63.口走ったセリフ
そう言う部隊長の男は気を取り直して、再びロングソードを振りかざしてリュディガーへと向かう。
お互い、気が付けばこの林の中で戦っているのはこの2人だけになっていた。
リュディガーはしりもちをついた所からその勢いで後ろに転がって起き上がり、一直線に向かって来る男のロングソードを横にずれて回避。
そこから男の右脇の下に自分の右腕を通し、首を思いっ切り押し込む形で地面に押し倒す。
「げは!?」
変な声が男の口から漏れるが、それは気にせず素早く男をうつ伏せにひっくり返し、その右腕を後ろ手に捻り上げて拘束する。
「大人しくしておけっ!」
こうして何とか男を制圧する事に成功したリュディガーは、改めてこの謎の男の素性や目的を聞き出すべく尋問を始める。
……筈が。
「ぐおっ!?」
ヒュッと風を切る音がしたかと思うと、次の瞬間には自分の左肩に衝撃が走った。
更に痛みも同時に襲い掛かって来て、思わず拘束した男に圧し掛かっていた自分の身体を横倒しにして地面に崩れるリュディガー。
「おい、ここは退くぞ!!」
「仕方ありませんね……計画は一旦中止です!」
黄緑色の髪の男とはまた別の男(?)の声が何処からか聞こえて来て、立ち上がりつつ自分のロングソードを鞘に納めて素早く身を翻して走り去って行くその男。
「ま、待て……くっ!!」
リュディガーもその男を追い掛けて走り出そうと思ったが、今までの疲れから足に力が入らない上に、肩に刺さった矢の痛みもプラスされてどうしても身体が動いてくれなかった。
(くそ、逃げられたか……!)
男が走り去った方を見て、リュディガーはギリッと歯軋りをして悔しさを噛み締める。
結局あの謎の男の招待や目的は分からずじまいだったが、間近で戦っていただけあってその容姿はハッキリと覚えているので、自分の記憶から忘れない様に覚えておく事を決意する。
そんなリュディガーの元に、今度は複数の足音が聞こえて来た。
「おーいリュディガー、大丈夫か!?」
「お兄ちゃん、そ、その肩……!?」
駆け寄って来た足音の主は、別の場所で戦っていたバルドとトリスのものだった。
どうやらこの2人の戦いも終わった様であり、ようやく一息つけるシチュエーションになったのは良いのだが……。
「と、とにかくその矢を抜いて止血しないと!」
トリスがオロオロとしつつも、たすき掛けにしていた自分の荷物の中から傷薬と包帯を取り出す。
矢に毒が塗られていなかっただけ、まだ不幸中の幸いと言えるだろう。
「矢を抜くぞ……喋るなよ」
バルドがリュディガーの肩を押さえつつ、一思いに矢を引き抜いた。
「っ!」
呻き声を上げたリュディガーの肩を掴んで圧迫し、止血した状態から今度はトリスが包帯と傷薬で治療を始める。
その治療をして貰っているリュディガーは、あの男が走り去る直前に口走っていたセリフを思い出して2人に伝え始める。
「そう言えば、あの黒いコートに黄緑頭の男が気になる事を言っていた」
「気になる事だって?」
「ああ。計画は一旦中止だと」
「計画……何それ? お兄ちゃんの言う通り確かに気になるわね」
バルドもトリスも首を傾げるが、そのリアクションをしたいのはリュディガーも同じだった。
「ああ。それに、その抜いた矢を放って来たのは恐らくあいつの仲間だろう。トリスが俺に矢を放つ訳無いしな」
「当たり前じゃない。でも、目に見える範囲の敵は全て私もバルドさんも倒したと思うんだけど……」
確かに「目に見える範囲」の敵は殲滅した。
だが弓使いの場合、身軽な者であればそれこそ木の上に登ってそこから攻撃する事だって不可能では無い。
それでも、その矢を放って来た弓使いはかなりの腕であるとリュディガーは推測する。
「流石に矢が抜かれた状態だから、もうこれじゃ何処から矢が飛んで来たのかは分からない。だけど、こう周りに木々が生い茂っている場所で見通しが悪い上に、俺はその時あの黄緑頭の男をうつ伏せに制圧していたんだ」
「えっ、そうなの?」
「だったらその男に矢が当たる可能性もあるのに、それで御前に当てたってのかよ?」
それだったら確かにかなりの腕だとトリスもバルドも納得したが、自分達が狙われる理由が分からない以上はそんな危険な連中を放っておく事は出来ないだろう。
「計画がどうのこうのってのも気になるし、俺達……特に俺とリュディガーはあいつと間近で戦って顔を良く知っている訳だから、俺達が計画の邪魔になると考えて殺しに来るかも知れねえぞ」
「ちょ、ちょっと縁起でも無い事言わないでよバルドさん……」
不吉な事を言い出すバルドをトリスが止めるが、リュディガーはバルドの意見に賛成らしい。
「俺もその可能性はあると思う」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃんまで何言ってるのよ?」
「考えてもみろ。帝国騎士団に化けて陛下を誘拐する様な連中だぞ。と言う事は目的達成の為なら何でもするだろうし、あの男以外にもこの矢の持ち主の様に仲間が居るとなれば、何時何処で襲われたっておかしくないと思うがな」
リュディガーの静かだが力強いセリフに2人が黙り込んだ時、再び林の外から複数人の足音が聞こえて来た。




