探偵会視点:父親の覚悟
翌日、隼人は式たちを警察署に呼び出し、昨日の調査結果を報告した。
「式くんに言われた通り、二人の指紋と声を録音しておいた。そしてこれらを照合した結果、娘の綾乃さんの指紋が被害者が持っていたスマホの指紋と一致した。それだけではなく、昨日通報してきた女性の声も、綾乃さんのものだったことがわかった」
「これは決定的ですね。今すぐにでも犯人を問い詰めることができるでしょう」
「本当は犯行方法なども確定しておきたかったけど、これだけの証拠があれば十分か。早速家に行ってみましょう。逮捕状はもう請求しているんですか?」
「ああ。既に発付されている」
「じゃあ大丈夫ですね」
式たちが桜内家に行こうとした瞬間、隼人の携帯に着信が来る。
「はい、園田です」
『昨日の警察の方ですよね。私は桜内静乃の夫の重隆ですが……』
電話の主は、昨日訪れた桜内家の主人だった。
「ちょうどよかった。今からそちらに向かおうと思っていたのですが」
『実は、警察の皆さんに話しておきたいことがあるのです。家に来る予定なら、できれば今すぐにでも来てほしいです』
「何やら事情がありそうですな。わかりました、ただちに向かいましょう」
式たちを乗せたパトカーは桜内家へと向かった。
「警部さん、来てくださいましたか」
重隆に出迎えられた式たちは、リビングに案内された。
「それで、先ほどお電話で申していたお話とは?」
「実は、私の娘の綾乃が妻を殺害したのかもしれないんです」
父親から発せられた言葉に、式たちは驚いていた。
「なぜ、そう思ったんですか?」
式が尋ねる。
「具体的な根拠があるわけではありません。犯人は浮気していたことを知っていたんですよね。実は私も娘も前々から妻の浮気を疑っていました。しかし有力な証拠が何もないため、追及することができないでいたんです。最近娘は浮気をしている妻に対して怒りを露にしていました。その矢先に妻が殺害された。これは偶然ではないように思えるんです」
「なるほど……」
家族ともなれば、普段とはどこか様子が違うことにも薄々気づけるのかもしれない。
その些細な変化が、娘を疑う要因になっているのだろう。
「お父様にはお話しておきたいことがあります。実は……」
隼人は昨日行った検査の結果を話した。
「……そうですか。やはり娘が」
「残念ですが……」
「もしよろしければ、娘さんの部屋を捜索してもよろしいでしょうか。何かしらの痕跡があるかもしれません」
「私は構いません。丁度娘も出かけているようですし」
「おそらく、昨日の犯行で使用した道具などを処分しているんでしょう。僕も調べさせてもらいます」
式たちは綾乃の部屋へと向かった。
部屋に入ってまず、榊はパソコンをチェックし始めた。
「パソコンの中に今回の犯行計画書か何かを保存しているかもしれません。調べてみましょう」
しばらくパソコンを触っていると、あるものを発見した。
「最近彼女がネットで購入した履歴がありました。クロロホルムや催眠ガス、酸素ボンベ……。日常生活では到底使わないようなものをここ数日で購入していますね」
「計画書の類は見つかった?」
「それはなさそうですね」
「そうですか。……昨日妻を亡くし、そして娘までも失おうとしているのですね」
重隆は項垂れている。
たった一日で家族がバラバラになってしまったのだから、無理もない。
丁度その時、一台の車が駐車場に止まった。
「どうやら娘さんが帰ってきたようですね。お父様、申し訳ありませんが……」
「ええ、大丈夫です。よろしくお願いします」
娘を託すかのように、頭を垂れた。