52.帝国の未来を決める各地の戦い(その1)
ではどうするかとジャックスは必死で考えながら、矢に当たらない様に木の影に身を隠しながら考える。
(俺があいつに勝てる方法と言えば、魔術しか無さそうだな)
自分は魔術が使えるので、それと大剣を利用した戦い方をしようと考えるジャックス。
(だが魔術を使えるのは回数が限られるな。何回も使えば相手に警戒されるだろうし……。使えるのは1回、いや……多くても2回だ!)
ヘーザがかなり正確に矢を射って来るのでそれを木の陰に隠れて避けつつ、木から木の陰に移動して的を絞らせない様にしながら素早くヘーザとの距離を詰める。
しかしヘーザもその度にジャックスとの距離を取るので、これでは何時まで経っても距離が縮まらない状況である。
(うーむ、参ったな……何とかしないとまずい。何とかして奴の気を逸らす事が出来れば良いんだがな)
第三者から見れば何とも凄い地味なバトルなのだが、これは帝国の運命を決める戦いでもあるので決して気は抜けない。
まず、ヘーザに距離を取らせない様にする事がポイントだ。
距離を取らせない様にすればこちらにチャンスが回って来るので、そのチャンスを作らなければならない。
待っていては時間ばかりが過ぎて行く。
(どうする? 奴の気を逸らせる様なものがあれば使いたいのだが……)
そうしてふと視線を上に向けた途端、ある作戦がジャックスの脳裏を掠めた。
(あ……そうか、あれを使えば良いのか!)
そのある作戦を思いついたジャックスは、まずヘーザに向かって走り出す。
ヘーザはさっきと同じく弓を引き絞り、それを避けたジャックスは木の陰に隠れる。
しかしさっきと違うのは、その手に魔力を集約させている事だった。
(これでも……喰らえっ!!)
手の中に集めた風属性の魔術……風を使うウィンドボールが木の上目掛けて放たれる。
そのウィンドボールは木から伸びた幾つもの枝を切り裂き、それと同時に大量の葉っぱを地面へと撒き散らして行く。
「な!? うおああっ!?」
そして切り裂いた枝を生やしていた木々の内、その1本の陰からそんなヘーザの悲鳴が聞こえて来た瞬間にジャックスは駆け出していた。
その木目掛けて今度はファイヤーボールを撃ち出し、それに驚いたヘーザが飛び出して来るのを目で確認しながらジャンプ。
そのままドロップキックが彼の胸元に綺麗に決まり、ヘーザは背中から派手なリアクションで地面へと倒れ込んだ。
「ぐはっ!」
倒れこんだヘーザを素早くうつ伏せに押し倒し、懐から取り出した荒縄でジャックスは彼の両手首を縛り上げる。
更に両足も縛り上げ、これでこのバトルは終わった。
「く、くそっ! 僕をどうするつもりだ!?」
もがくヘーザを足の下に組み敷き、ジャックスは抑揚の無い声で返答する。
「これからどうなるかは俺達ではなくリュシュター陛下が決める事だ。まぁ、多分処刑されるだろうがな」
そしてヘーザを立たせ、広場の方へと向かって歩き出すジャックスであった。
ジャックスがヘーザと勝負している頃、別の場所ではパルスが黄緑の髪に青い上着の、カルヴァルと路地裏で密会していたあの男を相手にしていた。
ヴィンテスから聞いた話によれば、どうも私兵団の1人であるジレフィンと言う男らしい。
「山脈の登山道ではよくもやってくれたな。だが今回はそうは行かないぜ!」
「それはどうかな?」
斧を構えて向かって来るジレフィンに対して、短剣を武器とするパルスの方がこの状況では有利である。
コンパクトな大きさで立ち回りがしやすい武器なので、この狭い森の中ではジレフィンの使う明らかに斧より動きやすい。
が、相手もかなりの実力者である為に油断は禁物だ、と心に決めて掛かるパルス。
彼の使う短剣程では無いにせよ、斧もそれなりに小回りの利く武器だ。
この勝負はスピードとスピードの戦いだが、パルスにはもう1つの武器がある。
(攻撃魔術を使って、確実に勝利を収めに行ってやる!)
自分は攻撃魔術が使えるので、それも一緒に利用しない手は無い。
まずは相手の戦法をじっくり見極めて……と言うタイプでは無く、最初から全開で敵に向かって行くのがパルス流の戦いのスタイルだ。
一気にスピードを乗せて相手の懐へと飛び込み、壮絶な打ち合いを展開して行くパルスとそれに対抗するジレフィン。
威力としてはジレフィンの斧の方が当然高いので、パルスは短剣だけで無く蹴り技も併用する事によって互角の戦いを繰り広げる。
(スピードではこっちが上だ!)
斧よりも軽い短剣を使うパルスの方がスピードでは上回っているので、そこで追い詰めて行く作戦に出る。
だが、ジレフィンも無策で戦っている訳では無かった。
何度か打ち合いを繰り返した後、パルスの短剣を持つ手を取ったかと思うとその手を掴んだままパルスを遠心力を利用して振り回し木に激突させる。
「ぐほっ!?」
予想もしなかった攻撃に呆気に取られるパルスだが、これが逆に彼の闘争心に火をつけてしまった。
「そうか……そっちがその気なら、俺だって手加減する訳ねぇだろうがぁーっ!!」




