8.駅
「あれだあれだ、駅が見えたぞ」
先頭で進むバルドの目に見えて来たのは、この町に通っているヘルヴァナール鉄道の駅であった。
昼前の喧騒で賑わうこの駅では、町の中心から離れている場所にも関わらず人の出入りが多い。
……筈なのだが、4人がその駅に近づいて行っても賑わう声が聞こえて来ない。
むしろ、聞こえて来るのはどよめきの声ばかりである。
「どうした? 何かあったのか?」
「それが、駅が突然封鎖されたんだよ」
「封鎖?」
ヘルヴァナールの世界を走っている鉄道は、それこそ世界の住民の足である。
馬よりも速く進めて、何より世界中で運営されているから料金もかなり安めに設定されているのが特徴だ。
その代わり、夜は魔物の襲撃があると困るので真夜中は一部の国を除いて運行していない。
今の時間帯であれば普通に鉄道が走っている筈なのだが、封鎖されたとは一体どう言う事なのだろうか?
「封鎖って……一体何があったのよ?」
「俺達もさっき突然聞いた話なんだけど、傭兵団の人間からこの先に魔物が出たって話があったんだ。それが小さな魔物ならともかくかなり大きな魔物らしくて、安全を考えてしばらく駅を封鎖して別の手段で移動して欲しいと言われているんだ」
「魔物か……」
だが、その情報を教えてくれた男との会話を聞いていた野次馬の1人の女が、このヘルヴァナール鉄道に関する奇妙な話をし始めた。
「でもちょっと待って。さっきまで普通に動いてたわよ? この列車」
「何だって?」
「ちょ、ちょっと待ってよ、情報が錯綜してない?」
トリスもフェリシテも、リュディガーとバルドと同じく困惑の表情を浮かべている。
そんな4人に対して更に女は続ける。
「それなんだけど私、見たのよ。それなりに有名な皇国騎士団の団員人が、複数人で2本位前の列車に乗り込んで去って行ったの。それに鉄道の線路付近は特に魔物の駆除が進んでいる筈だから、こうやって突然魔物が現れる事は滅多に無い筈なのに……」
と言う事は、どうやらかなり悪いタイミングで自分達は駅に来てしまったらしいとリュディガーは頭を抱える。
「ちなみにその見かけた騎士団の人って、それなりに有名な人だって言ってたけど……誰か分かる?」
フェリシテが聞いてみると、女は少し自慢気に答える。
「当然よ。有名な人達だもの。乗ったのは2人居て、1人が剣士隊隊長のカリフォン様、それからもう1人が魔法剣士隊の隊長のロオン様だったわ」
「ああ……それなら私も聞いた事があるわね。どうも」
それって「それなり」と言うレベルでは無く、皇国騎士団でも主力部隊の隊長よ! とフェリシテは心の中で女に突っ込んだ。
「……仕方無い、駅が再開するまでとりあえずこの町に滞在するとしよう」
「それしか無さそうだな」
「依頼はどうするのよ?」
「鉄道が直ってからやれば良いだろ。別に急ぎでやってくれって依頼じゃないんだからさ」
「そうそう、それにこの町での依頼もあるんでしょ。だったら行く前にそれを終わらせていかないと」
それぞれがギルドから受けた依頼は、指定された場所への荷物の運搬や民間の雑草駆除の雑用、それから魔物討伐に皇都への手紙の配達等もある。
イディリーク帝国とはまた違い、バーレン皇国で受けた最初の依頼は偶然とは言え町から町へと移動するタイプのものが多い。
その理由として、鉄道以外にも国の中に川が多数流れている事があげられるだろう。
バーレン皇国が「水の皇国」と呼ばれる所以はそれである。
大小様々な大きさと長さの川が流れており、この鉄道だけがメインの移動手段では無く川を渡る為に運行している船をメインにして移動している国民も多い。
それに鉄道ではなかなか大きな荷物を運ぶ事も出来ない。
鉄道の1つを貨物車にしても、その運べる荷物の大きさと量には限りがあるからだ。
貨物を運ぶ鉄道の場合は運転席以外を全て貨物車として走らせているが、船の場合はかなり大きな船倉を備えている船もあるので、時間に余裕がある荷物の運搬の場合はその荷物と一緒に人間も船に乗り込んで移動している。
他の国でも船による移動手段は勿論あるが、川が多いこの国だからこそ大昔に最初に開発出来たこの移動手段だ。
……のだが、あいにくこの町の近くには川が流れていない。
それに流れている川を探してうろうろしていれば、そのピンクのコートや水色のコートの集団に見つかってしまう可能性もある。
この町で見かけたというそのピンクのコートの男の話からしても、集団がかなり近い距離に居る事は間違いないだろう。
だとすればここはヘタに町の外に出ずに留まり、駅が復活してから進む事に決めた。
この町の依頼をまずは終わらせなければいけないのもあるので、丁度良いと言えば丁度良い。
「よっしゃ、それならまずは手分けして依頼を終わらせよう。請け負ったのはええと……民家での雑用と材料集め、それに伝言のメッセンジャー役か」
「4人で共同で受けた依頼ばかりだから、4人の誰が行っても問題無いなら俺が雑用に行こう」
「分かったわ、それなら私はメッセンジャーをやる」
「私とバルドさんは材料を集めに行って来るわ」
リュディガーが雑用、トリスがメッセンジャー、フェリシテとバルドが材料集めに回る事になったのだが、この3つに分かれたメンバーの中で最初に修羅場を迎える事になったのがフェリシテとバルドのチームだった。




