64.一旦帰還
「こ、これは!?」
「おい、あそこに誰か居るぞ!」
「大丈夫ですか!?」
バタバタと足音が聞こえて来て、林の中に踏み入って来たのは4人の人影。
まずはイディリーク帝国皇帝のリュシュター、それから兵士部隊総副隊長のラルソン、近衛騎士団副団長のジャックス、最後に王宮騎士団第4師団所属のフェリシテだった。
「あ、貴方達は……」
「おい、一体何があったんだ?」
「ちょっとちょっと、どう言う事なのよこれ!?」
4人がいっぺんに色々なリアクションをするので、リュディガーを始めとした3人は対応出来る筈も無い。
「す、済まないですが……落ち着いて1人ずつ喋って貰えませんか?」
そのリュディガーの願いを聞き入れ、彼を含む7人は一旦林の中から出た。
そして、皇帝のリュシュターを最重要として位置づけて帝国騎士団側に話をする3人。
リュシュターを助けたあの後、ここまで来て一体何があったのか。それから何故林の中でこうしてケガをしていたのか。
更にはあの黄緑頭の男が裏で糸を引いていたらしいと言う事まで全てをぶちまけた3人に対し、帝国側の4人は驚きのリアクションを隠せない。
「計画ですか……」
「となると、陛下を誘拐したと言うその偽の王宮騎士団員は俺達の計画していた奴等とはまた別の奴等って事になるな」
「ああ。しかも俺達近衛騎士団の恰好までしていたとなれば、それだけの組織力がある集団と言う事になるだろう」
山を下りて来た所で多数の死体を発見し、林の中から話し声が聞こえたのでそっちに向かってみた結果、この3人を最初に発見したリュシュターは困惑の表情を見せる。
一方のラルソンとジャックスがその集団に関しての分析をする横で、フェリシテがこんな提案をする。
「もしそうだとしたら、まだこの山の中にその集団が潜んでいるって事になりませんか?」
「そうなりますね。貴方達も顔がその集団に知られているとなれば、一旦ここは帝都に戻りましょう。私からも直々にお礼がしたいのです」
リュシュターにそう言われてしまうとよもや断る事も出来ないこの展開は、あの偽の王宮騎士団員達から助け出した時に続いて2度目となる。
確かにリュシュターの言う事も分かるので、彼の助言に従って上に居る「本物の」帝国騎士団の団員達と合流した後、5日掛けてゆっくりと帝都のアクティルに向かう事にした。
その一方であの撤退した黄緑頭の男は、自分の相棒的存在の白いコートを着込んだ弓使いの男と一緒にバーレン皇国側へと山を抜けていた。
「はぁ、はぁ……良し、ここまで来ればとりあえず大丈夫だろう
険しい山道を一気に駆け抜けて来た為、普段から鍛えている2人でも流石に息切れしてしまった。
「しかしまさか、私の邪魔をする人間が居たとは……!」
「何であんな伏兵が居たんだ? あんな奴の存在、俺達の事前調査ではリュシュター陛下の周りに居なかったぞ?」
「私に聞かれても分かりませんよ。ですが、あの3人に邪魔をされたのは事実ですからね。その内の2人には2回も邪魔されてますし、リュシュター陛下を誘拐して「あの事」についての情報を聞き出すのも出来ませんでした」
「くっそ、これじゃ前途多難じゃねえかよ!」
着込んでいるコートやズボンと同じく、白いブーツの黒い靴底で憎々しげにダンッと地面を蹴り付ける男。
紫色の頭髪に黒い瞳をしている、黄緑頭の男と年齢的に余り変わらない見た目のその男の手には、リュディガーの動きを止めたあの矢を放つ為に使った大型の弓が握られている。
「とにかく他の国に向かった奴等と、それから団長にも報告しておかなきゃな」
「ええ。イディリークはこれで警戒態勢が厳しくなる筈ですが、日を置いてまた次の機会を待つとしましょう。まだ時間はたっぷりありますから」
自分達以外にも、この世界に存在している多くの国の内で特に影響力のある8か国に送り込まれている仲間達に、早々に連絡を取らなければならない。
その8か国の内でイディリークの担当が自分達だったのだが、自分達が失敗してしまったとなるとこの先の計画に大きな遅れが出てしまうだろうと2人は予想していた。
せっかく帝国内で騎士団同士のゴタゴタがあると知って、色々裏から手を回して密偵まで送り込んただ結果、ようやくあのリュシュターを山脈に連れ出す情報をキャッチした。
そして、兵士部隊と近衛騎士団の間で何やら計画が進行している情報も手に入れたとなれば、どうやって後はリュシュターを誘拐するかを考えるだけだったのである。
その立てた自分達の計画は上手く行っていた。
事前にイディリーク帝国王宮騎士団の制服と近衛騎士団の制服、それからそれぞれの装備を密偵を通じて1つずつ手に入れて、自分達の中で手先が器用な団員達で誘拐実行メンバーの人数分だけ量産していたのだ。
そこまでの手間と時間と金をかけた計画は完璧な筈だったのに、名前も知らない冒険者らしき連中に邪魔されたとなれば思わず溜め息も出てしまうと言うものだ。
今は一旦諦めて仲間達の元に帰還しようと決意した2人は、バーレン皇国側に向かって落胆しながら歩き出すのだった。




