25.与えられた部屋にて深まる謎
「で、一体何があったんだよ?」
「私とバルドさんは断片的に話を聞いたんだけど、詳しい話はやっぱりお兄ちゃん達から話を聞かないと納得出来ないわよ。この城から出るなって……一体何をしたの?」
先程の牢屋までバルドとトリスを連れて来た、弓隊隊長のグラルダーに案内して貰ったその部屋で軟禁状態になった4人の内、リュディガーとフェリシテはバルドとトリスに詰め寄られていた。
「それがだな……」
思い出せるだけの事を思い出しながら、何故自分達があんな事になっていたのかを説明するリュディガーとフェリシテ。
その説明を聞き、バルドの口から「またかよ……」と呟きが漏れた。
「コートの連中なら俺もピンク色の奴等にフェリシテちゃんと一緒に会ったけどよお、まさかフェリシテちゃんがまたコートの連中に出会うなんてどうかしてるぜ」
「何よそれ、どう言う意味?」
「運が悪いって意味だよ。勿論フェリシテちゃんだけじゃ無くて俺達3人もそうだよ。イディリークで会ったのが黒い連中で、こっちに来てから出会ったのがピンクと水色か?」
「ああ、そうだ」
「だったらそいつ等が俺達を狙う理由って言うのが何処かにある筈だろう?」
「確かに、理由も無しにお兄ちゃんとかを狙う理由が無いもんね」
そう、トリスの言う通り何故狙われているのか分からない状況だ。
今までのカラフルなコートの集団の、それぞれのリーダー格の話からそれっぽい様な事を言っていた気がするが、それだけじゃ全然理由としては弱いだろう。
「俺達を狙う理由で思いつくのは、あのダリストヴェル山脈で黒いコートの集団の邪魔をしたからだろう。その時に戦った俺達の情報を共有している……って水色のコートの奴は言っていたからな」
「ピンクのコートのリーダーも、何だかそんな事を言っていた気がするわね」
「でもねぇ、邪魔をされただけでここまで執拗に私やお兄ちゃんを狙うかしらね?」
首を傾げるトリスに続いて、他の3人も腕を組んだり頭に手を当てたりして考え込む。
自分達を狙う理由を問いただしてみても、そこだけは何故か頑なに話してくれなかったのがこのバーレン皇国で出会ったリーダー格の2人。
恐らく、この先で再会しても口は割らないだろうと考えてしまう。
と、その時ドアの方からコンコンとノックをする音と低めのトーンの女の声が聞こえて来た。
「はい?」
「食事をお持ちしました」
「ああ、どうぞー」
そう言えばグラルダーが「後で食事を持って行かせる」と言っていたのを思い出した4人は、城のメイドがその食事を持って来てくれたのだろうと思って部屋に招き入れる。
しかし、部屋に食事を運んで来たのは意外な人間だった。
「お待たせしました」
「あれ?」
「メイドさん……では無いですよね?」
メイド服を着ているメイドはこの城に連行された2人も、それから城下町で騎士団員からリュディガーとフェリシテの話を聞いてその2人を迎えに来た2人も何人かこの城で見かけているので、明らかにメイドでは無い……それも武装した人間の女が食事を運んで来た事に違和感を覚える。
その4人の中でフェリシテが、食事を運んで来た女に見覚えがあった。
「あれ? もしかしてアイリーナ副隊長?」
「……そうですが」
「フェリシテちゃん、知っているのか?」
「うん。かなり有名な人よ。良い意味でも悪い意味でも……」
イディリーク帝国騎士団にまでその存在は知られているらしい、料理を運んで来たこのアイリーナと言う女の騎士団員は、フェリシテの「悪い意味でも」と言うセリフをスルーして料理を配膳する。
そして配膳をし終えたてすぐに出て行く……かと思いきや、彼女はポツリと一言呟く。
「今のネルディアには色々と問題が起きていますから」
「問題?」
思わず聞き返したリュディガーにアイリーナは続ける。
「はい。隊長から聞いていませんか?」
「隊長?」
「貴方達と一緒にここまで来た、あの大きな人の事です」
「ああ……」
そう言えばそんな人と一緒に来たなぁ……と思い返しつつも、その問題とやらについてはバーレン皇国の話なので関係無いと言われてしまった、とリュディガーはアイリーナに告げる。
すると彼女はまたポツリと呟いた。
「なら、少しだけ私から話します」
「えっ、良いのか?」
食事をしようとしていた手を止め、バルドも身を乗り出して食いついて来た。
「ええ。短めに終わりますので」
「じゃあ聞かせて下さい。この国で一体何が起こっているんですか?」
「私も聞きたいです」
トリスとフェリシテも食いついて来たのを見て、アイリーナが確かに短めにその「問題」について話し始める。
「一言で言えば、裏社会で暗躍している大物を騎士団がこのネルディアで追いかけている状態です。その大物はこのネルディアに色々と顔が利きますから、迂闊に首を突っ込まないで欲しいと隊長は思ったのでしょう。身の危険にも繋がりますから」
私から言えるのはそれだけです、と本当に短く話を終わらせたアイリーナが部屋を出て行き、残された4人の間には湯気の立っている料理と静けさが残された。




