10.魔法剣士隊副隊長ジェクト
カリフォンとロオンから送られて来たその伝書鷹の手紙を最初に受け取ったのは、ロオンの副官でもあるジェクトと斧隊隊長のシュソンと言う男2人だった。
「もしこれが本当なら、即座に部隊を派遣させるんだがな」
「私も同感ですね、副長」
ジェクトもシュソンも、ロオンから送られて来たその手紙を見ていたが半信半疑と言う思いは消えない。
しかしあの真面目で丁寧で物腰が柔らかい男で、主君であり武術の弟子であるシェリスからも信頼されているあの男がこんな事細かに事件の詳細が書かれている手紙を、暇潰しやいたずらの類で送って来るとも到底思えなかったので、副長と隊長は事件の捜査とジャレティの捜索に乗り出す事にした。
魔術剣士隊の副長を務めている中年の男はジェクト・ルーデン。
背中に大きな両手剣を背負っているが、魔術剣士隊と言うその部隊の名前が表している様に戦場に立つ時は魔術も使いこなして戦うのが彼の部隊なのである。
一応、武術と魔術がバランス良くミックスされていると言うバーレン皇国騎士団において、それを顕著に示しているのが魔術剣士隊……つまり騎士団の主力部隊として知られている存在だ。
ジェクトは寡黙な男として知られており、弓隊の副隊長であるアイリーナと同じく余り喋らないのでなかなか取っ付き難い存在として他人から有名だ。
論より証拠を地で行くタイプであり、無駄に口でべらべらと喋るよりも実践して示した方が早いと言う考えを持っている。
剣術も副長を務めるだけあって勿論なかなかのものだが、彼の体内にある魔力は平均よりも1.3倍ほど多いらしい。
それ故に魔術の威力が高い事で知られており、背中に背負ったバスタードソードはあくまでも補助武器として使い、基本的には魔術で戦うスタイルだ。
そのジェクトがライバル視している存在の1人が、剣術の面で自分の参考にしたいと考えているファルス帝国将軍のルザロだ。
若いながらも将軍になるだけある彼の剣術には非常に興味があり、宰相のロナに何とか調べて貰いたいとひっそりと考えているのである。
元々は商家の出身で、特に身分が高い訳では無かったが何となく家業を継ぐのが嫌だった。多分それは騎士団員の息子が友達に居たからだろう。
その友達の影響で漠然と騎士団員の身分に憧れていた彼は、自分に自信をつける為と言う理由付けをしてバーレン皇国騎士団に入団した経緯があった。
それが今からもうずっと前の話になる15歳の時の事だ。最初は確かに口実に過ぎなかった筈が、訓練を続ける内に実力も伴っていき、自分で言った通り自信が付く様になって来た。
だが、その自信が付き過ぎた事によってとんでもない事件が勃発してしまう。
20年前、つまりジェクトが騎士団に入って4年目の19歳の時の任務で、まだ若さ故の未熟さに半端な自信が先走っていたジェクトは、そんな危険な任務にも物怖じせずに挑んだのだ。
それがバーレン皇国のシンボルともなっている、国の中を流れている幾つもの川から水が流れ込んでちょっとした湖が出来ているポイントがあったのだが、そこに沢山の魔物が集団で出没すると言う話の真偽を確かめる任務だった。
その魔物を討伐する為の作戦として、先輩騎士達が魔術を使って湖に刺激を与えた所で飛び出して来た魔物達をやっつけて行くと言うものだったのだが、ジェクトはその魔物達がなかなか出て来ない事に痺れを切らし、「一応」先輩達の指示を仰いだ上で湖の中に電気系の魔術を打ち込んだ。
すると魔力が他の人間より高かった彼のその魔術の威力で、予想していた以上の数の魔物が湖から飛び出て来てしまった。
更に何とその魔術によって湖の主の様な魔物も目覚めてしまったらしく、騎士団は一気に壊滅寸前まで追い込まれてしまう事になってしまう。
結局は何とかそのボス格の魔物を討伐する事に成功した騎士団だったが、その騎士団員の息子が魔物の大群に対処し切れずに襲われてしまい殺されてしまった。
(俺のせいか……俺の……)
そんな状況を作り出そした切っ掛けになってしまった自分をジェクトは責めてしまう。
良く良く考えてみれば先輩に指示を仰いだ上の行動だったが、魔物が出て来ない事で焦ったジェクトは自分の魔力が他の人間より高い事を頭の片隅から消し去ってしまっていたので、それが魔力をフルパワーに詰め込み過ぎて湖に放ってしまった原因になってしまったとも言えるだろう。
ジェクトはただ単に魔物の討伐の為に魔術を使ったと言う事で、騎士団を追われると言う話にはならなかった。
だがこの事件を切っ掛けに、それからは魔術の使用をなるべくしない様にして武器や体術の訓練に力を注ぎ込む様になった。
それに、この事件が彼をクールで寡黙な性格にしてしまった原因になったとも言える。
そんな事件から20年経った今では再び魔術に重点を置く様になってはいるが、時と場合によって魔術の威力を変える事だけは絶対に頭から忘れない様に心掛けているのである。




