23.増援
「……まずい、離れて!」
「っ!?」
彼女の声に咄嗟に男から距離を取り、そばの建物の陰に飛び込んだ2人のすぐ横を業火が走り抜けて行った。
さっきのナイフよりも明らかに威力があると分かるその魔術に、こんなものを街中で躊躇いも無く繰り出すなんて、絶対に頭がおかしいとしか考えられない。
そんな男を相手にして戦うなんて、とてもじゃないが普通の神経なら出来ないのでさっさと逃げてしまおうと考えていた2人の元に、バタバタと騒がしい複数の足音と叫び声が聞こえて来たのはすぐの事だった。
「居たぞ、こっちだ!」
「特大の魔術を使った奴が居るぞ、捕まえろ!!」
騒がしく足音と声を響かせてやって来たその集団は、ネルディアの城下町を見回っている皇国騎士団員達であった。
(くっ、騎士団員まで相手にしたくはありませんね……ここは退きましょう)
心の中でそう呟き、男は踵を返してその場から走り去って行く。
何人かの騎士団員達が男の後を追い掛けて行く傍らで、ネルディアの住民達に目撃されていたリュディガーとフェリシテは残りの騎士団員達に取り囲まれる。
「騒ぎの原因は御前達だな。城まで一緒に来て貰うぞ」
「拒否権は無い。さっさと来るんだ」
弓を背負っている大柄な男と、斧を背負っている細身の男にそう言われて拘束されたリュディガーとフェリシテはエーティル城に連行された。
多少予定は狂ったものの、あのコートの集団と離れる事が出来たので一応助かったでは助かったのだが、エーティル城に連行されてしまったのは新たな修羅場である。
「もう……何で私達がこんな目に遭わなきゃならないのよ!」
身柄の拘束の為に入れられてしまった牢屋の中で、うんざりした口調でフェリシテがそう呟くが、リュディガーは冷静な表情のままだった。
「騒いでも仕方が無い。ここに来る前の事情聴取で俺達はきちんと事情を説明した。街中を駆け回ったんだから、目撃者も周囲に沢山居る筈だしな」
「何でそんなに冷静なのよ……」
リュディガーの落ち着き様にフェリシテはある種の恐怖感を覚えながらも、確かに今騒いだ所でどうしようも無いと思い直し、少し荒々しい動作で地面に座り込んだ。
「トリスちゃんとバルドさん、私達が城に連行された事を知ってるのかしら?」
「知ってるなら迎えに来るだろうな」
あれだけ派手に街中を走り回ったのだから、自分達が城に連行された事が回り回って2人の耳に情報として入っていても不思議では無い。
それにリュディガーは、ソードレイピアを抜かずに体術だけであの水色のコートの集団の何人かを倒しているので、その他をした連中も一緒に城に連行されただろうと考えていた。
結局、あのリーダー格らしいオレンジ色の髪の男には逃げられてしまったが、騎士団員達が彼の後を追い掛けて走って行ったのが連行される前に見えたので、見事捕まえてくれているのを願うばかりだ。
そうして牢屋の中で悶々として居た頃、コツン、コツンと石造りの地面をブーツで踏みしめる様な音が聞こえて来た。
「……誰か来る」
地面から立ち上がったリュディガーは、牢屋の鉄格子の近くに張り付いて通路の様子を確認する。
聞こえて来る足音は1つだけでは無く、 どうやら2~3人の複数らしい。
自分達を牢屋から出してくれるのだろうか、あるいは食事の配給か。
いずれにせよこの牢屋から出して貰える様に展開を持って行きたい所ではあるが、自分達が入れられて居る牢屋の前に現れた人物を見て、リュディガーとフェリシテの顔色が一気に変わった。
「何やってんだよ御前らはよぉ……」
「ちょっとちょっとお兄ちゃん、何でこんな所に居るのよ?」
「ば、バルドさん!? それにトリスちゃんも!」
何と、あの時自分達を連行して来た騎士団員の1人に連れられてやって来たのは、後で合流予定だったバルドとトリスだったのだ。
しかし、感動の(?)再会を喜ぶにはまだ早い様である。
「話は後だ。一先ず御前達にはさっき取り調べを受けて貰ったが、まだ少しだけエーティル城の中に居て貰う状況になったんだ」
「は?」
「えっ……私達、今すぐにこのお城の中から出して貰えないんですか?」
キョトンとするリュディガーとフェリシテに対し、その騎士団員はコクリと頷いて肯定する。
「ああ。そうも行かない状況になった。城下町で新たに俺達バーレン皇国騎士団員が絡む事件が起こったんだ」
「事件?」
「そうだ。だけどそれは御前達には関係の無い事だからな。多数の目撃証言から御前達が無罪だと言う事が分かったから、本来ならすぐにでもこの城から出してやりたいんだが、その事件のせいで今はちょっと騎士団がバタバタしていてな。この事件が片付き次第、牢屋だけじゃなくてちゃんと城からも出してやるから安心してくれ」
そう言うと、その騎士団員はこの牢屋の鍵を取り出して扉を開ける。
「今言った通りこの牢屋の中からは出してやるが、城の中からは出られない。部屋を与えるからそこで待機していてくれ。後で食事を持って行かせよう」
「あ、ああ……」
「それはそれで嬉しいんですけど、一体何があったのか気になりますね」
「気にしないでくれ。これは俺達バーレン皇国騎士団の問題だからな。イディリークが関わる問題じゃ無いのは分かってくれよ」




