58.帝国の未来を決める各地の戦い(その6)
そして、そのリュディガーの隣でまだ帝都に戻れない理由をバルドがトリスに伝える。
「この山の中でリュシュター陛下を見かけたんだ」
「は?」
「それも只事じゃない。陛下は誘拐されているらしい。それも王宮騎士団の連中に誘拐されてここまでやってきてしまったらしいんだ」
「な、何よそれ!? さっぱり話が見えないんだけど」
「俺達だってそれは同じだ。だけど、トリスちゃんも聞いた事があるだろ? 最近、帝国騎士団が何かいざこざを起こしているんじゃないかっていう噂をさ。それが絡んでいるんだと思う」
「いざこざ……まあ、確かに聞いた事はあるけど……」
自分も聞いた事のある話を思い出してヒートダウンするトリスに対し、今度はリュディガーからさっき自分達がやった事を報告する。
「俺達は、その誘拐されそうになっていた陛下を助けたんだ」
「はい?」
トリスは再びキョトンとした表情になるものの、それは気にしてはいけないと心に決めながらリュディガーは話を続ける。
「王宮騎士団の連中に上で出会って、それで陛下自身から王宮騎士団に誘拐されそうになっていると聞き、俺達は何とか助け出す事に成功した。しかし、俺達が助け出した筈の陛下は俺達の護衛を断って山の上に走って行ってしまったんだ」
「待って……ちょっと待ってよ。ますます話が分からなくなって来たわ。つまりリュシュター陛下はこの山の中で何かをしようとしている、と言う事なのかしら?」
「それは俺達にも分からない。ただ、俺とリュディガーの護衛を断ってまで山の上に向かうと言う事は、それだけ何か目的があると言う事だとは思う」
どうやら、自分達もまだこの山の中から撤退する訳にはいかない様だ。
それにトリスが何故そんなに怪我をしているのかも気になるので、トリスからも今まであった事を話して貰いながら、2人は自分達の馬を残してきた山の頂上へとUターンし始めるのだった。
「貴様だけは、絶対に許す事は出来ないっ!」
カルヴァルの猛攻を受け流して反撃に出るローレン。
「まさか、貴様が俺達のスパイとして潜り込んだとはな!」
そんなローレンの反撃を持っている斧で受け止めるカルヴァル。この将軍同士の戦いは全くの互角である。
そして2人が戦っている場所は広場では無く、遺跡の前のスペースだ。
この遺跡は風が凄く、中を進むのも一苦労だと調査隊が話している。
そしてその最深部には竜のウロコが落ちていたのが発見されたのだが、肝心の竜自体は見つかっていない。噂によれば、人間の言葉を理解出来る伝説の竜だと言う説もある。
それが見つかれば古代の文明や新しい技術の発見にも繋がるかも知れない、と帝国では考えられているのだ。
そんな遺跡の前で繰り広げられるのはまさに死闘。
邪魔者は一切居ないタイマン勝負。技と技のぶつかり合いである。
ハルバードを武器とするローレンに対し、現在はロングソードと斧で応戦するカルヴァル。
ハルバードの方がリーチがある分、距離を稼ぐ事が出来ればローレンが有利になるのだが、カルヴァルも流石将軍として王宮騎士団を率いているだけあって簡単に距離を取らせてくれる筈が無い。
左手で盾の代わりに斧を振り回してハルバードの攻撃を弾き、右手のロングソードで攻撃する変則二刀流のスタイルをカルヴァルは取る。
だが変則的だと言えども、カルヴァルの戦い方は普通の二刀流と変わらないので冷静にローレンは対処する。
金属が打ち合わさる音が遺跡の前に響き渡り、戦いが繰り広げられる。
そのまましばらく打ち合いが続いていたが、いい加減息もあがって来たのでケリをつけたいと言うのは両者共に同じ考えだ。
「そらっ!!」
斧で攻撃を弾き、今迄以上のスピードでローレンの懐へ飛び込むカルヴァルだが、その懐に飛び込んで来た所でローレンは身体を捻って攻撃をかわし、彼の顔面に頭突きをする。
「ごあっ!」
カルヴァルが怯んだ隙に、ローレンは彼が持っている左手の斧をハルバードで弾き飛ばす。
「く、くそっ!」
残ったロングソードで必死にカルヴァルは立ち向かうが、頭部に衝撃を受けた事で一瞬意識が遠のいてしまう。
それをローレンは見逃さずに、左足で右手を蹴り上げてロングソードも弾き飛ばした。
更に間髪入れずに右の回し蹴りも繰り出せば、その足はカルヴァルの側頭部にヒットする。
「ぐはっ!!」
これで斧だけでは無くロングソードも吹っ飛ばされたカルヴァルは、背負った弓を素早く取り出す。
それを素早くローレンに向かって構え、矢を射る。
だがローレンは避けようとはせずに、何とその矢をハルバードで打ち返した。
「な、何……うっ!?」
その矢はカルヴァルの肩にヒットして彼の動きを止める。
それを見たローレンはそのままダッシュして、渾身の飛び蹴りをカルヴァルの顔面へと喰らわせる。
「がはっ……」
クリーンヒットした前蹴りは、カルヴァルを気絶させるには十分であった。
「はっ、はっ、はっ……後は、陛下のご判断に任せるとしよう」
息を整えて素早く荒縄でローレンはカルヴァルの身体を縛り上げ始め、縛り終えたら彼を今度は肩に担いで、まだ戦いが繰り広げられているさっきの広場へと足を進めるのであった。




