13.報告と近衛騎士団長
ただ、シェリスは自分と同じ皇帝でも、北の隣国であり戦争相手でもあったファルスの皇帝セヴィストには余り良いイメージが無いと言う。
その理由として、セヴィストは皇帝として確かに威厳を持たなければならないのは分かるとしても、どうにも偉そうにし過ぎる嫌いがあるからだ。
その為、隣国に向かわせている密偵から「セヴィストは権力を振りかざす様な独裁的な国づくりをする」とのマイナスイメージをシェリスは聞いているので、ある意味反面教師として役に立つと思いながらも、やっぱり自分のイメージ的に良くは無いらしい。
自分も一国のトップとして、だけどその権力を使って再び国を窮地に陥らせる訳にはいかない。
そんな経験はファルス帝国との戦いでもう十分だ。
その思いを常に忘れる事無く、彼は今日も自分の国である川や湖が多い「水の大陸」バーレン皇国を引っ張って行く存在として活動している。
そんな若き皇帝の前でひざまずいている、剣士隊隊長と魔法剣士隊隊長2人の報告であるが、それ程の長時間にはならなかった。
「……と言う訳でございまして」
「ああ、確かに俺の元にもジェイルザートやジャレティのそんな情報はチラッと入って来てはいたがな……。ただ、確固たる証拠が掴めていなかったから放置せざるを得なかった訳だしなぁ」
うーん……と腕を組んで首を捻るシェリスに、傍に立っている黄色い上着を着込んで緑のマントを身につけている茶髪の男が口を開く。
「私からもお聞きしますが……」
「はい」
「そのジャレティについては、何故その賭博場にいらっしゃったのかお分かりになりますか?」
その男の質問にはカリフォンが答える。
「いえ、それについては現在不明確のままです。あの賭博場の客達に聞き込みを行いましたが、特にこれと言って特定の人物だからと言って賭博場への出入りは禁止としていなかったと言う報告が得られてますね」
「ふむ、そうですか。そうなると……まぁ、ジャレティはネルディアの民にも余り宜しく無い噂が飛び交っていた方ですから、もしかしたら今回の事件と関わりがあるのかもしれませんね」
あくまで憶測ですが、とその茶髪の男……バーレン皇国の宰相のロナは呟いた。
「こちらも部隊を派遣しているし、ジャレティが見つかったらすぐにでもそちらに伝える様には手配済みだ。だからそちらも何かあったらまた鷹を使って連絡をしてくれ。こちらも何かあった時の為にすぐに部隊を動かせる様に手筈を整えておく」
「分かりました、ティレフ団長」
シェリスを挟んでロナの反対側に立っている水色髪の男、近衛騎士団長のティレフも全面的に協力すると約束してくれた。
近衛騎士団長と言う役職に就いているティレフ・レルトインは、槍を己の武器として使いこなす為に槍隊の隊長でもある。
その槍隊と近衛騎士団の両方の団長を務めているので大忙しだ。
近衛騎士団長と言う役職の為にプライドが高く、自らのこの地位に並々ならぬ誇りを持っており日々の努力は今でも絶対に怠っていない。
だからこそ、その実力も騎士団の主力と呼ばれる魔法剣士隊のロオンとジェクトよりも上と言われており、実際にロオンを模擬戦で打ち負かした事もあるのだ。
だが以前、ファルス帝国騎士団のシャラードが休暇中にバーレン皇国に旅行に来た時にひょんな事からティレフと戦った事があり、その時にティレフは打ち負かされてしまった。
それからと言うもの、他の人間が迂闊に近づく事が出来ない位のオーラをかもし出しながら槍の鍛錬に打ち込むティレフの姿が何回も鍛錬場において目撃されている。
何としても、自分もシャラードもどちらも得意な槍の腕前でシャラードに勝ちたいと意気込んでいるからだ。
しかし今のご時勢と言うか、お互いの立場を考えるとそうそう自国を離れられる立場では無いので、リターンマッチが実現するのにはまだまだ先になりそうである。
ネルディアの由緒正しい家に生まれ、父は元より母親、それから叔父も皇国騎士団に所属しているまさに生粋の軍人の家系で育った彼もまた、皇国騎士団に入団する事になったのはある意味必然とも言えるだろう。
そんな名門の家に生まれ、騎士団に入る為に彼は3歳から武器に触れ、魔術の勉強もして自分の技術を磨き上げる事だけに専念していた。
そうした生い立ちの中で彼に芽生えた1つの目標は、皇国騎士団の歴史の中で最年少でトップに立つと言う果てしなくレベルの高いものであった。
その為に、ティレフは日々他の騎士団員とは比べ物にならない時間を自身の戦闘能力を上げる為に費やして来た。
朝起きれば必ず毎日の走り込みを1時間、それから走り込みが出来ない雨の日であれば代わりに早朝から武器の素振りを1000回、もしくは弓の特訓や馬術の特訓を自分で猛烈極まりないメニューを決めて、それだけで朝の時間を過ごした。
勿論毎日の訓練には絶対に休む事無く参加していたし、分からない所があれば分かるまで教官に聞きに行き、部屋に戻ってイメージトレーニング。
そうして夜、皆が寝静まった頃にひっそり鍛錬場へ出向いてその分からなかったポイントを分かる様になるまで、身体の隅々まで染み込ませるかの如く気迫に満ちた特訓をして来た。




