17.かなり珍しい存在
周りには呻き声を上げて立ち上がれなかったり、メガネの男を含めて既に意識が無いピンクのコートの集団が転がっているその状況を作り出した青い男。
彼はその集団の現状を全く気にする素振りも無く、先程自分がメガネの男に向かってぶん投げた斧を回収しつつ、バルドとフェリシテに向かって歩いて来た。
一方のバルドとフェリシテは、この青い男に対して物凄い恐怖心を覚えながらも、別に争うつもりは無いのでここに来た目的だけを伝える。
「いや、あの……俺達は冒険者なんだが、そこにある植物の素材を取りに来たんだ。それだけ回収したらとっとと帰るから」
「ああ、そうなの? それだったら別に景観を損ねないからさっさとやっちゃってよ」
「いや、ちょっと待て。物凄い景観を損ねているのはこのピンクのコートの集団じゃ無いのか?」
男の台詞に対して思わずそう突っ込んでしまったバルドだが、青い男は面倒臭そうな表情を変えずに返答する。
「ああ、そうか……こいつら片付け無くちゃいけ無いのか。もう~、めんどくさいなあ」
「騎士団の人を町から呼んで来て手伝いましょうか?」
フェリシテの提案に男は首を横に振る。
「いいよ別に。僕1人で何とかなるから」
「いや、何ともならないと思うんだが……」
「大丈夫。僕は絵描きの友達と一緒に来ているからね。それに君達冒険者なんでしょ? さっさと依頼をこなさないと依頼主がイライラしてるんじゃないの? それに僕も早く絵を描きたくてイライラしているんだからさ、やるならさっさとやっちゃってくれないかな」
「あ、ああ……」
男の妙に強い気迫に押されてしまい、ピンクのコートの集団の後始末を彼1人に任せる事にして、バルドとフェリシテは目的の素材を回収した。
結局その男とはそこで別れてしまったのだが、勿論バルドとフェリシテはリュディガーとトリスの兄妹にもその話を伝えておく。
「ピンクのコートの集団が?」
「ああ。俺達に襲いかかって来たんだ。そして謎の男が現れて、コートの集団を一気に蹴散らしてくれたんだよ」
リュディガーとトリスはそれぞれの依頼を終えて、皇都ネルディアで受けられる依頼をギルドで探していた所だった。
その2人に謎の男の話をしてみると、当然の様に食いついて来た。
「その男はどんな風貌だった?」
「それだけの数の集団を一気に蹴散らすなんて、一体どう言う事をしたのかしら?」
その後も矢継ぎ早に男に関する質問をされるが、バルドとフェリシテが聞いた男の情報としてはかなり少ない。
「いや、それがだな……俺達もその男に関しては少ししか話を聞いていないんだ」
「そうなのよ。確かその人は画家って言ってたわね。世界中を回って色々な景色を描いているんだって。名前は確か……シュヴィリスとかって言ってたかしらね?」
「シュヴィリス……」
聞いた事の無いその名前に首を傾げるリュディガーだが、首を傾げたいのは彼以外の3人も同じだった。
「そのシュヴィリスって人は、手をこうやって横に払っただけで濃い霧を生み出したの。おそらくあれは魔術ね。それもかなりレベルの高い魔術だと思う。だってあの人、かなりの魔力が体内に蓄積されていたみたいだったからね」
「そうなのか?」
リュディガーがフェリシテにそう問い掛けてみると、彼女は神妙な顔つきで頷いた。
「ええ。私だって騎士団員の立場の前に魔術師の端くれだからね。他人の魔力には敏感なの。そのコートの集団に囲まれていた外側からそのシュヴィリスって人が現れたんだけど、コートの集団の魔力を全員分かき集めても、シュヴィリスの魔力には遠く及ば無い様な感じだったわ」
「そ、そんなに? だったら魔術だけでそのコートの集団を蹴散らすのなんて何とかなっちゃうんじゃないの?」
それ程までの魔力を体内に有している人間なんて知らないので、トリスも明らかに驚きの表情を浮かべて質問する。
「ええ。それを目の前で実行したのよ、シュヴィリスは。だけど……正確には魔術はその1回しか使って無い。使っていたのは自分の愛用の武器らしい斧、それと格闘術だったわね」
「格闘術?」
傭兵として活動する前、基本的な剣術や体術は冒険者の子孫であると言うその親戚を通じてイディリーク帝国の騎士団員や兵士部隊員達から習っていたリュディガーだが、その後の活動に関しては基本的に実戦を通じて現地で体得していた。
なのでかなり我流の部分もあり、体術に関しても荒っぽい戦法を取る事がある。
それはリュディガーだけで無く一緒に習っていたバルドも同じなのだが、バルドはどちらかと言うと冒険者では無く旅人として活動していたので、帝国騎士団の型通りに戦う事が多い。
しかし、斧を余り使わずに素手だけでそのコートの集団の大半を倒してしまった、シュヴィリスと言う男の話をバルドとフェリシテから聞いたリュディガーは、その男の事を「かなり珍しい存在だ」と分析した。
「素手で戦う奴も居ない事は無いんだが、結局そう言う奴等でも武器を持って戦う様になるから、素手をメインに戦うってのは非常に珍しい」
「そうだよな。俺だって魔物と戦う事は色々あったけど、武器を持って無いと安心出来ねえし」
そんな会話を交わしつつ列車に揺られ、4人はいよいよバーレン皇国の都であるネルディアに入って行く……。




