65.夕食時の来訪者
「それではここで今日は休んでくれ」
ようやく帝都アクティルに帰還した3人は、兵士部隊のラルソンに城の4人部屋を使う様に指示された。
帰還途中で近衛騎士団員に魔術で治療された事もあり、やっとゆっくり休む事が出来ると一息つく3人。
「あー……ただの依頼遂行の予定だったのに、何でこんな大ごとに巻き込まれたんだろ、俺等」
装備を外して用意された部屋着に着替え、ベッドに倒れ込んだバルドが大きな息を吐きながらそう漏らした。
「全くよねー。元はと言えばお兄ちゃんが家出なんかするからでしょ」
トリスにそう話を振られたリュディガーは、バルドと同じ部屋着に着替えながら反論する。
「確かに黙って出て行ったのは悪かった。だが、俺はどうしてもルヴィバー・クーレイリッヒの辿った道を自分で見てみたいんだ」
「それってもしかして、あの新しく見つかった冒険日誌の話?」
「ああ、そうだ」
リュディガーが旅立つ切っ掛けとなった、あのルヴィバーの冒険日誌の話はトリスも親戚から話を聞いていたので知っている。
だが、それを聞いても勝手に出て行ってしまう様なやり方で旅立った兄を許す事はトリスには出来なさそうだった。
「でも私、そんなの認めないからね。そもそもお兄ちゃんが傭兵の仕事を続けるのも心配なのに、遠くへ行っちゃうなんて私には考えられないわよ」
「……」
その場は沈黙を貫くリュディガーだが、心の中では既に決意が固まっていた。
(何と言われようが、俺はこの国だけで終わりたくは無いんだ)
自分の親戚の子孫がその目で何を見たのか。
それを確かめる為に旅立つと一旦決めて、置き手紙までわざわざ書いて出て行った事もあってもう後には引けないと考えているからだ。
そんな微妙な空気にどうリアクションすれば良いのか困っているバルドを含めた3人の居る部屋に、コンコンとノックの音が響き渡る。
「誰だ?」
「王宮騎士団のフェリシテだけど、夕食を持って来たわ」
「ああ、どうぞ」
バルドの声に反応してガチャリとドアを開け、金属製のワゴンを押して湯気の立っている食事を持って来たフェリシテだったが、そんな彼女に対してトリスが突っかかって行く。
「貴女だったのね……」
「はい?」
「貴女がお兄ちゃんをたぶらかして、お兄ちゃんを危険な目に遭わせたのね!?」
「ちょ、おいおい待て待て!」
ワゴンを押し退ける勢いでフェリシテに詰め寄るトリスを、慌ててバルドベッドから起き上がって羽交い締めにして止める。
「ちょっと、離してよ!」
「止めろよ、落ち着けって!」
必死に暴れるトリスだが、自分より体格の良いバルドには力で敵わないのは明白である。
それでもジタバタと暴れながら、トリスは兄をそそのかした元凶がフェリシテだと疑っている。
だがそんな場所に思わぬ来訪者が。
「何を騒いでいるんですか。騒々しいですよ」
「っ、あ……モールティ様……!?」
何と、帝国の宰相がゆったりとした歩き方で揉め事が起こっているこの部屋に現れたのだ。
「どうなさったのです?」
自分もトリスを止めるべく入り口の近くまでやって来ていたリュディガーがそう尋ねると、宰相のモールティは連絡事項があると伝えに来た。
「陛下から通達があります。明朝、朝食を終えたらリュディガー様、バルド様、そしてトリス様の3人で謁見の間に来る様にとの事です」
「謁見の間ですか?」
リュシュターを助け出したリュディガーとバルドが呼び出されるのは分かるが、トリスまで何故呼び出されるのかが分からない。
「何で私まで……?」
「それはここで話すには長くなるお話ですから、詳しくは明日の朝に謁見の間でお伝えします。それからフェリシテ騎士団員も一緒に参加して下さい」
「私もですか?」
「はい、これも陛下からのご指示ですので。それでは失礼致します」
丁寧だが有無を言わせない口調でそれだけ告げ、フェリシテを連れてモールティは薄暗い廊下の先へと姿を消した。
詰め寄る相手が居なくなってしまったトリスをバルドが解放し、とりあえずまずは夕食を済ませてしまおうと持ち掛ける。
それでも納得がいかないトリスはフェリシテに対して、色々と複雑な感情をぶつけるべく追い掛けようとまでしたものの、そのタイミングで彼女の腹からぐぅ……と腹の虫が鳴った。
どうやら身体は正直らしい。
「メシにしようぜ。俺も腹減ったし」
バルドのその一言で渋々トリスも夕食に手をつけ始め、一先ずこれでゴタゴタは収まった様だ。
そしてその夕食時の話題と言えば、モールティが伝えに来た謁見の間への呼び出しである。
「わざわざ謁見の間にまで呼び出して、俺達に一体何を陛下は話されるんだ?」
「考えられるのは俺達への礼……とかじゃないのか」
バルドが気にしている様子を横目に見ながら、リュディガーはパンをちぎって口に放り込みつつそう答える。
しかし、それだったらこの帝都に帰って来るまでに言えた筈だし、事実幾らでも時間があった筈だと疑問が浮かぶ。
「でもあの真面目な陛下の事だから、やっぱりきちんと謁見の間で礼を言いたいって気持ちがあるんじゃないかしら?」
「その気持ちも分かる」
何にせよ、リュシュターは自分達を謁見の間にわざわざ呼び出してまで話をしたいと言う事に変わりは無いので、朝起きて朝食を摂って言ってみれば分かるじゃないかと話は終わった。
しかし、この3人に待ち受けていたリュシュターからの話は、確かに謁見の間にまで呼び出してする様な内容であると言う事を、次の日の朝にその場で実感させるものだったのである。




