57.感動の(?)再会
「……あれ?」
「どうした?」
「ここの駐屯地、こんなに静かだったか?」
バルドが気が付いたのは、この山を登って来る時に挨拶回りで立ち寄った王宮騎士団の駐屯地の1つの異変だった。
野営の準備でそれなりに賑やかだった筈の駐屯地は、今は明らかに人の気配がしないのだ。
かと言って血の臭いもしないのでどうやら無人の駐屯地になってしまった様だが、それにしては物が無造作に置かれたままなのが気になる。
それなりに品位の高い王宮騎士団が、こんな場所にこんな雑に野営の物品を放置して行くのだろうか? と疑問が出るバルド。
「全員忽然と消えてしまった……と言う事か?」
「そうらしいな。上に上ったか下に下りたか……もしかしたらさっき俺達が戦った王宮騎士団の奴等がそうだったかも知れねえんだけど、とにかく邪魔者が居ないんだったら俺達にとっては好都合だ。ここの登山道は今の俺達が進んでいるルートだけじゃなくて、他にも幾つもある訳だからここの駐屯地の連中ももしかしたら別のルートから何処かに向かったかも知れねえしな。とにかく邪魔者が出て来なさそうな内に、さっさとトリスちゃんを見かけた所まで行ってみるだけだろ」
そう、活かせるチャンスはやはり最大限に活かすべきである。
そう考え、違和感を覚える駐屯地を後にしたリュディガーとバルドの2人は再び山道を徒歩で進んでいく。
自分達の馬はトリスを見つけた場所に向かう為に、山脈の頂上に置いてきてしまったのだ。
それにリュディガーが見つけたと言うその女の姿が、本当にトリスかどうかも分からない。
もしそれがリュディガーの見間違いだとか疲れによる幻覚だったと言うのであれば、さっさと馬を回する為に頂上に引き返さなければいけない。
先程、自分達が王宮騎士団の団員達から助け出す事で成功したリュシュターと、それについていったフェリシテの安否も気にかかる。
だからまずは、一刻も早く自分がその姿を見かけたトリス(?)の元に急ぐべきだと判断して足を動かすリュディガーだったが、その隣で同じ様に足を動かして進んでいるバルドがふと、気になる音を自分の耳でキャッチした。
「……ん?」
「今度は何だ?」
「いや、何か足音が聞こえないか?」
「足音?」
「ああ。それもこれはおそらく人間の足音だと思う。数からするとおそらくこれは1人。下の方から聞こえて来るぞ」
なるべく声を潜めて、リュディガーにしか聞こえないようなボリュームでその自分が聞こえた音について伝えるバルドだったが、その瞬間リュディガーも同じく足音を自分の耳でキャッチする事に成功した。
「……確かに聞こえる」
「だろ? 用心しておけよ」
リュディガーとバルドはお互い身構え、下の方から登って来るその足音に警戒する。
まだ王宮騎士団員が居たのかも知れないし、もしくは別の人間かも知れない。
ガチャガチャと金属の音が小さめなのを考えると、武装は余りしていないみたいだが油断は禁物である。
丁度左の曲がり角になっている視線の先から現れた人影に対して、そうして何時でも先制攻撃出来る様にソードレイピアを構えていたリュディガーだったが、そのソードレイピアを下ろさなければならない状況になるのだった。
「……あれ?」
「なっ……」
「お、お兄ちゃん!? やっぱりお兄ちゃんなのね!?」
予想通りと言うべきか、当たって欲しくない予想だったと言うべきか。
曲がり角の先から現れたのは、自分達が見覚えがありすぎるその姿。
ショートカットの金髪に青の上着、それから黒のニーハイブーツと言った格好の小柄な女。
まさしくそれは、あの望遠鏡で見かけた姿に間違い無かったリュディガーの妹のトリスだったのだ。
しかし、そのトリスは明らかに身体の至る所に怪我を負っているのが見て取れる。
「お、おいどうしたお前、その怪我は……」
「これ? これはお兄ちゃんを追いかけてここまで来る途中でこうなったのよ!! お兄ちゃんが黙って出て行かなかったら私だってこんな場所まで追いかけて来なかったわよ!! 全部お兄ちゃんが黙って出てったのが悪いんだからね!!」
確かに黙って出て行ったのは自分が悪いが、わざわざこんな所まで追いかけて来る必要があるのだろうかとリュディガーは少し疑問に思ってしまう。
そんな戸惑いの表情になるリュディガーに対し、トリスは自分の要求をビシッと右の人差し指と一緒に突きつける。
「さあ、さっさと帝都に帰るわよ!! それからお兄ちゃんと一緒にここまで来たバルドさんもね!!」
バルドと一緒に歩いているのを見たと報告を受けたトリスは、兄の突然の失踪に対してそのバルドが一枚噛んでいるのではないかと見当をつけていたのである。
しかし、リュディガーとバルドは彼女に対してほぼ同時に同じ様なセリフで要求を拒否する。
「無理だ」
「それはまだちょっと駄目だ」
「何でよ!? いいからさっさと帰るわよ!!」
2人に同時に自分の要求を拒否された事によってますますヒートアップするトリスだが、そんな彼女を見ても兄のリュディガーは冷静な表情のままだった。




