし。それに、私一人で作りたいの。私一人で作った料理を、二人で一緒に食べたいのよ」
愛する夫を出迎えるなら、その料理は自分一人で作りたいと思うのは当然のことだ。
「そうですね。気が回らずに申し訳ありません」
「気にしないで。こっちこそごめんね」
にこやかに里中は答えた。
式がリビングを見渡すと、とある棚の上に里中とその夫らしき人物が写っている写真が置いてあった。
「あの写真に写っている人が旦那さんですか?」
「ええそうよ」
その写真に写っている里中の夫は、中肉中背のいわゆるどこにでもいそうな風貌の男性だった。
里中自身も目立った風貌の女性ではないので、そういう意味ではお似合いの二人かもしれない。
「ちなみに、旦那さんってどういう仕事しているんですか?」
「式くん、そのようにズカズカと人のプライベートを聴くのはマナー違反ですよ」
「あ、すいません」
配慮が足りなかったな、と式は反省する。
「いいのよ。あなたたちは探偵ですものね」
「はは、普段の癖が染みついちゃっているようで……」
会話に便乗してごまかす式。
「夫は外資系の企業に勤めているの。普段は海外の会社で働いていて、たまに日本の支社に勤めることがあってね。今日がちょうどその日なのよ」
「なるほど。どのくらい日本に滞在するんですか?」
「うーん、大体二週間くらいかな。前回がそれくらいだったけど、今回はどうなるかわからないわ。帰ってきてから聞かなきゃね」
その後も談笑をしていた三名だったが、頃合いを見て榊が切り出す。
「式くん、そろそろ帰りましょうか。もう六時前ですし」
「そうだね。先生お邪魔しました」
「いえいえ。またいらっしゃいね。今度は夫もいる時に」
にこやかに見送る里中。
「ええ。機会があればまたお願いします」
「楽しいひと時を過ごしてください」
式と榊は里中の家を後にした。
だが、この時の約束が果たされることはなかった。




