12.皇帝と国の現状
皇都から列車を使っても3日掛かるその町から、ようやくネルディアへと戻って来たカリフォンとロオンの2人。
そんな2人は既にあの町から連絡用の鷹を飛ばしていたので、部下達が色々と準備を進めてくれていた事に満足していた。
だがその前に、自分達が休暇を早めに切り上げて帰って来た事と共に、今回の事件の話は自分達の主君にも伝わっているらしいので、2人はまず主君が待つ王城エーティルの謁見の間へと向かった。
「カリフォン・ヴィディバー剣士隊隊長、ロオン・クラディス魔法剣士隊隊長、只今帰還致しました」
その明瞭なカリフォンの声が響き渡り、謁見の間に続く扉が左右に開かれて2人は頭を下げながら指示を待つ。
「良し、中に入って来い」
「はっ、失礼いたします!!」
頭を上げて規則正しい歩調を維持しながら、2人は謁見の間を進んで行く。
このバーレン皇国の謁見の間は、他の国には見受けられない大きな特徴があった。謁見の間の中には、サラサラと水が流れる音がそれなりの大きさで響き渡っている。
それもその筈、この謁見の間の中には水路が流れているのである。
その水路は謁見の間を横切る形で十字状に造られており、部屋の端にある溝へと流れ込んで行きそこから城の外へと流れて行く。
勿論落ちない様にガラス張りになっているので、何らかのトラブルでガラスが割れでもしない限り事故とは無縁なのだが、何故こんな水路が流れていると言うのかと言う疑問が部外者からは当然湧き上がる。
その理由としては、元々この城がある場所は大きな湖の上だと言う事だ。
皇都ネルディアは湖の上に浮かぶ様に造られている水上都市であり、それが自然の防壁になっていると言っても過言では無い。
この皇都ネルディア、そして城の中に流れている水路と言う様に水を最大限に生かした国づくりをしているのが「水の大陸」バーレンと言う由来である。
そんな水が流れている上を歩いて行き、2人は玉座の目の前でひざまずいた。
「顔を上げろ」
2人が顔を上げた先に座っていたのは、この国のトップの存在である金髪の若き君主だった。
シェリス・ノリフィルは若くしてバーレン皇国を治める君主だ。今はまだ31歳なのだが、25歳の時には既に国のトップとして自国を収める立場になったのである。
それ以前は自他共に認める放浪癖のある男として知られており、城を頻繁に抜け出しては国の家臣を困らせて良く叱られていた。
その時の当人にとっては何処吹く風だったのだが、そんなシェリスも25歳になって父王が病死してしまい、今度は自分が国を担う立場として、そう……一国一城の主として引っ張って行かなければならないのだ。
それからと言うもの、自分が国のトップになった事を実感したシェリスは、何かにとりつかれたかの様に猛勉強しながら国政に励む様になり、結果として今のバーレン皇国の存続に繋がっている。
だが国自体の纏め方に関してはまだ後1歩の所があり、特に皇国の財政面に関してはそんなに余裕が無い状況が今も続いているので、そこが今後の課題になっている。
その原因は他にもあり、それが以前起きたファルス帝国との戦争だ。
これはバーレン皇国側から領土拡大の為に仕掛けて最初は優勢だったものの、ファルスの圧倒的な武力を前にして次第に逆転され、結果として逆にバーレン皇国に攻め込まれてしまう結果になった。
その時はファルスよりも広い地形や自然が多いと言う地の利を活かしてファルスを苦しめたが、最終的には武力で押し切られてしまい大敗北に終わってしまった上に、戦争で国家予算も結構使ってしまったのである。
その国家予算を使った結果の傷跡と浪費は今も響いており、相手側のファルスとは休戦協定を結んではいるものの、何時また攻め込まれるか分からないと言った状況である。
今の情勢から考えてファルスが攻め込んで来る気配は無いにせよ油断は出来ない。
何時か国のトップである自分も戦わなければいけない時が来るのでは無いかと思い、ロオンに武術の稽古をつけて貰っているのが現状だ。
元々の放浪癖を含めた自由奔放な性格から帝王学等の学問よりも、実の所では武術等の身体を動かす事ばかりに興味を持っており、執務室に居る時間よりも鍛錬場で武器を使っている時間の方が長い、と30歳を超えた今でも色々な家臣から言われている。
しかしそれでも政務は割と真面目に取り組んでいる様子であり、文字通り一国一城の主としての責務はきちんと果たしている。
もう30代に入った事もあって貫禄も徐々について来た彼だが、自分より年下の国王である東の隣国シュアのレフナスには、自分より年下でまだ子供っぽさを残している所もあるのに国を纏め上げていて凄い、とのイメージを素直に持っているらしい。
それと同時に西の隣国であるイディリークの皇帝リュシュター……リュディガー達の旅支度を少し支援してくれた彼に対しても、孤児から一気に皇帝になったと言う信じられない位の身分の違いを経験しながらも、その境遇をものともせずに国を纏めている事を少なからず尊敬しているのだ。




