27.領主の一言
4人が城で食事を始めた頃には、既に夕方になっているネルディアの城下町。
リュディガーとフェリシテがコートの集団に絡まれ、そして城に連行されて事情聴取を受け、牢屋に入れられて再び解放されて城に軟禁されていたので、かなり時間が経ってしまっている。
そんなハードな1日を過ごしていたリュディガーとフェリシテだが、城下町に繰り出したカリフォンとロオンの方も早めの夕食を摂って再びメインストリートに繰り出していた。
「はー、食った食った……」
だがそんな腹をさするカリフォンの横で、ロオンがふと視界の先に驚愕の光景を捉える。
「あっ、カリフォン隊長……あの人!!」
「え?」
カリフォンとロオンが一緒に同じ方向を見てみると、その視線の先にはなるべく人目につかない様にコソコソと辺りを警戒しながら、裏路地へと入って行く緑髪の中年男……まさに「噂をすれば影」との言葉通り、カリフォンとロオンが捜し求めていたその裏社会の大物とされているジャレティの姿があった。
となれば勿論、2人がやる事は1つ。
「追いかけるぞ。余り大勢だと目立つから俺達2人で行く」
「そうですね。あ、何時でも動ける様に応援部隊をお願いしましょう」
「分かった!」
カリフォンは近くに居た騎士団員に応援を要請して、ロオンと一緒に路地裏へと入って行き、そのままジャレティを追いかけて行く。
(今度は気が付かれない様に……慎重に……)
あの宿屋までの尾行に関してはどうやら気付かれてしまっていた様なので、その時と同じミスを繰り返さない様に固く心に誓いながらカリフォンは尾行を続ける。
やがてそのまま尾行を続けて行くとジャレティは路地裏を抜けて、ネルディアを流れる運河のそばを通っている人気の無い倉庫街へと辿り着いていた。
「やばそうな予感がするな。武器だけは抜ける様にしておくぞ」
「同感ですね」
人気の無い場所に来ると言う事はきっと何かある筈だ、と警戒心マックスで2人は何時でも武器が抜ける様にスタンバイしておく。
だがそんな2人のスタンバイは、突然死角から飛んで来たウィンドボールによって中断されてしまう事に。
「うごっ!?」
「がはっ!?」
突然何の前触れも無く、後頭部に大きな衝撃を食らった2人は倒れ込んでしまった。
それでも意識を失わなかったのは日頃の訓練の賜物だろうが、続けて今度は50人程の武装した男女に周りを取り囲まれていた。
「ははっ、良くやったぜ! まさかこんな単純な作戦に引っかかってくれるとはな?」
「まさかわしも、こんなに上手く行くとは思いもしなかったが」
聞き覚えの無い声が頭上から降って来る。
2人は男女達に拘束されながらも顔を上げて声の主をチェックすると、その声の主は1人がさっきまで尾行を続けていたジャレティ。
そしてもう1人が……。
「あ、貴方は!?」
「ジャレティから聞かされてたんだよ。騎士団の御前等が俺の事を嗅ぎ回っているって事」
何と声の主は、あの爆発事件で未だに生死が不明の筈のジェイルザートだった。
ジェイルザートは派手好きで、特にその金と緑ではっきり左右で分かれている髪の色が彼の最大のトレードマークと言える。
「はっ、あの賭博場に居たって事をロオンから聞かされた時からうすうす気がついていたが、まさかてめぇ等がこうして裏で繋がっていたなんてなぁ?」
吐き捨てる様にカリフォンはそう言うが、ジャレティもジェイルザートも余り表情を変えない。
その表情を見て、ロオンの中で1つの線が繋がった。
「……そうか、分かりましたよ」
「え?」
「あの爆発事件は……ジェイルザート卿、貴方自身が引き起こした事だったんですね?」
「はー、何故そう思う?」
「な、何だよそれ? どう言う事だよ?」
隣で戸惑うカリフォンは全く気にせず、聞き返すジェイルザートに更にロオンは続ける。
「貴方は偽の宝石を売りさばいていた事で多くの人間から反感を買っていた。しかしあの町の権力者である以上、迂闊にただの人間が手を出せない事も知っていた。そこで貴方はこう考えた。あの町で反感を買い続けたまま商売を続けるのは危険です。ならばいっそ、このネルディアは人が多いからその人の多さに紛れて商売を続ける方が得策だと考えました。偽の宝石を売りさばいている、と言う噂が陛下の耳にまで届いている位でしたからね。よっぽど大きく動き過ぎて、結果としてどうにかあの町から出たいと思っていた。そこで思いついたのが、あの違法賭博場の人間達を使って爆発事件を引き起こす事だった」
その推理を聞いているカリフォンは唖然としているが、まだロオンの推理は続く。
「そして、自分が死んだと見せかける為にあれだけの大きな爆発を自分の屋敷で起こして、その間に後始末をあの賭博場の人間に任せて自分はこっそりと変装か何かをしてネルディアへとやって来た。実行部隊としては恐らくそのジャレティ様と、それからあの賭博場の経営者の2人でしょうね。そうして自分が死んだと思わせておいて、こうしてここまでやって来て、また偽の宝石を売りさばくのを続けて行くつもりだった……違いますか?」
そのロオンの推理に、ジェイルザートは腕を組んでうんうんと頷いた。
「……まぁ、あの賭博場の奴等が尾行されたのは計算外だったが、それ以外は大体当たりだな」
それはまさに、あの爆発事件が狂言だった事を自白する領主の一言だった。




