54.帝国の未来を決める各地の戦い(その3)
対するジェバーは姿を見せたジアルに向かってファイヤーボールの上級バージョンである、特大の火炎球を放つ『フレイムボール』をジアルに向けて繰り出す。
しかしそれをあろう事か、槍で真っ二つにするジアル。
「なっ!?」
まさかの事態にジェバーの顔から一瞬で余裕の表情が消え、代わりにジアルに距離を一気に詰められる。
「はあっ!」
ジアルは距離を詰めると同時に、槍を思いっ切りジェバーに向かって投擲するが、それをギリギリの所でジェバーも身体を捻って回避。
が、それもジアルの作戦であった。
「はあああっ!」
身体を捻ってその槍を避けた筈が、気が付けば渾身のタックルを喰らわされて馬乗りにされてしまうジェバー。
その馬乗りになっている人物と言えば、勿論ジアルである。
「らっ、らっ、らっ!」
魔術を使わせない様にする為に、馬乗りになったままなるべく口を目掛けてジェバーの顔面を殴りつけて行くジアル。
このお喋りなうるさい口を、少しでも黙らせる為に。
「貴様は大罪人だ! ここで俺が殺しても良いが、陛下のお裁きを受ける事だなぁ!」
口ではそう言いつつも、手はジェバーを殴る事を休めてはいなかった。
そうして手が痺れて来て血だらけになった頃、ジェバーはがっくりと気を失っていた。
(死んではいないが、少しやりすぎたかな……)
顔面血だらけで気を失っているジェバーの顔を見て、彼は少し罪悪感を覚えながらも、取り出した荒縄でジェバーの身体を拘束し始めた。
「貴様の油断が招いた結果だ。この勝負は俺の勝ちだな」
意識が無いまま縛り上げられているジェバーに向かってそう呟くジアル。
自分の実力が高い事で油断しきっていたジェバーは、まさかのジアルの戦法に成す術無くやられてしまった。
この勝負はそんなジェバーの油断を見抜き、それを逆に利用する作戦を組み立てる事によって勝利を自分に引き寄せた、ジアルの作戦勝ちとなったのである。
そのまま縛り終えると引っ張って立たせ、意識の無いジェバーを肩に寄りかからせる様にして自分の槍も取りに行き、広場の方へとジアルは歩き出すのであった。
ラルソンは広場の中で他の兵士も相手にしつつ、自分に向かってバスタードソードでしつこく斬りかかって来るピンク色の髪の男を相手にしている。
ヴィンテスの情報によれば、先程のダリストヴェル山脈でヴィンテスやパルスが戦った相手の1人であり、カルヴァルの私兵団のメンバーでもあるシャブティと言う男らしい。
バスタードソードと戦うのはこの進軍の中ではこれで2回目だ。ダリストヴェル山脈で戦った近衛騎士団のジャックスも同じくバスタードソードを使う相手であったので、その時の経験も手伝って今は対処法も分かりやすい。
だがこのシャブティへの対処法が分かっているとしても、問題はその周りの状況である。
当然ラルソンは、今のこの広場での戦いでシャブティだけを相手にする訳では無い。
周りにはまだ私兵団のメンバーや王宮騎士団の団員も居る訳なので、そいつ等の相手も同時にしなければいけないのだ。
「はあぁっ!」
横から斬り掛かって来た王宮騎士の槍を剣で受け流し、懐に飛び込んで胸を刺し抜くラルソン。
続いて前から飛び掛って来るシャブティの蹴りをかわして、その蹴りの着地後の隙を狙ってラルソンは左手で思いっ切りシャブティの顔面にパンチ。
「ぐおっ!」
吹っ飛ぶシャブティを横目で見ながら、再び周りの相手をして行く。
大人数での乱戦は戦場に出れば日常茶飯事であるし、訓練では1対1だけでは無く2対1、3対1をも想定しての訓練も部下にさせている。
また、こう言った乱戦状況になっても対応できる様に訓練の時はまず1人に相手をさせ、時間を置いて別の隊員がその訓練の相手に奇襲をかけると言う事もさせ、咄嗟の判断力を養うプログラムもあるのだ。なので、乱戦においても同様を少なくさせて即座に対応出来る様な適応能力を養う事が可能になる。
当然ラルソンも同じ訓練をしており、それが今の状況で役に立っている。
右側から斬り掛かって来た私兵団のメンバーの斧をロングソードで受け止め、前蹴りで逆にそのメンバーを弾き飛ばす。
更に後ろから殺気を感じた彼は、勢いをつけて周辺への攻撃が可能になる回転斬りを後ろへ向かって繰り出した。
「ぐああっ!」
彼が後ろを振り向いた瞬間に、血しぶきを上げて吹っ飛ぶ王宮騎士が見えたが構わずに前へと向き直る。
だがそこには、人間の身体では無く黒い物体が見えていた。
いや、正確には人間の身体の一部であるのだが、この距離では流石のラルソンでもそれに反応する事が出来ずにモロに顔面にそれが当たってしまう。
「ぐほへぇっ!?」
顔面に強い衝撃を受け、余りの痛さに片手で顔面を押さえて悶絶するラルソン。
「はぁ、はぁ、はぁ……さっきのパンチのお返しだぜ!」
その黒い物体とは、シャブティの履いているブーツの靴底であった。
シャブティは慎重にラルソンの背後に近づき、タイミングを見計らってドロップキックを繰り出したのだが、ラルソンがそこで自分の方に振り向いた事で運良く彼の顔面にクリーンヒットさせ、かなりのダメージを与えるのに成功したのである。




