6.騎士団の動き
鍛練も終わり、午前中の次の仕事は書類整理等の執務になる。
それが終われば今度は見回りだ。
見回りは隊長クラスでもする事になっている仕事であり、一般の兵士達に混ざって毎日交代制で午前中と午後の2回に見回りがある。
まずは執務の為に自分の執務室へと向かい、書類のチェックから始める。羽根ペンを持って机へと向かい、書類の山へと目を通す。
副総隊長ともなれば書類が多いが、それでも片付けなければいけない事に変わりは無いので、こつこつと真面目に取り組むラルソン。
(報告書に騎士団絡みの事件が多発しているとの話がある。これは早急に手を打たなければ)
最近自分が感じていた違和感は間違いではなかった様だ。この騎士団と言うのはどうやら王宮騎士団が絡んでいるに違いない、と考えながらサインをしてテキパキと仕事を進める。
その後見回りを終えたラルソンは執務室へと戻ろうとしたが、その途中で声を掛けて来た者が居た。
「ラルソン副長!」
声のする方を振り返ってみると、そこにはこの国で1番偉い人物が立っているでは無いか。
「これはリュシュター陛下……。いかがなさいました?」
「いえ、丁度近くを通りかかったものですから。見回りですか、お疲れ様です」
「ねぎらいの言葉、誠にありがとうございます」
彼こそがこのイディリーク帝国の皇帝であり、まだ28歳と言う若さのリュシュター・セリテュルであった。
「ところで……少しお話があるのですが宜しいでしょうか?」
「私とですか?」
「いえ、出来ればジアル隊長も一緒に御願いしたい所なのですが……」
戸惑いがちに話すリュシュターに、ラルソンは重大な話なのかと探りを入れる。
「重大な用件ですか?」
「はい……」
「陛下、でしたらすぐにでも席を御用意します。どうぞこちらへ」
「どうもありがとうございます」
ラルソンはリュシュターと共にジアルが居る総隊長の執務室へと向かい、更にローレン、ヴィンテス、パルス、そしてこの国の宰相であるモールティ・アレデヴェルも呼び寄せて口を開いた。
「して陛下、お話とは……?」
「その前に1つ約束していただいても宜しいですか? ここでの話は絶対に口外しないと」
「え? はい、勿論です」
ラルソンがそう返事をすると、リュシュターは腹を割ったように一息置いて話し始めた。
「実は、王宮騎士団の話なのですが……」
話の内容は実に単純で、この前の密会と同じ様な内容がリュシュターからもたらされた。
どうやらリュシュターも、そしてモールティもこの騎士団の件を知っている様だ。
ラルソン達もそう言う事であればと、作戦の内容をこの2人に話す事にした。
「……そうですか、では兵士部隊も近衛騎士団ももう調査に?」
「はい、私達も見過ごす訳には行きませんから」
話を聞き終えて口を開いたモールティに、ローレンは落ち着きながらも緊張感のある声で返す。
「それでしたら私も微力ですが、最大限に協力を致しましょう」
「ありがとうございます、モールティ様」
皇帝と宰相の協力が得られる事もわかり、強力なバックアップが付いて安心も出来る。後は作戦をしっかりと成功させるだけだ。
マークする王宮騎士団のメンバーは、まずは王宮騎士団長でありイディリーク帝国の将軍の1人でもあるカルヴァル・サルザード。それから王宮魔術師であり、カルヴァルと長い付き合いでもあるジェバー・アローザ。
そしてカルヴァルは王宮騎士団とは別に私兵団も持っており、その私兵団のメンバーは王宮の任務には当然参加して来ない。
……が、この頃の怪しい行動には絡んでいる可能性が高いと部隊のメンバーは見ているので、近々マークして素性を探る必要が出て来そうだ。
任務自体はまず王宮騎士団の素性を極秘に探り、怪しい動きをしていないかを調べる事。
それから王宮騎士団が怪しい動きをしているとなれば、これもまた極秘にその内容を探る事。
そして、内容が分かり次第王宮騎士団の面々を一網打尽にすると言う計画である。
唯一の気掛かりは内通者の存在であるが、この極秘任務を知っているのは今の所このメンバー位のものだろう。
後はローレンが王宮騎士団の元に密偵を向かわせているが、この極秘事項については知らないままである。
(ローレン様であれば心配は要らない。あのお方なら……)
近衛騎士団の団長を務めているだけあり、仕事は出来る存在なのは間違い無いし、実際にそれを自分も見た事があるのだから問題は無い筈だと何度も自分に言い聞かせるラルソン。
それでも、何故か分からないが妙な胸騒ぎがする。
綿密に立てた計画だし、極秘事項として他言無用なのだから外部に情報が洩れる心配は無い筈だ。
もし漏れてしまう様な事があれば、その時は任務の失敗だけで済む筈が無く自分達の命まで危うくなってしまうのは確実に目に見えている話だ。
(大丈夫……俺はこの作戦に関わっている全員を信じているんだからな!!)
自分も含めて信用しない事には、上手く行く筈の作戦も上手く行かなくなってしまう。
しかしこの作戦がそう上手くは行かないと言うのを、後に任務の中で身を持って知る事になる作戦部隊のメンバーであった。