55.帝国の未来を決める各地の戦い(その4)
顔面にシャブティのドロップキックがクリーンヒットした事で、鼻血がだらだらと流れる感覚がラルソンの唇に伝わって来る。
更に顔面を押さえていた左手の茶色の皮手袋にも、その自分の血がべっとりと染み込んでいるのが分かった。
「ぐお……ぁっう……」
何とか身体を起こそうとするが、頭に強い衝撃を受けて視界がまだ上手く定まらずにふらついてしまうラルソン。
しかも蹴られた衝撃で愛用のロングソードが手から吹っ飛んでしまい、丸腰で何とか勝負しなければいけなくなってしまった。
そんな彼の様子を見たシャブティは、チャンスだとばかりにバスタードソードを振りかざして向かって行く。
「終わりだぁーっ!!」
「くっそ……!!」
気合を振り絞って立ち上がり、何とかギリギリでシャブティの攻撃を回避する。
そのまま素早く辺りを見渡すと、自分のロングソードが転がっているのが視界に飛び込んで来た。
だがしかし、まずはシャブティの攻撃を少しでも緩めなければならない。
今度は薙ぎ払われたバスタードソードをバックステップでギリギリ回避し、立て続けに両手で突き出された突き攻撃を身体を捻って回避。
すると勢い付いたシャブティの身体がラルソンの方へと近づくので、後ろに回りこんだラルソンは彼の背中を思いっ切り蹴り飛ばす。
「ぐおっ!」
そのまま連続で前蹴りを叩き込んで行き、最後に何とか振り向いたシャブティの顔面にハイキックを入れる。
「ぐえっ!」
それによって、先程の自分と同じく片手で顔面を押さえて悶絶するシャブティには見ての通り大きな隙が出来たので、そこでロングソードを取りに向かう。
地面を前方回転で転がって、素早くラルソンは地面に転がったままのロングソードを拾い上げた。
しかし力が先程より入らない。
身体が怠いとかそう言う訳では無い、もっと別のその理由で力が入らないのをラルソンは分かっていた。
(鼻血だ……)
力めば力む程、鼻血が鼻を塞いでしまうので力が入りにくいのである。
しかしそれは相手のシャブティも同じ事になっていた。何とシャブティも同じ様に鼻血を流しており、お互いが鼻血によって力が入らない状況になっているので条件はイーブンだ。
「くっそ~……っ、終わりにしてやるぜえええっ!!」
2人はほぼ同時に相手の方向に駆け出し、シャブティはバスタードソードを振りかぶってラルソンはロングソードを構える。
シャブティは走りこみつつ胸の辺りで横一文字に薙ぎ払いをしたのだが、ラルソンはスライディングをしてその薙ぎ払いの下を滑って潜り抜ける形で回避する。
そして素早く立ち上がり、振り向きかけたシャブティの腹目掛けて渾身の横薙ぎ払いを繰り出した。
「そらっ!」
「ぐあっ!?」
それにより腹を斬り裂かれ、致命傷とまでは行かなかったものの流石に戦闘続行不可能になるシャブティ。
それを見て、ラルソンは一息つくと残りの騎士達や私兵団の兵士を相手にする為に駆け出した。
ラルソンがシャブティと鮮烈なバトルを繰り広げている頃、ヴィンテスは槍使いのレーヴァと木々の間で勝負を繰り広げる。
そのレーヴァと言うのはあのダリストヴェルで出会った4人の内、黒髪に赤い上着の男である。
戦士としては小柄な部類に入るレーヴァは、こうした狭い場所では不利な筈の槍を自由自在に扱ってヴィンテスを次第に追い詰めて行く。
その理由として今のレーヴァが使っている武器である槍が、王宮騎士団員がが持つ物より少しだけ小さいサイズであるからだ。
小柄な体躯を活かしたその素早さに、槍のコンパクトさが拍車をかけている形になっている。
「どうしました? 私はこちらですよ?」
うまく木に隠れてヴィンテスの弓から射られる矢ををやり過ごし、木から木へと素早い移動でヴィンテスに攻撃の隙を与えずに近づいて行く。
その度にヴィンテスは距離を取るのだが、このままでは自分が不利な事を悟る。
(まずいな、このままじゃあこっちがやられてしまうぞ!)
如何にかしてこのすばしっこい私兵団のメンバーを倒さなければいけないが、考える時間を与えてくれない程にレーヴァは槍によるスピーディーな攻撃を繰り出して来る。
帝国の運命を決める戦いだと言うのに、このまま何も出来ずに力尽きて槍で串刺しにされるのだけはごめんである。
ヴィンテスも魔術が使えるとは言え、自分が使えるのは主に回復系や防御系のいわゆる「守り系統」のものである為、パルスと違って実戦では前衛の援護みたいな場面でしか役に立たない。
だったら今の自分がこのレーヴァと勝負出来るのは、自分が持っているこの弓だけなのである。
(接近されたら、あいつの使っている槍の長さが短いとは言ってもそのリーチの差でこっちはお手上げだ。一体どうすれば良い……!?)
槍を手にして近づいて来るレーヴァからまた距離を取りながら、何とかこの状況を打開する策をヴィンテスは考え始めた。
そこでヴィンテスはふと、頭の中に1つの作戦を思いつく。
(まともにやりあっても勝ち目は薄い。だったらいっそ!)




