26.弓隊副隊長アイリーナ
弓隊副隊長であるアイリーナ・イアディンは、少々癖のある性格を持つ女として騎士団では知られている存在だ。
基本的には口数の少ない寡黙な性格で、冷静に意見をボソボソと言うタイプであり、しかもズバズバと物怖じせずに言って来るのでストレートに言われて傷ついた、と言う人間も少なくない。
事実、彼女の上司で弓隊の隊長であるグラルダーも前に「隊長、身体臭いです」と彼女に言われてショックを受けている。
それでも弓の腕前は副長の座についているだけの事はあって抜群であるし、隊長のグラルダーから直々に弓の指導を受けている為に、日々そのテクニックは研ぎ澄まされている。
だがその一方で、料理を作らせると逆の意味で凄い事になってしまう事も、彼女の特徴の1つとして皇国騎士団の中では有名な話となっている。
つまり、凄く不味いのだ。
そこまで不味い料理をどうやって作れるのだ? と誰もが頭を抱えて異口同音に言う程にその料理は不味く、壊滅的。
故に「魔物を多分殺せる味」との評価を受けた事もある位だ。
なので彼女は自分とは正反対に、料理の腕前が抜群な斧隊副長のファルレナに料理を教わっているが、センスが無いのでさっぱり上達しないのが、自他共に彼女の料理の評価となっている。
「残酷なのは言い方だけで無く料理もなんだな……」とは魔法剣士隊副隊長ジェクトの弁でもあるらしい。
そんな彼女はファルスの警備隊の副総隊長を務めているテトティスと、シュアで第3騎士団の団長の座についているメリラとは知り合いの関係にある。
バーレンに魔術を習いにやって来たテトティスとアイリーナが知り合い、更にその後シュア王国に遠征に行った際にメリラと知り合いになる。
メリラとテトティスもお互いに知り合いでライバル関係らしく、その事実を知ったアイリーナも同じ女の軍人同士で負けられない、と密かに闘志を燃やしている3すくみのライバルだ。
平民も平民、ど田舎の山奥の村で生まれ育った彼女は、何時か都へ出てみたいと言うそんな野望を胸に秘めながら田舎の暮らしを続けていた。
そして田舎の暮らしの中で、彼女は弓を使った狩りが得意になっていったのである。
何故得意になったのかと言えば、弓を使ってその日の獲物をゲットする事が出来なければ上等な食料にありつく事が出来なかったので、生き延びて行く上でなるべく豪華な食事をする為にその弓のテクニックを磨かなければいけなかったと言う彼女の生い立ちがあったからだ。
しかし彼女が関わっていたのはそこまでであり、そこから先の獲物の解体や料理方法に関しては全て彼女の両親……特に解体には力が必要な為、主に父がその担当となっていたので彼女は料理をする事が滅多に無かった。
それでも特に何も言われる事が無かった為に、弓を使った仮の腕前は日々上達して行ったがそこから先の料理に関しては全くのど素人のまま育って来た。
それが今日の、彼女の料理の壊滅的な不味さの原因になってしまったとも言える。
そんな彼女が皇都のネルディアに行く切っ掛けになったのは、ネルディアで一般参加者のみを対象にした弓の大会が開かれる事になった事だ。
それを知り合いが冗談交じりにビラを持って来た事が切っ掛けになり、1度はネルディアを見せておくのも良いだろう、と言う事で両親と共にネルディアへと向かった彼女だったが、これが彼女の騎士団への入団の足掛かりになろうとは、この時その本人も含めて誰も知る由も無かった。
結論から言えば、大自然の中で獲物を追い掛け回し、しっかりと獲物を仕留める為に急所を正確に狙う事が出来なければいけない狩りの日々の中で鍛えられたその弓のテクニックで、彼女は2位以下に圧倒的な大差をつけて優勝してしまった。
そこでそのまま騎士団への入団があれよあれよと言う間に決まってしまい、両親もそのまま田舎からネルディアへと移住する事になってしまったのだった。
この時、アイリーナはまだ17歳だったのだが、そんな少女がどうやってそんな弓のテクニックを何処で身につけたのだろう? と言う事で一躍有名になった。
今では両親もネルディアに移住し、城下町で田舎の料理を出す料理屋を経営している。
一方で入団17年目の32歳になった彼女は、グラルダーの元で更なる弓の修行に励んでいる。
その彼女がぽつりと話し出した、このネルディアに渦巻いている不穏な話。
自分達がこのバーレン皇国に来てから、相次いで遭遇しているカラフルなコートの集団。
イディリークの時から絡んで来ているそのコートの集団が、もしかしたら今しがたアイリーナから聞いたその話に絡んでいるのではないか?と4人は考えてしまう。
事実、イディリークでは皇帝暗殺の事件の裏で暗躍していたのが黒いコートの集団だったのだから。
しかし、この件には関わるなと弓隊隊長のグラルダーから釘を刺されている上に、城から出る事も許されていない以上、4人が真偽を確かめようとしてもどうしようも無いのだった。




