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冒険家の子孫の成り上がり  作者: マッハ! ニュージェネレーション
ステージ2(バーレン皇国編):水の皇国
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9.修羅場と怯まない男

「御前達の情報はこっちにも回って来ていたんでな。最初に御前達を見掛けた時はまさかと思ったが、この町に来てみて正解だった様だ」

 自分達を取り囲んでいるピンクのコートの集団の中で、唯一白いラインでの装飾が至る所に施されている眼鏡の痩せ身の男が満足そうな顔で2人に話して来る。

 眼鏡を掛けている水色の髪の毛の男で、ピンクのコートを着込んでいるその腰には左右にそれぞれ1本ずつミドルソード……いや、タルワールがぶら下げられている風貌。

 4人で共有した、あのピンクのコートの男の情報そのままである。


 そんな彼が口走った、情報がこっち「にも」回って来ていると言うそのセリフがバルドには引っ掛かる。

「俺達の情報……って、まさか御前等、ダリストヴェル山脈で俺達を襲ったあの黒いコートの連中の仲間じゃねえだろうな!?」

「さあ、それはどうかな」

 口では曖昧に答えを濁している眼鏡の男だが、バルドとフェリシテを取り囲んでいる今の状況とさっきのセリフが、バルドの質問の答えを表している様なものだった。


 リュディガーとトリスと別れた2人は、素材集めの依頼を終わらせるべく指定された民家へと向かった。

 そこで集めて来て欲しい素材の一覧を書いたメモを渡されて、何種類かは町の中でその民家の住民の知り合いから集めたのだが、残りの3種類の素材は一旦町の外まで出ないとダメな物だった。

 町の外には出ないと約束したのに、ここに来てまさかの展開である。

(こんな事なら、依頼書に直接集めて欲しい素材を書いておいてくれよ!!でも「数が多いので詳細は私の元に来て頂いてからお話しします」って時点で察しておくべきだったな……)

 心の中でバルドは悪態をつくが、こうなってしまってはもう後の祭りだ。

 そもそも国境で依頼を受けた後にあのピンクのコートの男の目撃情報をこの街で手に入れたのだから、仕方無い部分もあるのだが。

 未来なんて誰にも予想出来ないものだし、予想出来ないからこそこうして今2人は修羅場を迎えてしまっている訳である。


 しかし、その悶々とした気持ちを鎮める前にこの自分達を取り囲んでいる集団を鎮める方が先だ。

「おい、フェリシテ。強い魔術は?」

「強いのも使えるけど……この人数相手じゃ厳しいわね」

 見渡す限りの人数で言っても、ざっと50人は居るだろうこの集団。

 それに対してこっちの人数は2人しか居ないので、1人で25人相手と言うのは勝つのは不可能だろう。

 しかもリーダー格の眼鏡の男だが、リーダーと言うその立場に違わぬ気配が漂っている。

(この眼鏡野郎、かなりの使い手だろうな……)

 自分よりは年上だろうが、それでも30歳行くか行かないかと言う位の予想を眼鏡の男につけるバルド。


 そんな彼に対し、年齢の予想を心の中でつけられているとは知らない眼鏡の男は武器を抜かずに周りの部下達に指示を出す。

「この2人を丁重に王の元に運べ。僕はまだ偵察を続ける」

「王……?」

 王とは一体誰の事だろうか? まさかこの国の皇帝を務めているシェリスの事なのかと考えたフェリシテが訊ねてみるが、眼鏡の男は首を横に振る。

「シェリス? 違うな。僕達の王はそんなに若造じゃない。それにこれ以上教えて欲しいなら、僕達から逃げ切ってみるんだな」

 冷静な口調だが自信たっぷりの雰囲気を纏っているこの眼鏡の男に対して、バルドとフェリシテはそれぞれ斧と杖を構える。

 少しでも抵抗しないと気が済まない気持ちで武器を構えた2人を見て、ピンクのコートの集団もそれぞれ武器を構えた。


 だが、唯一武器を構えようとしない眼鏡の男とはまた別の声が、唐突に集団の輪の外側から掛けられる。

「ねえねえ、そこ邪魔だからどいてくれないかな?」

「え?」

 自分の後ろから掛けられたその声に反応して振り向いた眼鏡の男が見たのは、自分と同じく水色の髪の毛に青い瞳、更に青いシャツに水色のズボン、そしてダークブルーの皮手袋と革靴と言う出で立ちの、やたら「青」が強いイメージの若い男だった。

 それに、大勢の集団に一斉に見られているにも関わらず男は全く怯む様子が無い。

 自分と同じく腰の両側に武器……小さな斧をぶら下げており、小脇には画材道具を携えている事から、絵を描く事が趣味の冒険者の類だろうと眼鏡の男は考えた。


 しかし、どいてくれと言われてどける様な状況では無いので丁重に御引き取り願う事にする。

「すまないが、今は見ての通り僕達は取り込み中でね。貴方は一体何がしたいの?」

 バルドとフェリシテに対するものとは打って変わった、出来る限り丁寧な口調でそう問い掛ける眼鏡の男だが、その青い男は明らかに不満そうな顔つきになる。

「僕はここで絵を描きたいんだよ。この景色が今の僕の頭に浮かんでいるイメージとピッタリなんだよね。だから争い事なら他所でやってくれないかな?」

 全く怖じ気付く様子を見せないどころか、若干イライラした口調でそう要求する男に大人しく引き下がって貰うべく、眼鏡の男は部下の数人に顎で指示を出した。

「無理だ。さぁ、さっさと何処かに消えてくれ」

 そう言う眼鏡の男だが、次の瞬間この辺り一帯に思いもよらない光景が巻き起こる!!

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