16.画家?
その苦笑するロオンと同時に、別の場所でも1人の男が苦笑していた。
「まさかよぉ、あんな簡単にあの連中をやっちまうなんて俺達もびっくりだよ」
再び動き出した列車の座席で自然に揺られながら、バルドはあのピンクのコートの集団を蹴散らしてくれた、やたら青い男の事を思い出していた。
現在は元通りに運行している列車に乗り込み、皇都ネルディアを目指している所だ。
そして、列車の中ではネルディアに着くまでその話題で持ちきりだった。
何故なら目の前であれだけの凄い光景を見せられてしまった以上、簡単に記憶から消す事なんて出来やしない。それだけのインパクトがあった。
あの男はもはや人間業とは思えない様なレベルの技を使う、奇妙な存在としてバルドとフェリシテ2人の心の中に刻まれている。
およそ3日前、まだあの町でそれぞれが依頼をこなしていた時。
バルドとフェリシテは町のそばで、謎のピンクのコートの集団に囲まれてしまっていた。
しかし、そこに突如割り込んで来た謎の男。
全身を「青」で彩ったその男は、ピンクのコートの集団のリーダー格に退散させられそうになってしまった時、やれやれとため息をついて左手を思いっ切り、まるでテーブルの上の物を払い落とすかの様に振ったのだ。
するとその瞬間、辺り一面に1メートル先も見えない様な濃い霧が掛かったのである。
「な、何だ!?」
「何だこの霧は……ぎゃ!?」
身構えて武器を構えるピンクのコートの集団の中から、次々に悲鳴が上がって地面に倒れる人間の姿が続出していく。
どうやら何かに蹴られたり殴られたりしている様なのだが、バルドとフェリシテはその霧に呆然としているだけで手出しはしていない。
となれば、残るはそのピンクのコートの集団を邪魔者扱いしていたその青い男の仕業に違いないと断定出来る。
事実、その男が武器を使わず素手だけで思いっ切りピンクのコートの集団に対してただ殴ったり蹴ったりと言う、単調ながらもかなり威力のありそうな攻撃で1人ずつ沈めて行っているのであった。
見る限り男はかなりの細身ではあるのだが、余程力の使い方が上手いのだろうか、自分よりも大柄な相手を目の前にしても全く怯む事なく確実に潰して行く。
しかし動きが余りにも単調と言うか、戦う事に関してはあまり慣れていない様子なのだ。
事実、囲まれて袋叩きにされている場面も見受けられるのだが、少し経つとその袋叩きからまたパワーで逃れて1人ずつノックアウトする。
「なっ、何だこいつ!!」
「逃げろ!」
そのパワーに恐れを抱いて逃げ出すピンクのコートのメンバーもちらほら見受けられる中、リーダー格の眼鏡の男は自分の武器であるタルワールを引き抜いてその男に向かって行く。
「僕達をここまでコケにして、どうなるか分かっているんでしょうね?」
だが、殺気を隠そうともしないその眼鏡の男に対しても、かなり面倒臭そうな口調で青い男は受け答えする。
「分かるよ。凄い分かるけど、僕の気持ちも分かって欲しいんだよね。別にここでやらなかったら良いだけの話じゃん? 何処か別の場所に行ってくれれば僕だってこんな事はしなかったんだよ。それに君達みたいなのを何人も何人も相手にしてたら、絵を描く前に疲れちゃうじゃないか。だからさっさとどっかに行ってくれ。行かなかったら僕が力ずくで連れて行っても良いんだけどね」
明らかに眼鏡の男は格下に見られている。
事実、眼鏡の男はポーカーフェイスで感情を表に出さない様にはしているのだが、タルワールを握っているその両手が少し震えているのをバルドとフェリシテは見逃さなかった。
「お、おいおい……」
「ちょっと、何でそんなに挑発してるのよ!?」
「挑発なんかしてないよ。僕はお願いをしているだけだからね。それに君達も僕の邪魔をするって言うなら勿論容赦はしないからね」
バルトとフェリシテの方に気が向いた所で、眼鏡の男が予備動作無しでタルワールを振りかざして斬りかかる。
しかし青い男はその眼鏡の男に対し、タルワールが振り下ろされる前に腰の斧を素早く取り外すと、眼鏡の男に向かってぶん投げた。
「っ!」
かなりの速さで飛来したその斧をなんとかタルワールで弾くものの、その隙を狙って青い男が全力で眼鏡の男にタックルをかます。
すると、やはりその細身の身体から繰り出されるとは思えない様なパワーで最も簡単に眼鏡の男の斬り掛かりを止めるだけで無く、青い男がそのままマウントポジションを取って眼鏡の男の顔面を殴りつける。
「だから、さっさとここから立ち去れって、言ってるんだよ!!」
何度も殴りつけられる眼鏡の男に対して、自分の主張ばかりを繰り返すその青い男は恐ろしい程に無表情であった。
結局、眼鏡の男は自分が意識を失うまで殴り続けられた挙句、余りの気迫にバルドもフェリシテもその暴行を止める事が出来なかったのだ。
眼鏡はもはやグチャグチャにフレームがひん曲がり、レンズもしっかり割れている。
片方のツルも折れてしまっているので、眼鏡を掛けていないバルドとフェリシテも「これは買い換えるしか無いだろうな」と呟く程の状態だった。
「で?」
「……え?」
「君達はどうするの? 見た所、このピンクのコートの集団とは関係が無いみたいだけど……ここにまだ居る気?」




