20.狙われる2人
「余りこう言うやり方は好きではありませんが、こちらも任務ですから手加減はしません。あの魔術師の女性をまずは捕まえて下さい。そして、その魔術師の女性を捕まえて逃げる途中でもう片方の男性が追い掛けて来る筈です。上手く裏路地か何処かに誘い込んで、そこで一気に捕まえてしまいましょう」
皇都内で騒ぎを起こすのは気が進まないのだが、早く捕まえてしまいたい気持ちが先行している以上、やむを得ないことではある。
しかし、今のこの状況ですぐに捕まえる訳では無い。
冒険者と言う事は、このネルディアの何処かで宿を取ってそこで夜を明かす筈だと推測する部隊長。
ならばそのギルドに入ったと言う2人を尾行し、宿泊している宿とその部屋を突き止めておけば、こちらの方が人数が多いので夜に奇襲をかけて2人纏めて一気に捕まえる事も出来る筈だ。
今の所、判明している仲間らしき人数は残り2人。
男が2人に女が2人の4人のパーティーだ、と自分達の部隊にも伝わっている。
(私達から逃げ切れると思ったら大間違いですよ)
心の中でそう呟き、部隊長は裏路地へと姿を消した。
一方でリュディガーとフェリシテは、自分達を尾行して来ている集団の存在に気がついていた。
「おい、フェリシテ」
「うん……何か着いて来ている人達が居るわね」
事実、ここに来るまでに何人か水色のコートを着込んでいる人間に遭遇しては、気付かれない様に人混みに紛れてスルーする事の繰り返しだ。
それに、このメインストリートの人混みで少し位ぶつかるのは当たり前だとリュディガーも考えている以上、先程のぶつかって来たオレンジ色の髪の毛の男も別に謝らなくても良いのになと何か違和感を覚えてしまった。
しかも、人混みから外れてまであれだけ丁寧に謝罪されると逆に怪しく思ってしまう。
それに、フェリシテがその男から覚えた違和感はまだあったらしい。
「さっきの貴族みたいな人、私達の事をジロジロ見ていた気がしたんだけど……気のせいかしら?」
「見ていた?」
「うん……何かその、品定めをする様な目つきだった気がするんだけど」
そう言われてみればそうだったかも知れないが、自分達の意識が過剰なだけかも知れないとリュディガーは断定出来ない気持ちだ。
「思い過ごしじゃないのか?それよりも俺はさっきからチラホラ見かける水色のコートの連中が気になる」
「ああ、そっちの方か……。それは私も気になるわね。まさか私とバルドさんが出会った、あのピンクのコートの集団と繋がりがあるかも知れないわね」
「可能性はあるな」
そんなに同じ様なコートが流行っているなら自分だって着ているわよ、とフェリシテが付け加えて、2人はその集団にこれ以上目を付けられない内にさっさと宿屋まで戻る事にした。
手合わせの依頼はまだ何時でも引き受けられるので、今は自分達の身の安全を最優先に考える事が大切だろう。
そのコートの集団を率いているあのオレンジ髪の男は、尾行するに当たってコートを脱いでおく様に指示を出していたし、言い出しっぺの自分だって実際にコートを脱いでターゲットの冒険者2人に物理的な意味でも接触する事に成功していたのだが、町中に散らばっている部下達にそのぬぐしじを出す前にチラホラとリュディガーとフェリシテにコートを着込んだ部下達の姿を見られてしまっていたのだった。
事実、あのコートは自分達の制服なので手放す訳にはいかないし、コートだけでは無くてズボンとブーツも水色でカラーリングされている。
ベルトと手袋は他の部隊と共通の黒い革の物なのだが、カラーはそれぞれの部隊で異なるのが自分達の傭兵団の特徴である。
故にどうしても隠し切れない部分が出て来てしまうので、尾行の報告を部隊長の彼にしている部下からも「上手く撒かれてしまいそうです」との連絡が来ている。
「仕方ありませんね。でしたら何人かその先の道へ先回りして、タイミングを見計らって女性の方を捕まえて下さい」
その指示に従って動き出した水色のコートの集団は、メインストリートの人混みが途切れがちになる場所に何人かで先回りをして、リュディガーとフェリシテがその地点に差し掛かった時に、行く手を阻む形で2人の目の前にバラバラと現れた……のだが。
「走れ!」
尾行に気が付いていたリュディガーとフェリシテも、先回りされるかも知れないとはある程度予想出来ていた。
だからこそ、その集団が自分達の前に現れたのが視界に入って確認出来た時、何時でも走り出せる様に準備していたのが功を奏した。
裏路地に入って走って行くフェリシテを追い掛けて、水色のコートの集団の何人かも彼女の後に続いて走り去る。
一方で、自分の方に向かって来たコートの集団に対してまともに相手をしていたら、フェリシテを見失ってしまうと考えたリュディガーはまず、突っ込んで来た1人目をスルリと回避。
続いて右から向かって来る2人目の懐に飛び込んで足から持ち上げ、その勢いで後ろに投げ飛ばす。
3人目の女は前蹴りで蹴り飛ばし、4人目の大柄な男には摑みかかられたものの、咄嗟に両手で男の耳を引っ張って引きずり倒し、倒れた男の顔面を蹴り飛ばして昏倒させた。
だがその時、最初にかわした1人目が後ろから再び向かって来るのを確認したリュディガーは、振り向きざまに勢いを付けて飛び上がり、空中で横に回転しつつ顔面を蹴り飛ばした。
1人目の男はそのまま吹き飛び、近くに置いてあった木箱の山に身体から突っ込んで行き、無様に気絶してしまった。
「あーあ」
蹴り飛ばした男を一瞥してそれだけ呟くと、フェリシテが走り去って行った方に向かってリュディガーも走り出した。




