1.バーレン皇国に向けて
リュシュターの言葉に従う形で、リュディガーとバルドは妹のトリスを連れて再び旅に出る。
まずはギルドで橋の建設の依頼をキャンセルしてから、残りの2つの報酬を受け取って、その金とリュシュターからの旅の支度金で色々と物資を買い込む。
ちなみにフェリシテは王宮騎士団を解雇された訳では無く、あくまでも帝国の代表として遠征任務と言う事で3人に同行する形になった。
そして、リュシュターからはリュディガーが旅に出る切っ掛けとなった、あのルヴィバー・クーレイリッヒの冒険日誌のコピーが手渡された。
それからそれ以外のコピーもイディリーク以外の国の分を渡され、それを1つの手掛かりとして各国を回って、何か新たな発見に繋げられれば……とリュシュターは考えたらしい。
そして準備を整えて出発し、その冒険日誌の中から、元々リュディガーが最初に向かう目的地として予定していた、東の隣国のバーレン皇国の冒険日誌を取り出した。
とは言うものの、情報が余りにも古過ぎて何の役にも立ちそうに無い事がページを開いてみて分かったのである。
「これじゃかさばる荷物だぜ……」
せっかくの冒険日誌だと言うのに、こう役に立たないんじゃ意味が無い。
それでも何時かは何かの役に立つかも知れないと考え、バルドは荷物の中にその冒険日誌を戻した。
そんな彼に対して、隣を馬で進んでいたフェリシテが声を掛ける。
「見えたわ。あれがバーレンとの国境よ」
彼女が指差す方向には、国境を越えようとしている多数の人間で賑わっている砦があった。
この砦を国境代わりにしているとあって、戦争の際はお互いの重要な攻撃、もしくは防御拠点にもなるらしい。
イディリークの帝都を出発して早5日。
そのロカーン砦でリュシュター直々に発行してくれた、彼の名前が入っている通行証を見せて通り抜ける算段だったのだが、馬を下りて通行証を見せるまでは確かに順調だった。
だが、ロカーン砦の国境係員から気になる話が出て来た。
「妙な集団がウロウロしている?」
その話を聞いたリュディガーが真っ先に思い浮かべたのは、フェリシテを除く自分達3人に襲い掛かって来たあの黒いコートの集団だった。
まさかと思ってもっと詳しくその情報を求めてみると、悪い意味で予感が当たってしまったらしい。
「その集団はええと……こっちに回って来ている情報だと黒いコートは着ていないって話だ。こちらで共有しているのは、水色のコートを着ている集団とピンクのコートを着ている集団の2つの集団の目撃情報だけだぞ」
「水色とピンク……」
「ああ。水色の集団は国の南東方面、ピンクの集団は北西方面で見掛けたって話だから、なるべく近づかない方が良いかもな」
係員から仕入れたその情報を、とりあえずリュディガーも他の3人に共有しておく。
その情報に対して、真っ先に反応したのはリュディガーの妹のトリスだった。
「え、それってお兄ちゃんと私とバルドさんに襲い掛かって来たあの連中の仲間とかじゃないの!?」
「やっぱりトリスちゃんもそう思うか。俺も同じ事を考えているぜ」
襲われた3人は同意見だが、フェリシテは話こそ聞いているもののその黒いコートの連中が実際どんなのだったかは知らない。
「コートを着込んでいたの?」
「ああ。恐らくあれは制服か何かだろう。考えられるのは傭兵集団か、もしくは何処かの国の騎士団か、制服のある盗賊連中とかかな」
リュディガーが色々と予想してみるが、どれもこれもその予想の域を出ない以上、バーレン皇国の中で出会わない事を祈るしか無い。
本当にそのコートの連中があの山道の連中の仲間だったりした場合、また命を狙われてもおかしくは無いからだ。
それに、そればかりを気にしていては何時までもバーレン皇国に進めないので、コートの集団の情報を逐一チェックして進めば良いじゃないかと考えてから、取り敢えず4人は皇都を目指す事に決める。
皇都に向かえば何かしらの仕事もあるだろうし、ルヴィバーが辿った道も分かるかも知れないし、自分達の旅の目的が新たに見つかるかも知れない。
だが、その皇都に向かう前にやっておくべき事をバルドが思い出した。
「っと、ちょっと待った。ここで幾つか仕事を受けて行こうぜ」
「ええ、そうしましょうか」
実はこの国境の砦でも、ギルドの支部が存在している。
この4人の様に、ロカーン遺跡を通って冒険者が出入りするとなればついでに依頼も頼みやすいだろうと考えたギルドでは、砦の中にギルドの支部を設置してバーレン皇国側の依頼とイディリーク帝国側の依頼が両方受けられる様になっているのだ。
イディリーク側で橋の依頼をキャンセルした分は、リュシュターから貰った支度金でカバー出来ているものの、それも何時かは底をついてしまう。
それにどの道、旅を続けるにあたって依頼を受けて行かなければならないと考えていたフェリシテ以外の3人は、今の自分達の技量で出来そうな仕事をまた幾つか探してからバーレン皇国入りする事に決めた。




