49.何でここに居るの?
また角笛の音が木々の間に響き渡り、それと同時に木々の間からワラワラとカルヴァルの私兵団部隊、それから王宮騎士団の騎士達が一斉に躍り出て来た。
「敵襲だーっ!! 総員、戦闘開始!」
ジアルの指示でこちらも戦闘モードへと突入し、一気にシュロウェンの森がバトルフィールドと化す。
ダリストヴェル山脈登山道の時と違うのは、木々の間から奇襲をかけられたりする事や弓で木の上から狙われる事があるかも知れないと言う事である。
「アーチャーが木の上に居る可能性もある! それから木の間からの襲撃には注意しろっ!!」
槍を振るって目の前の私兵団の兵士を薙ぎ払い、ジアルがそう叫んで隊員達に注意を呼びかける。
ヴィンテスもパルスも同じく警戒をしていると、そのジアルの注意が功を奏したのか木の上のアーチャーを発見してヴィンテスが撃ち落とし、木の陰からの奇襲にパルスが素早く対応して短剣を私兵団の兵士の喉に突き立てる。
更にラルソンはジアルと絶妙なコンビネーションを見せて行く。
槍よりリーチが短いロングソードをラルソンは武器で使うので、飛び掛って来る敵にはジアルが対応。
そして近距離から突進して来たり奇襲をかけられたりして、槍では戦い難いとなればラルソンがしっかり斬り捨てて行く。
そうして近距離、遠距離どちらにも対応出来る様にして、次々と襲い掛かって来る王宮騎士団の騎士、それからカルヴァルの私兵団の兵士を殲滅して進んで行く。
それを繰り返して森の奥まで進んで行けば、木々がうっそうと生い茂り更に敵襲が酷くなって来るがここも同じ様にして対処。
先程とは違ってもっと用心しなければならない分、進軍のペースが落ちてしまうがこれは仕方の無い事である。
「はぁ、はぁ、はぁ……あらかた倒したかな?」
「ああ」
が、彼等にはこの後思いもよらない事態が待ち受けているのであった。
幾多もの敵を倒し、やっとの事で敵襲が止んだと思えばもう目の前には休憩ポイントの広場が見えて来ていた。
「あそこの広場で休憩して、体力を少し回復させよう!」
ジアルの声を聞き、一同はどんどんその広場へと足を進めて行く。
だが良く見てみると、その広場の中央に人影がある事に気が付いた。
「ん?」
「おいちょっとストップだ! 誰かが居るぞ」
1歩1歩、武器を構えて近づいて行くラルソンとジアル。
そこに立っていたのは茶髪に青い瞳の男。自分達が兵士部隊に入る時に、忠誠を誓った男の側近がそこに居た。
「も、モールティ……様……!?」
まさかの宰相の登場に、驚きを隠せないラルソンとジアル。でも何故彼がここに居るのであろうか?
それを確認する為に、広場の中央へと足を進めようとする隊長と副隊長。
しかし、それモールティの鋭い声が静止する。
「こ、来ないで下さい!」
「え!?」
まさかの発言にぴたっと足を止める2人。
「な、何故ですモールティ様? と言うよりも何故ここに?」
そのラルソンの質問に、モールティは頭を横に振って答えた。
「陛下と一緒に誘拐されてしまったんです。それで進軍していた貴方達を追い抜かす為に馬車で先回りして来たので、今ここにこうして……。だけど、少しでも貴方達が近づいてこられたら私は弓で射抜かれてしまいます!!」
その発言にそれ以上進む事が出来なくなってしまった2人。
そして次の瞬間、その罠を仕掛けた張本人が姿を現した。
「やあ皆さん、この様な森の奥深くまでようこそ~!」
この気に触る喋り方は、先程ラルソンがジャックスと戦っている時に邪魔をして来たジェバーのものだ。
ジェバーは手を胸の前で揉み合わせながら、ニヤニヤとした笑みを浮かべてモールティの斜め後ろに立った。
「き、貴様!」
ヴィンテスが激昂するが、ジェバーはそんな事はお構い無しと言った表情だ。
「残念でしたね~? 皇帝陛下を助けに来た勇者さん達はここで進軍がストップしてしまう事になるなんて。うーん、私は悲しいですよ。こうして宰相を人質に取られて何も出来ない貴方達を見ていると悲しくて悲しくて……笑っちゃいますよっ!!」
はっはっはと高笑いをするジェバーに、怒りの視線が次々と突き刺さる。
だが次の瞬間、信じられない事が起こった。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
木々の上の方から悲鳴が聞こえて来たかと思うと、そのすぐ後にどさりとアーチャーが地面へと絶命して落ちて来た。
「な、何事ですっ!?」
ジェバーの注意がモールティから逸れたのを見逃さずに、ヴィンテスが彼の足元へ矢を射るのと同時にラルソンとジアルが駆け出す。
「はあっ!」
ジアルが槍をジェバーに向かって投げるが、すんでの所でかわされてしまう。その槍は後ろの木へと突き刺さった。
しかし、モールティからジェバーを遠ざける事には十分に成功したと言えるので、その隙にラルソンがモールティの身柄を保護した。
「くっ、くそっ!」
ジェバーは角笛を取り出して思い切り吹き鳴らす。すると先程と同じ様に私兵団の兵士と王宮騎士団の騎士達が現れた。
「まだ残っていたのか!」
「一気に片付けるぞ!」
シュロウェンの森の広場はバトルフィールドと化し、最後のバトルが始まった事をその場の誰もが確信していた。
(御前達にこのイディリーク帝国は渡さない! 絶対にだ!)
ラルソン心の中でそう決意すると、モールティから目を離さない様にしつつロングソードを構えた。
そして他のメンバーも、襲い掛かって来る襲撃者を相手にして交戦がスタートした。
この国の未来を決める大事な最後のバトルがこの瞬間、始まったのである。




